90話 紳士会ですが脈ありでしょうか?(2)
「お前も楓に脅されたのか!」
「違うよ、紫陽花に私の服を選びたいのならメイド服を着たらいいよと言われたからさ……」
蓮華は、大事な何かを失ったような表情で、虚空を見つめていた。
俺は、立ち上がって蓮華の肩に手を置いた。
「……俺達は1人じゃない、そうだろ?」
「……ありがとう」
俺達は、強く握手を交わした。
その後、蓮華は元の席に戻った。
「では、気を取り直して会議を続けようか」
「はい、次の議題は修学旅行についてでございます、それではこの画面をご覧ください」
パワーポイントが、再び動き出し、そこには『第2回楽園侵攻作戦』と書かれた画面が映った。
「修学旅行における重要作戦、第2回楽園侵攻作戦についてお話しいたします」
「お前ら、またやんのかよ?」
「桔梗殿、愚問でございやんすよ」
「その通りでございます、楽園への到達こそ、我が紳士会の悲願です」
「そこに楽園があるのなら、行くしかあるまい」
「なんか大層な言い草だけど、単に女子風呂のぞくだけだろうが」
「そのような低俗な言い方は、やめて欲しい、まるで俺達が女子の裸を見たいと言ってるようじゃないか」
「いや、その通りだろ!」
「チッチッチッ、桔梗殿はちっとも分かってないでやんす」
「私達は、そんな上辺だけのエロではなく、その根底にあるエロスを求めているのです」
「まぁ、2人とも落ち着きたまえ、いずれ桔梗君もわかる日が来るさ」
「絶対わかりたくねぇ〜」
「さて、少し話が脱線したな、本題に行こうか」
「分かりました、私達、調査班の報告ですが、今回の旅行先は、京都ということが分かりました」
「それで、宿泊する所はどこでやんす?」
「宿泊先は、最寄り駅から歩いて約15分のみつい旅館です、4階建ての木造建築です」
「調査班、有益な情報をありがとう、それでは前回のおさらいをしようか」
「それでは、画面をご覧ください」
パワーポイントの画面が切り替わり、次は『第1回楽園侵攻作戦レポート』という文字が画面に出た。
そして、剛力が手配りで写真でわかりやすくまとめた資料を全員に配った。
「前回の戦績ですが、全参加者30名に対し、死者10名、意識不明者5名、重傷者13名、到達者2名となっております」
「えっ?死者出てんのこれ?」
「本当に死んだ訳ではないよ」
「じゃあどういう事だよ?」
「まぁ、直にわかるさ」
いや、わからんわ。
なんか、重要な所をはぐらかしてんだよなこいつ。
「到達者2名でやんすか、まだ入学して間もない林間学校でここまでの戦績なら、今回の作戦はより良い結果が期待出来そうでやんすね」
「しかし、死者や重傷者が圧倒的に多い、今回の作戦に参加してくれる者が少なくなってしまうかもしれないな」
「会長、その心配には及びません」
「……剛力、今回の参加者はどれくらいだ」
「今の所参加者は、72名です」
「おおっ、前回の倍でやんす!」
「高2男子全員の約8割か、素晴らしいな」
「前回死者となって悔しい思いをしリベンジに燃える者や、今回から興味を持って参加してくれる者も大勢いらっしゃいます」
「そうだな、今回の作戦は是非到達者が増えることを願うばかりだ、そこで強敵について今一度、皆に確認しておきたい」
「はい、前回、行手を阻む強敵2人になす術なく、私達は敗北してしまいました、まずは、その1人『原 栄子』について説明致します」
「説明しますって、うちの担任だろ?」
「その通り、私達3人のクラス担任であり生徒指導の先生です、豊満なボディと元柔道部で鍛えられた体が主な武器です」
「要するに、デブ」
「やめるんだ、もし原に聞かれていたら殺されているぞ?」
「その通りです、豊満なボディもしくは肉付きが美しいと言ってください!」
「うん、お前らも十分な悪口を言っているぞ」
「その他にも『三十路』『アラサー』『結婚』『婚期』などの単語を使うと暴走するのでくれぐれも言葉には、気をつけてください」
「めんどくせぇなぁ〜」
「次に、もう1人の強敵『石綿 鉄』、この先生は、生徒指導のトップであり、ゴリゴリの体育教師です」
「ワタポンに捕まえられたら、問答無用で勉強させられるから要注意だな」
「あの先生によくワタポンってあだ名つけれるよなお前」
「まぁ、昔遊んで貰ってたからな」
「へぇ〜そうなんだ」
「さすが会長です」
その後も、会議は進んでいき、終わる頃にはすっかり暗くなっていた。
俺は、ようやく席から解放されてググッと背筋を伸ばした。
「遅くなりすぎたな、ごめんけど俺は先に帰るな〜」
「はい、また学校で」
「さよならでやんす〜」
蓮華が足早に部室から出て行った。
俺もそれに続くように部室を出ようとすると、ついさっき同じように握られた感触が手首に感じた。
「桔梗さん、後日お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」