93話 撮影会ですが脈ありでしょうか?
「3階の313号室……ここだな」
俺は、扉の前に立ち、部屋の番号を確認する。
ここが、楓の家か……なんか緊張するな。
大きく深呼吸をして、インターホンを押した。
すると、足音がこちらに近づいて大きく聞こえて来る。そして、ガチャと扉が開いた。
「なんでお前がいるんだ?」
「……おいらもわからないでやんす」
そこには、あの時のスネ夫がいた。
なんか疲れた顔してるなこいつ。
「神奈月先生から勝手に入っててと言われてるでやんすからどうぞ中に」
「そうか、お邪魔します」
初めての彼女の家をスネ夫に案内されるとは思っていなかった。
俺は、少しショックを受けつつも、リビングに入り、木製の椅子に腰掛けた。
「つーか、楓は外に出てるのか?」
「神奈月先生は、部屋で紫陽花殿にメイド服を着せてるでやんす」
「まじかよ、着替えてるからお前がこっちにいるのか」
「それもあるんでやんすが、あの女子特有のふわふわ空間にいるのが耐えれなくなったでやんす」
「お前、異性に免疫なさそうだもんな」
「その通りでやんす、いつか克服できるようになりたいとは言ってましたでやんすが、まさかこんな荒療治だとは思ってなかったでやんす」
「蓮華にやられたみたいだな」
「気にしてくれるのは、ありがたいでやんすが、今回のは悪意を感じるでやんす!お返しにピンクのめっちゃくちゃ可愛いメイド服着せてやるでやんす!」
「ははっ……あいつがピンクの……ぶはっ、お前天才だな」
「おお、桔梗殿も賛成でやんすか!」
「まぁな、俺にやったらただじゃおかん」
「大丈夫でやんす、桔梗殿はふつうのメイド服を用意しておくでやんすよ」
「ふつうの奴も嫌なんだけどな、適当に着ればいいか」
「駄目でやんすよ、女装する時は思いっきり全力でやらないと余計気持ち悪く見えるでやんすから」
「なにお前、経験者なん?」
「それは……深く聞かないで欲しいでやんす」
「お前も大変そうだな……お互い頑張ろう」
「はいでやんす!」
「あら、2人ともそんなに仲良かったの?」
俺達の話に、楓がぬるっと入ってきた。
楓は、引き戸から出てきて、キッチンに入ってお茶を入れ始めた。
「おっす、こいつが女子が苦手だって話を聞いてた」
「そうなの?てっきり重度の人見知りかと思ってたわ、なら女子3人の空間はキツかったでしょう?悪かったわね」
「ああ、いえいえお気になさらずにでやんす!」
「……なんでそんなに怯えてるの?」
「やっぱり、楓の魔王みたいなオーラが見えるんだよ」
「私をいかついモンスターみたいに言わないでよ、こんな小柄でか弱い女の子なのに」
「それはもしかしてギャグで言っているのか?」
「小金井君、ピンクのメイド服1着追加でよろしく」
「楓は、優しくてか弱い女の子です!めちゃくちゃ可愛い女の子です!」
「ふふっありがと、はい冷たい麦茶よ」
「またありがとうでやんす」
「さんきゅな」
「そういえば、紫陽花殿はもう着替えたでやんすか?」
「そうよ、今は本人の心の準備を整えてるわ」
「心の準備?何かするのか?」
「撮影会をしようと思ってね、小金井君、カメラ持ってる?」
「そういうことならばお任せを!一式用意しているでやんす!」
「なんで持ってきてるのさぁ!!出ないと行けないじゃん!!」
引き戸の奥から紫陽花の声の大きな声が聞こえる。姿は見えないが、不満そうに唸り声を上げてるのが聞こえる。
「ということだから、貴方に逃げ道は無いわよ」
「なんで、私の写真が必要なのさ!」
「そりゃ、ビラに紫陽花のメイド姿を付ければ、そこら辺の男なら釣れるからね」
「楓ちゃんでも向日葵でもいいじゃん!」
「私がやったら、ロリコンが集まって来そうだし、向日葵ちゃんがやったら影響力が凄そうで事件が起こりかねないし、つまり貴方が適任ということよ」
「ううっ……あんまりだぁぁ!!」
「さぁ、観念して出て来なさい」
「……分かったよぉ」
部屋の引き戸が、ガラガラと開き、そこから紫陽花が現れた。
白と黒の典型的なメイド服、フリフリのメイドカチューシャ、真っ黒なニーソックス、どれも凄く似合っていている。
紫陽花は、恥ずかしいそうにジトッとした目でこちらを睨んでいる。
これは、蓮華みたら発狂しそうなレベルだな。
「笑いたきゃ笑うがいいさ!」
「普通に可愛いぞ」
「紫陽花殿、めちゃくちゃ可愛いでやんす!」
「ああ……もう可愛いっていうな!恥ずかしいでしょうが!!」