L6 半精霊化
「んじゃあたしは帰るね」
翌朝ミクは帰り支度を始めていた。
「昨日は本当にありがとう」
と私。
「お姉ちゃんありがとう」
「またね」
「また遊んでね」
「鳥さんとも遊ばしてね」
子供達も続く。
「うん♪また来るね」
そうしてミクはチカの足を掴み飛び立とうとした。
だが……。
ドーンドーンっ!
「えっ!?また?」
魔物達が再び押し寄せて来た。
「ちょっ!今は厳しいってば」
ミクが慌てる。
「どうしたの?」
「あたしって一対多数戦の時って弓使うんだけど、昨日の戦いで矢がないのよね」
「私も多数戦になると剣も厳しいね」
釣られてボヤき苦笑してしまう。
「あ~あ……こういう時にサラがいてくれたら助かるんだけどな」
ミクがボヤいてる間にも魔物達が迫って来る。
「私も魔法が使えたらなぁ」
また釣られてボヤいてしまう。
「そう言えば“アレ”って?」
昨日ミクが言ってた事を思い出す。
「アレねぇ~。アレ使うと、この家も吹っ飛ばすわよ」
それは困る。
でもアレってなんだろ?
少し気になる。
そうこうしてる間に魔物の群れが目の前に迫って来た。
私はミクから剣を借り、ダークから貰った短刀も抜き二刀流にした。
あまり得意ではないけど数を考えるとこっちのが良いだろう。
それに昨日の戦いで剣への恐怖はとっくに無くなった。
プシュプシュプシューンっ!
ブスブスブスっ!
ミクも槍で応戦し、二人で次々に魔物倒すが昨日と同じで数が多い。
「ルティナ魔法使ってみない?」
魔法?無理よ。
「む、無理よ。昨日言ったでしょう?精霊はもういないの」
「でもサラは使えた。それに言ってたじゃん。何からしらの理由で精霊が復活してるかもしれないって」
「そ、そんな事って……」
あり得ない。
だって確かに私達はラフラカを倒したのだから。
「あ~もう。やる前からなんで決め付けるかなぁ?物は試しって言うでしょう?」
ミクが呆れる。
確かにそうかもしれない。
ダメで元々。
試す価値は、あるかもしれない。
「わかったわ」
大きく息を吸い込み、右掌を前に突き出す。
『ファイヤー』
ボォ……っ!
あ、できた。
掌から炎が発せられる。
「ごぉぉぉ……」
その炎が魔物にあたり燃え上がった。
「……できた」
まだ信じられないという気持ちだ。
右掌をまじまじと見つめる。
「ほらできた。にしても今のはファイ?こっちではファイヤーって言うだね」
ミクが微笑む。
魔法が使えた。
それ即ち、理由はわからないが、私の魔導の力が戻ってる。
それならっ!
シュィィィ~ン!
私は宙に浮き身体が光輝く。
今の私ならきっと……。
「はぁぁ……」
ビリビリ……。
私の体の周りに電気みたいのが走る
そして身体が青白くなって半透明になって行く。
もう人間の姿ではない。
そうこれぞハーフの私だからこそなれる半精霊化。
「ひょぇぇ~」
ミクが腰を抜かす。
当然よね。
もう人間じゃなんだから。
「やったーママが変身したぞ」
「精霊化したママなら負けないね」
家の中から外の様子を伺っていた子供達が騒ぎ出す。
そう私は例えミクや他の者に化物と言われようが、この子達がわかってくれるなら、それで良い。
それだけで私は戦えるっ!
『最後の光、究極の光よっ!』
中に浮いたまま短縮詠唱。
半精霊化した私ならそれで十分。
『ファティマっ!!』
両掌を前に突き出す。
青いドーム状のものが魔物を中心に広がる
キュィィィ~ンっ!
ドームの中で光の柱がいくつも走る。
あらかじめドーム状にしているので範囲を指定でき余計なとこには被害が出ない。
こうして私は一気に魔物達を一掃した。
「あわわわ……」
ミクが驚きふためく。
私は地に降り、片膝をつく。
「ハァハァ……」
一年ぶりの半精霊化に短縮詠唱での究極魔法は流石にキツかったかも。
「あわわわ……あんた何者?」
ミクの声が震えている。
「ごめんなさい。実は私は精霊とのハーフなの」
「ひゃひゃはよぅ……ヒャーフ!?」
もう言葉となっていない。
当然よね。
私は他人から見ればバケモノなのだから。
「そう。私は精霊と人間の間に生まれた子なの」
もう彼女の顔を見れない。
きっと私を見て恐怖してるだろう……。
「か……かか、か……」
やっぱり怖がっているのでね。
ごめんね。
できれば知られたくなかった。
「かっ……かっこういい~」
「はっ!?」
今なんて言った?
思わずミクを見る。
なんか凄く目をキラキラしてるのだけど……。
もう眩しいくらいに。
「サイン頂戴♪」
「ふやぁ」
思わず間抜けの声が出してしまう。
いつの間にか色紙とペンを差し出してる。
私は一気に力が抜けて、半精霊化が解けた。
「あ~あ…元に戻っちゃった、せ~っかく恰好良かったのに」
心底残念そうな顔で見てきた。
「って、貴女ねぇーっ!!」
気付くと色紙とペンが私の手に……。
つい怒鳴ってしまう。
なんなのこの娘
昨日からこの娘のペースに振り回されっぱなし。
なんか苦手だわこの娘
「え?なに?」
まるでわかっていない
「だから……怖く……ないの?私の事」
声が震えてしまう。
「全然……それよりサイン」
あっけらかんと。
あーもう描けば良いんでしょう描けば
「私は人間じゃないのよ」
「だから?」
またあっけらかんと。
しかも真顔。
「だから、私は化物なのよっ!!」
ついムキになってしまう。
「半精霊ってだけで化物じゃないでしょう?それに化物だとしても悪い人じゃないじゃん」
「えっ!?」
思わず固まる。
なんでそんな割り切れるの?
なんで悪い人じゃないってわかるの?
「ねぇみんなー!ママって怖い?」
ミクが家に向かって叫んだ。
「ママは怖くないよ」
「だってママはママだから」
子供達が呟く。
それを聞き届けたミクが再び私の方に視線を向けた。
「逆に聞くけど、こんなにママ、ママって慕われているのに何故怖がらないといけないの?」
「そうだぞ。ルティナはいつも俺達を守ってくれる。それで十分じゃないか」
とディールの声も響く。
「そういう事♪」
ミクがにんまり笑う。
とても暖かくて優しい笑みに思えた。
「……ありがとう」
瞳から涙があふれる。
顔をくしゃくしゃにする程、凄い勢いでそれは押し寄せて来た……。




