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91話 女子の家ですが脈ありでしょうか?


 写真部部長、紳士会参謀担当、2年小金井 聡(こがねい さとし)

おいらは今、窮地に追いやられたでやんす。


「紫陽花さん、これなんかどうでしょう?」

「紫陽花、こっちもどうかしら?」

「やめいやめい!そんなふわふわキャピキャピした服、私に見せるんじゃない!」

「コスプレなんてそんなものよ」

「そうですそうです!折角の文化祭ですし、飛び切り可愛い服にしましょう!」

「やめてぇ!!ちょ!脱がすな!男子いるっての!」


 この女子のキャピキャピ空間に、おいらは居づらいでやんすよぉぉぉ!!


〜遡って5時間前〜

 土曜日の休みにおいらは、会長にコスプレの服の件で呼ばれてとある場所に来たでやんす。

 その場所は、なんと会長が神奈月先生と言われていた方の家だったでやんす。

 その事実に気づいたおいらは、全身から鳥肌が立ち昇る、体を震わせたでやんす。だって、その人がどんな人かとかそんな事は、どうでもいいでやんすが、重要なのは女の子の家だと言う事でやんす! 今までこの17年、彼女はおろか異性とほとんど喋ったことのない、陰キャのおいらにとってそれはただの恐怖でしかないでやんす!

 おいらは、急いで会長に電話をかけ、助けを呼んだでやんすが、会長は


「大丈夫!神奈月先生はいい人だから、いい機会だし、話し相手になって貰え!」


と言って電話を切やがったでやんす!

 どうしよう! どうしよう! このまま、帰ってもバレないでやんすよね?

 おいらは、そぉ〜とその場を去ろうとしたでやんすが、その後ろには紫の髪の女性がいたでやんす。

 

「……すみませんでやんす」


 おいらは、そう言ってすれ違おうとしたのでやんすが、手首をガシッと掴まれたでやんす。

 その瞬間、背筋が凍りついたように動けなくなってしまったでやんす。しかし、初めて女の子に触られて嬉しかった気持ちもあり、おいらの頭の中は大混乱を起こしたでやんす。


「ど、どっどどどうして止めるんでやんす?」

「えっーとね、友達から語尾にやんすが付いてる子が、来たら逃すなって言われたからね」


 あの変態野郎! ここまでの展開を読んでやがったでやんす! クソっ! 今頃、挙動不審のおいらを想像して、笑ってやがるでやんす!


「君が、小金井君でしょ?私は、水無月 紫陽花、よろしくね!」

「よっよ、よろ、よ、よろひぬでやんす!」

「……ふふっ」


 ……最悪でやんす。

 あんだけ散々どもって、挙げ句の果てにたった4文字を噛むなんて、穴にあったら入りたいでやんす。


「落ち着いて落ち着いて、ほらゆっくり深呼吸してね」


 紫陽花殿は、おいらの背中を優しく撫でながらおいらを落ち着かせてくれたでやんす。

 なにこの天使、こんな女性がいるなんて知らなかったでやんす。

 流石は、会長が認めた人でやんす。


「……ありがとうでやんす」

「さっきは、なんで逃げようとしてたの?」

「そ、それは……あの……その……女の子の家に入るなんて初めてでやんすから、その勇気が出なくて……」

「なるほど、じゃあ私と一緒に入ろうか!」

「えぇぇ!!なんでそうなるでやんす!」

「ほらほら、赤信号みんなで渡れば怖くないっていうじゃん?」

「それは、真似したらダメなやつでやんすよ!」

「うるさぁい!いいからついてくるんだよ!」

「ぎゃぁぁぁ!!」

「2人とも、人の部屋の前で騒がないでくれるかしら?」


 ふと気がつくと、その家の前に小柄な女性が腕を組んでたたずんでいたでやんす。

 その小柄な体とは、裏腹にとても力強い何かをおいらは感じていたでやんす。言われなくてもわかる、この方が神奈月先生だと。


「楓ちゃん!おはよぉぉ!!」


 紫陽花殿は、ものすごい勢いで神奈月先生に抱きついたでやんす。

 今時の女子は、この位のスキンシップは当然なのでやんすか? 女子は怖いでやんす……。


「おはよ、相変わらず、元気が有り余ってるようね紫陽花」

「私から元気を取ったら何も残らないからね!」

「そうね」

「えぇぇ!!そこはそんな事ないよって言ってくれないの?」

「私、嘘はつかないから」

「酷っ!って言うかそれこそ嘘じゃん!」

「貴方が、蓮華君の言ってた小金井君ね、話は聞いてるわ、どうぞ上がって?」

「あっ……失礼しますでやんす」


 神奈月先生の圧倒的な風格に、おいらは断ることが出来ず、家にお邪魔したでやんす。


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