L12 第三次精霊大戦
「とりあえずルティナは休め。昨日から戦ってたんだろ?」
「アーク……どうしてそれを?」
確かに私は昨日から戦い続けていた。
でも何故アークがそれを知ってるの?
それに随分人が変わったように思える。
エーコが記憶をなくしたって言ってたけど記憶をなくすと人格まで大きく変わるのかな?
それに小刀や小太刀ではなく普通の剣を使っている。
記憶をなくした影響?
わからない。
この魔物の襲撃も含めわからない事だらけだわ。
「後で説明する。そうだな……そこの奴」
そう言うとアークはディールを指出す。
「え? 俺?」
「ああ……ルティナを背負ってくれ。移動しながらいろいろ説明する」
「大丈夫よ。自分で歩ける」
そう言って体を支えてくれていたエーコから離れる。
「ダメだ。後々ルティナを戦力として計算する。だから今は休んでいてくれ」
戦力?
まぁこんな状況だもん。
また精霊大戦が起きるかもしれない。
それは良い。
ただやっぱり違和感がある。
アークが、こんなはっきりハキハキ喋るなんて……。
「そうだぞルティナ! 昨日から戦い詰めだったんだ。こういう時くらい頼ってくれ」
そう言ってディールが私の前で背中を向ける。
「……うん。ありがとう」
しぶしぶ私は従った。
「じゃあ移動しようかー。魔物除けのお香があるから楽に移動できると思うよー。道すがら私が説明するから、アークはたまに寄って来る魔物の相手お願いねー」
とエーコ。
魔物除けのお香。
これもエーコが師事してる人が作ったものかな?
準備良いわね。
そうして私達は移動を開始した。
しかし、子供達も疲弊してるので思うように移動できず直ぐに野営をする事になった。
「それで説明してくれるかな?」
ディール夫妻や子供達を寝かせ、私とエーコとアークで焚火を囲いエーコに話しを振った。
「うーん…私もはっきり状況はわかんないんだけどー」
エーコが考えるように語り始める。
「アークがエドおじちゃんの依頼でとある屋敷を調べたのー。そこで爆発に巻き込まれ記憶をなくしたんだー」
「……爆発」
記憶をなくしたとは言え、アークはこの通り無事みたいね。
「それで、意識を失う直前にルティナお姉ちゃんのとこに魔物の大群を集めるとか、他にもいろいろ言ってたのー。ただ、詳しく聞こうにも次に目覚めたら記憶をなくしてて、よくわかってないのー」
「じゃあ昨日襲われる事も事前にわかってたんだ?」
「ああ (……という設定です。エーコとそこは口裏を合わせてるんだな~)」
とアークが頷く。
「他にもいろいろとは?」
他にもって事は私以外にも危険な人が?
「例えばロクリスを罠にはめるとか、アルフォンス城とフィックス城を戦争させるとか、ムサシおじちゃんをクロード城で監禁するとかー」
「なっ!」
何なの?
頭が追い付かない。
一度にそんな事が起きるなんて……。
あっちもこっちも大変な状況ね。
だからアークとエーコしか来れなかったのかな?
「他は大丈夫なの?」
心配なのでとりあえず聞いてみよう。
「一応手は打ったけど上手く行ったかは今は確認できない。みんなでフィックス城に集まるようにはしてるんだけどー」
「そう」
手は打ったのね。
「それとごめんねー。本当は昨日到着する予定だったんだけどー。動物除けのお香が効果なくてー狂暴の動物がどんどん寄って来ちゃったんだよー。それで思わぬ足止めくらっちゃったー」
確かに魔物が現れる直前に沸いた動物にはあのお香が効かなかった。
「私もエーコから貰ったお香効かなくて苦労したよ」
「狂化される直前だったからかなー?」
そうかもしれない。
今思えばあれは魔物に変異する前兆だったんだ。
「それよりルティナは寝た方が良い。疲れているだろ?」
話が一区切りついたとこでアークが気遣うように声をかけてくれた。
正直やりづらい。
こんな気が効く人じゃなかったのになー。
「……どうした?」
私が黙ってアークを見ていたせいか、アークが首を傾げる。
「……いや、私も見張りをと思って」
咄嗟に誤魔化す。
正直なとこもうさっさと倒れたい。
「エーコと交代でするから平気だ。明日また詳しく話すが、ルティナの力を当てにしてるんだ。ゆっくり休んで、少しでも早く回復してくれ」
長文!?
