69話 ショック療法ですが脈ありでしょうか?
私は、悩んでいます。
蓮華様とまともに話せない事です。
一時的に少し回復したのですが、風鈴君との件でまた余計に悪化してしまいました。
本当に我ながら自分の誤ちが恥ずかしい限りです。
今となっては、蓮華様の顔を見るだけで、心臓の鼓動が早まり、何かに隠れていないと不安になってしまうありさまです。
あれから楓さん達の所に戻った私は、楓さんにタオルをもらい、全身を軽く拭いてから、それを羽織りました。
それから、あんな事したら嫌われるかもしれないとか、まるで蓮華様が悪いかのように発言してしまったことなど、そんな自己嫌悪に苛まられています。
私が、大きなため息をつきました。
すると、桔梗さんが私の目の前に携帯を見せてくれました。
携帯の画面には、小学生くらいの蓮華様の写真が写っていました。
無邪気にセミを取って、ニコッと笑っているそんな可愛らしい写真でした。
「桔梗さん、これは一体?」
「あれ?お気に召さなかったか?元気になるかなって思ったんだが」
「それは、もちろん癒されました、けど確か桔梗さんが蓮華様と会ったのって、中学生の頃ではありませんか?」
「そうだぜ、けどこれは、蓮華んちのアルバムの写真を撮ったやつだからな」
「なるほど、すっごく可愛いらしいですね、元気な男の子って感じがして」
「後で送ってやろうか?」
「ぜひぜひお願いします!」
「わかった」
「おやおや、なに話してるの?」
私達の後ろから、楓さんが話しかけてくれました。
彼女の両手には、3本の清涼飲料を持っており、その1本を私にくださいました。
「げ!もう帰ってきたのか!」
「なによ、帰ってきちゃ悪いの?」
「俺の平穏を脅かされるからな!」
「波乱の無い人生なんて、つまらないわよ」
「だからって、波乱万丈を求めてないんだよ!こちとらな!」
「さて向日葵ちゃん、馬鹿が醜態を晒している様を肴にジュースでも頂きましょう」
「なんか勝手に醜態晒す前提で進んでるんだけど!俺なにもしてないんだけど!」
「あら、馬鹿って自覚はあったのね」
「おかげさまでな!くそ!」
「ふふっ」
2人のやり取りを見ていると、自然と笑いがこみ上げてきました。
まるであの時見た、芸人さんの漫才を見ているようで。
羨ましいです。
私もこんな風に喋れるようになりたい。
「向日葵ちゃん」
「はっ、はいなんでしょうか?」
「この前以上に、蓮華君と喋れて無いけど、何かあった?」
「あっ、いや、えーとあのその……」
「また逃げ出すの?」
「……」
楓さんの冷たく鋭いその一言は、私の心を的確に打ちました。
そうだ、結局私は変われていません。
あの中学生の頃のように、逃げています。
竹中から逃げていましたように、次は蓮華様から逃げています。
「ちょ、神奈月!」
「あんたは、黙ってて」
楓さんは、斜め下を向く私の顔を持ち上げて、無理矢理目を合わせた。
「じゃあ、逃げに逃げた先輩からアドバイスを一つしましょう」
楓さんは、一息ついて答えました。
「努力っていうのは、自分が変わるまでやらないとただの徒労なのよ」
「……それは」
「貴方は、自分を守るばかりに、自分のしてきた努力を裏切っているの」
その通りだ。
でも、どうしたらいいの!
分かってはいるけど、どうにもできない!
「そんな事、私が1番……」
その時、時が止まった。
柔らかい感触が伝わる。
唇に。
これは……一体!?
「ふふっ、ご馳走様でした」
「なっ!なにをするんですか!」
「なにって、キスだけど?」
「なななっ!な!な!な!」
「そんなにテンパってちゃって、可愛いね」
「そそ、そんな事ここでやる事じゃ無いでしょ!」
「そうだね、めちゃくちゃ恥ずかしいね」
「だったらなんで!」
「じゃあ今のキスと蓮華君に水着を見せるの、どっちが恥ずかしい?」
「そ、そんなの今の方が恥ずかしいに決まっています!」
「ならもう大丈夫だね、蓮華君にその水着見せてきなよ」
「……楓さん、その為に?」
「ショック療法だけどね」
「荒療治にも程があります!」
「ふふっそうだね、ほら行ってきなよ、行かないとまたキスするよ」
「ああっ!もう!分かりました!行きますよ!」
私は、タオルを脱ぎ捨ててました。
まさか、こんな応援をされるとは思っていませんでしたけど。
しかし、ショック療法の効果があったか、不思議と恥じらいは和らいでいました。
私は、そのまま海へ向かいました。