88話 神奈月先生ですが脈ありでしょう?
「絶対にイヤだ!」
「ほうほう、詳しい理由を聞こうか神奈月さん」
「蓮華君ならそう言ってくれると思ったわ」
「ちょっと!勝手に話を進めないでよ!」
私は、私の反論を完全に無視して、話を進めようとする2人を必死に引き止めた。
蓮華のメイド喫茶より、タチが悪いよ!
また楓ちゃんのことだから、去年のコミケみたいに過度に露出した服を、着させられるに決まっている! 絶対に認めません!
「貴方に拒否権は無いわ」
「ええ!!なんで!?」
「期末のあれ、まだやってもらってないわよね?」
「うぐっ、覚えてたか」
「当然よ、それに貴方にとっても悪い話じゃないわ」
「どういう事?」
「十中八九、このままだとクラスの変態をまとめる蓮華君の案がほぼ確実に通ることでしょう」
「……確かに」
「変態をまとめるって、人聞きが悪いなぁ」
「紫陽花は、それが嫌なんじゃないの?」
「その通りだよ!でも、メイド喫茶もコスプレ喫茶も対して変わんないからどっちもイヤだよ!」
「コスプレ喫茶なら、蓮華君にも貴方の好きな服を着させられるのよ?」
「つまり、どういう事?」
「要するに、恥ずかしい格好要求されたら、仕返しが出来るってことよ」
「なるほど……その発想は無かったよ」
「どうせ紫陽花が、何言ったところで結果は変わらないんだし、それならみんなでその状況を楽しんだ方がいいでしょ?」
「ふむふむ、でも肝心の服とかはどうするの?」
「それは、私が作ろうと思ってるし、蓮華君もメイド喫茶やろうとしてたのなら、アテがあるんじゃない?」
「流石神奈月先生、なんでもお見通しだな、俺はコスプレ喫茶でもいいよ」
「紫陽花は?」
「むぅ〜っていうか、なんでそんなにコスプレ喫茶したいの?」
「今回の夏休みは予算不足でコミケに行けなかったから、コスプレ見たい欲が溜まっているのよ!」
「ふむふむ、それで私に着せたかった服を着さそうという魂胆なのか」
「まぁそうね、紫陽花お願い!」
楓ちゃんは、私に近づいて手を合わせいる。
うるうると涙目と上目遣いのコンボで、非常に可愛い。
「……分かったよ」
「良かった、ありがとう」
「その代わり、楓ちゃんと蓮華のコスプレは、私が決めるよ!」
「そのくらいならいいわ」
「えっ!俺もするの?」
「人にメイド服着さそうとしてる奴に、拒否権は無いよ!」
「たまには、蓮華君も紫陽花の気持ちを体験した方が良いわよね?」
「いや……その?俺には、コスプレとか似合わないと思うんだよね?ねっ?」
蓮華は、額に汗を滲ませて後退りをしている。
それを逃さない形で、私達がじりじりと近づいていく。
「……」
「……」
「お〜い、なんで2人とも黙ったまま近づいてくるんだ!怖い怖い!」
「……紫陽花」
「あいよ!」
私は、すかさず蓮華を羽交い締めして、動きを止めた。
「いやいや、俺何されるんだ!いやちょ!神奈月さん近い近い!」
楓ちゃんは、蓮華の耳にイヤホンを装着した。
そして、ニコッと微笑みながら、そのイヤホンが繋がっている、ボイスレコーダーのボタンを押した。
少しの沈黙の後、蓮華は静かに涙を流した。
「……やめてくれぇぇ、殺してくれぇぇ!」
「一体、何を聞かせたの?」
「それは、蓮華君のメンタルが持たないだろうし、言わないでおくわ」
その後、蓮華は驚くほど素直に言うことを聞くようになった。
楓ちゃんを敵に回す事の恐ろしさを改めて実感した瞬間であった。