あのアークが、スラスラ長文を言ったよ。
前は要領得ないというか途切れ途切れだったりしてたのに……。
「わかったわ。じゃあアーク、エーコ宜しくね。正直なとこもう限界だったんだ」
「ああ」
「わかったよー」
そうして私は泥のように寝た。
夢なんて一切見なかったと思う。
ただ起きたらディールに背負って貰っていた。
いつの間にか移動を開始していたようだ。
「あ、ルティナ起きたかい? おはよう。昨日はお疲れ様。助かったよ」
ディールがそう言いながら私に向かって振り返って来た。
顔近い。
貴方カタリーナがいるでしょう?
そんな顔近付けないでよ。
「うん、おはよう……あ! アーク! 昨日の事だけど私の力を当てにしてるってどういう事?」
誤魔化すように近くにいたアークに声をかけた。
それにしても体中が痛い。
昨日は戦い続けてたせいなのか、ギリギリ動く事はできたけど、張り詰めてた糸が切れたのかな?
ディールには悪いけど、このまま背負って貰うしかないわね。
「ん? ああ……説明するより見た方が早いだろ」
「どういう事?」
「まぁサウスパラリアに到着して、実物を見て貰ってから説明するよ」
「わかった」
まぁサウスパラリアに到着したら説明してくれるなら良いか。
「にしてもあれだな……」
アークが何か言い出す。
「これって第二次精霊大戦って言うのかな?」
「第三次よ」
咄嗟に返してしまう。
やば!
今のアークは記憶がないんだった。
「えっ!?」
案の定驚いてるな。
やってしまった。
「確かに第三次と言えるのかなー?」
エーコが可愛らしく人差し指を口元に当てながら呟く。
「どういう事だ?」
「記憶をなくす前のアークが過去改変をして第二次精霊大戦事態が起こらなくなったんだよー」
「はぁ!?」
アークが素っ頓狂の声をあげる。
ふふふ……。
それは驚くよね。
「……エーコ、大丈夫か?」
アークが可哀想な子を見るような眼差しをエーコに向けた。
「いや事実だからー」
「どうやって俺は過去を変えたんだ?」
「時の精霊の力を借りてかなー?」
エーコがそう説明する。
実際には違うんだけど多少助力を得ているから完全に嘘ではないのかな。
時空の穴が空いていたから、アークがそこに飛び込んだのだけど、それこそ何言ってるんだ? って言われそうね。
「なるほど……そういう事もあるのか。異世界では……」
アークが何かボソボソ言ってるけどよく聞こえなかった。
「でもそれだと俺が過去に言って歴史を変えたって事だよな?」
「そうなるねー」
「何でそれを2人が知ってるんだ? 俺が話したのか? 信じられない事だから俺は言わなそうだけどな」
「うーん……厳密には私はほとんど知らない。時の精霊の力で、そういう事実だけは知ってるってだけかなー」
正確にはアークとかかわった事だけを全てを覚えていたのよねエーコは。
「じゃあみんな知ってるのか?」
「時の精霊の力で知ってるのは私とナターシャお姉ちゃんだけだよー」
「これはまたドンピシャで、一緒に住んでるな」
「正確には、それを知ってるから一緒に住むよになったんだよー」
「なるほど。エーコが俺の娘だからって理由じゃなかったのか」
確かに普通はそう思うよね。
「それも理由かなー」
「それで2人はそれを知ってると言ったがルティナは?」
私はエーコやエーコが師事してるナターシャさんと違って全部覚えているんだけどね。
「時の精霊の力で、それを知ってるのは私とナターシャお姉ちゃんだけ。ルティナお姉ちゃんは自らの力で知ってるのー。それも私達みたいに曖昧にじゃなく全部ねー」
「なぁ……何の話をしてるんだ?」
ずっと私を背負ってるディールが振り返り聞いて来た。
だから顔近いってば。
「私が特殊な生まれのせいで、普通じゃ知りえない事を知ってるって話よ」
「そういう事か」
ディールにはこれで大体伝わる。
「何だそれは? ルティナ、本当か?」
「えっ!? 何の話?」
途中から話を聞いていなかったからわからないわ。
「ルティナの片親は精霊なのか?」
「ああ、その話ね。そうよ」
そう私の父親は精霊で、そのお蔭なのか第二次精霊大戦の事は全て覚えている。
ただ一度、全ての精霊が消えた事で、私の中の精霊の力はないのよね。
「それはまたレアだな」
なんか凄く驚いているわね。
こういうアークも新鮮かも。
って言ったら失礼か。
好きで記憶をなくしたわけじゃないし。
そうしてアークとエーコが助けてくれた2日後、私達はサウスパラリアに到着した。
私の体も2日でようやくまともに動くようになった。
よっぽど酷使していたのかな?
で、サウスパラリアで待っていたのは巨大な山。
あんなとこに山なんてなかったよね?
何なのあれ?