89話 紳士会ですが脈ありでしょうか?
新学期初日の放課後、俺は蓮華に写真部の部室に呼ばれていた。
部室に到着すると、写真部の引き戸に『紳士会』と書かれた紙が貼られている。
はぁ〜薄々何の用事が、分かった。
よし、帰るか。
俺は、踵を返して帰ろうとすると、何かに手首を掴まれた。
「桔梗さん、お待ちしておりました」
「……剛力、この会議に俺いる?」
「勿論ですとも!さぁ、どうぞ!」
剛力の言葉遣いは、非常に丁寧だがそれに反するように、太くゴツい右手がガッチリと掴み、強引に引っ張られ部室に入れられた。
部室は、カーテンが閉められていて薄暗い。
長机が四つ四角に囲まれていて、その中央に小さい机が置いてある。一つの長机ごとに一つずつ席が用意されている。中央の机の上には、授業で使うような簡易プロジェクターがある。
そして、1番奥の長机に、蓮華が座っていた。
似合わないサングラスをかけて、いかにもボスみたいな胡散臭い雰囲気を出している。右の方にゴリラみたいな体格の同級生の剛力が座り、左の方にスネ夫みたいな顔の知らん奴が座っていた。
俺は、1番手前の空いてる席に座った。
「遅いぞ、リア充二等兵」
「誰がリア充二等兵じゃ、こら」
「会長、桔梗さんをいらした事ですし会議を始めましょうか」
「そうだな剛力、進行を頼む」
「はい、それではこの会議の進行を、副会長、私剛力 一が務めさせて頂きます」
剛力が、パソコンをカチャカチャと操作し始めた。
すると、簡易プロジェクターから光が出て、壁にパソコンの画面が映った。
「それでは、第4回紳士会活動会議を始めます」
パソコン画面が切り替わり、パワーポイントが動き始めた。
「今日の議題内容は、一つ目に文化祭の出し物、二つ目に修学旅行の計画、となっております」
「文化祭については、俺から話がある」
「では、会長どうぞ」
「うむ、前回の会議でうちのクラスの出し物を、メイド喫茶にしようと言っていたな」
「そうでやんすね、会長の指示通りメイド服の製作は順調に進んでやんす」
「その件で、小金井に本当に申し訳ないのだが、変更をしたいんだ」
「な、なんででやんす!会長もメイドの良さを分かってくれたんじゃあないでやんすか!それに、今から作り直すのは、おいら1人じゃ文化祭に間に合わないでやんすよ?」
「俺の友人であり、桔梗の彼女にもあたる神奈月先生から申し出があってな、コスプレ喫茶がしたいそうだ」
「「なん……だと……」」
剛力と小金井って奴が目を丸くして、その場で動きを止めた。
「間に合わない問題は、神奈月先生が直々に手伝いに来てくれるから問題ないと思う、それでも間に合わないようなら向日葵にも協力を願うが、どうだろう小金井君?」
「……そうでやんすね、作ったメイド服も無駄にはならないでやんすし、他の服を作るのも楽しそうでやんすね、そういうことなら了解でやんす」
「私も、異議はありません、可愛い女の子を見られるのなら問題は無いかと」
「そうか、それなら良かった、それと桔梗、お前も当日メイド服だ、では次の議題に移ろう」
「はい、次の議題は……」
「おいおいおいおい!!!なにしれっと特大級の爆弾発言してんだこら!」
さりげなくない言ってんだこいつ!
そんなのやるわけねぇだろうが!
「桔梗、これは決定事項だ、俺に文句を言ってもどうにもならない」
「決定事項ってどういうことだよ!」
「期末のあれ」
「期末のあれってなんだ……よ……」
俺は、蓮華の言っていることに気がつき、徐々に額から汗が流れて出した。
「どうやら気がついたようだな」
「……クソッ!なんて日だ!」
長机に顔を埋めて、右の拳で何度も振り下ろした。
畜生、ポイコットしようものなら、なにされるかわかったもんじゃない。本当に逃げ場所が無いじゃねぇか!
すると、肩にぽんぽんと叩かれる感触がした。
振り返ると、同情するような目をした蓮華が近くに来ていた。
「同情はいらねぇよ!精々俺の醜態を嘲笑うこった!ふん!」
「同情ではないよ友よ」
「同情じゃない?じゃあなんだよ?」
「同じ境遇同士、共に頑張ろう」
同じ境遇同士?こいつ……なに言ってるんだ?
はっ!まさか!
「お、お前、まさか……」
蓮華は、安らかな諦めの表情で静かに言った。
「俺もメイド服だ」