79話 今更ですが脈ありでしょうか?
神奈月は、バケツから袋詰めされた花火を取り出した。
よく見る平べったい袋じゃなく、筒状の袋に入った袋がバケツの中から出てきた。
しかも、3セット分。
こいつ、どんだけ楽しみにしてたんだ。
神奈月が、慣れた手つきで中から花火を取り出す。
「最初は、これにしましょうか」
神奈月は、細い棒状の先端にひらひらがついてる花火を取り出した。
「やっぱり、花火ったらこれだよな」
「ちなみにこれなんて花火が知ってる?」
「え?名前か、そういえば考えた事も無かったな……棒花火とか?」
「残念、正解はススキ花火って言うのよ」
「へぇ〜そうなのか、よく知ってんな」
「これくらい常識よ」
口ではそう言いながらも、どこか誇らしげな神奈月。からになったバケツに、海水をすくい入れて、早速ススキ花火に火をつける。
シジッっと音を立てて、白い煙が先端からモクモクと立ち昇る。
そこから、バチバチと激しく音が変化して赤と黄色の閃光が飛び散る。
「綺麗だな」
「そうね、定番なんだけど飽きない美しさだわ、途中で色が変わったり、金属のラメが出るものもあってバリエーションも豊かだしね」
「おお、そんな事言ってたら、本当に色変わった」
「でも美しさと同時に、儚さも感じるわ」
「儚さ?」
「そう、美しく光り輝くけど、その時間はすごく短い、そうまるで……」
「一発屋の芸人みてぇだな」
辺りが、静まり返った。
寂しく火花の音だけが、響いている。
「……えい」
「あっつ!」
神奈月は、火花が消えて煙だけが出てる花火の先端を、太ももに押しつけてきた。
ええ!なにこの子、自然な流れで根性焼きしてきたぞ!
「やめろ!お前はヤクザか!」
「はぁ……全く、人が風情を楽しんでるのに、真っ向からぶちこわさないでよ」
「俺は、そういうのよくわからないからな」
「一緒にやる相手を間違えた気がするわ」
「そんなつれないこというなよ、よし次の花火を出そうぜ」
「……次は、これにしましょうか」
神奈月は、丸く捻られた花火を取り出した。
その花火の出っ張り部分に火をつけて、俺めがけて投げてきた。
「あつ!え、ちょこれねずみ花火だろ!なに人に向かって投げてんだ!」
「気を抜いてると、当たっちゃうわよ?」
「あつっぁ!」
「ふふっ、まるでシンデレラの王妃みたいね」
「俺の無様を楽しんでんじゃねぇ!」
それからも、2人でいろんな花火で遊んだ。
いや、途中から遊ばれてたと言った方がいいか。
とうとう、最後の花火になった。
最後に残ったのは、小型の打ち上げ花火だった。
「3セットもあったのに、意外と早かったな」
「そうね、打ち上げ花火は、近所迷惑になりそうだしやめて、ここで終わりにしましょうか」
「ん〜いや、やろう」
「え?」
「やろうぜ!」
「私の話聞いてた?」
「おう、でもやろうぜ!」
「はぁ〜あのね、そうやって迷惑を考えない奴が、私達花火好きの肩身を狭くしてるの、わかる?」
「大丈夫大丈夫、バレないバレない」
「あの大音量で、あの光の大きさでバレないわけないでしょう!花火舐めんな!」
「ははっ確かにそうだな、でもよ〆は、打ち上げ花火で終わりたいよな?それが、風情ってやつじゃないのか?」
神奈月は、少し考えた後、静かに大きなため息をついて返事した。
「はあぁぁ……良いわよ、そこまで言われたらやってやろうじゃない」
「おう!その調子だ、たまには優等生やめちまえ!」
俺は、海辺の近くに小型の打ち上げ花火を設置する。導線に火をつけて、急いでその場を離れる。
「よし、来るぞ!」
「なんかスリルがあって、ワクワクするわね」
導線が遠くから見えなくなり、少しの沈黙が流れる。数秒の沈黙、そのはずなのに長く感じる。
ゴクリと喉の鳴る音が、聞こえる程の静けさから、それは唐突にやってくる。
激しい爆音を飛び散らせ、光の塊は空中を泳いでいく。そして、一瞬光の塊は姿を消して、次の瞬間その暗闇から何十倍の大きさで、夜空を彩る。
それは、言ってしまえばただの光。
どう取り繕ってもそれは変わらない。
でも、それのどう受け取るかは、人によって変わる。俺も綺麗だと思うが、それ以上の感想を上手く言えない。
しかし、少なくとも俺の隣にいる女の子には、どんな高価な物より価値があるものだと、受け取っているだろう。
その黒く光り輝く瞳で、綻ぶ表情で、受け止めている事だろう。
はぁ、情けねぇな。
本当に情けねぇ。
今更気づいて、今更隣に居座って、俺なんか居なくても十分魅力的になった彼女に、怖気づいて何も出来ないなんて。
俺は、あんな事言っておいて、ほったらかしにしてしまった。
だからこそ、ここで決着をつける。
あんだけ蓮華に、格好つけてた癖に情けないな。
でもいいんだ、俺は格好悪くてもここで決着をつけないといけない。
それが、楓との約束だから。
「楓」
「……なによ?」
俺は、彼女を抱き寄せ頬にそっと唇を添える。