58話 お出かけですが脈ありでしょうか?
夏休みのとある日、俺は天神に来ていた。
「風鈴君〜こっちです〜!」
駅前で、向日葵さんが呼ぶ声がする。
向日葵さんは、ぴょんぴょんとジャンプして手を振っている。
ジャンプした勢いで、赤いパーティドレスが激しくひらひらと動いている。
俺は、急いで彼女の元へ行った。
「すみません、お待たせしてしまって」
「いいんですよ、私が早く来すぎただけなんですから、じゃあ行きましょう!」
向日葵さんは、ニコッと笑って俺に手を差し伸べた。
俺は、その手を時間をかけてゆっくり握り2人で歩き出した。
遡ることお化け屋敷の時、俺は向日葵さんと一緒に行くことにした。
それには理由があった。
理由は、あの時のお礼が言いたかった。
あの時、俺達の溜まり場に変な高校生が来た時に向日葵さんが逃してくれた。
結局、あの後機会が無くて言えなかったお礼を言いたくて、お化け屋敷に入った時に思い切って、向日葵さんに伝えた。
「えっ?ああ!あの時の中学生って風鈴君だったんですか!」
「そうっす」
「そうだったんですね、いえいえ私は結局あの人に勝てませんでした、確かあの時蓮華様をに連絡してくれたのは貴方じゃないですか?」
「確かに連絡はしたっすけど......」
「じゃあ、おあいこです」
彼女は、俺の鼻に指を添えて話を続ける。
「私は貴方を助けました、でも貴方も私を助けてくれた、それでいいじゃないですか?」
ニコッと俺に笑いかける向日葵さん。
その後に、俺の鼻から指を離してわしわしと頭を撫でられた。
「いや、ダメっす!男として女性に助けられたんすっから何か恩返しがしたいっす!何かありませんか!」
俺は、あの日の事が今まで頭から離れていなかった。
あの日、俺に力があれば向日葵さんを守れたかも知れない。
逆に守られてしまった自分の不甲斐なさに怒りを感じてしまう。
兄貴も気にするなと笑っていたが、これをなぁなぁにしていたらダメだと思う。
「......そうですねぇ」
向日葵さんは、首を傾げて考える。
次の瞬間、はっと目を開けた。
「風鈴君、ではお願いを聞いてもらってもいいですか?」
「うっす!どんと来いっす!」
「私と一緒にお出かけしませんか?」
「......お出かけっすか?」
「そうです!天神でショッピングしましょう!手を繋いで!」
「てて、てっ手を繋いでっすか!」
予想外の返事が来て、俺は困惑したっす。一体どういう事っすか!
まるで、デートじゃないっすか!
えっ?もしかしてこれは、デートのお誘いでは?
いやいや、ありえないっす!
モテた事なんてこれまでないのに、そんな事ないでしょう!
「なっなんで、手を繋ぐんですか?」
「私には、今悩みがあるんです」
「悩みっすか?」
「はい、悩みとは蓮華様に近づけなくなったことです」
「兄貴に?なんで近づけないんっすか?」
「......恥ずかしいですけど、あの〜......」
暗くてもわかるくらい、向日葵さんの顔が赤くなるのがわかる。
顔を時々、手で押さえながら向日葵さんは、答えていく。
「あの時以来、少し話すだけで、鼓動が早くなってドキドキしてしまうといいますか、緊張でスキンシップが取れなくなってしまったんです」
「......なるほど」
向日葵さんは、兄貴に恋をしてるんだな。
そう一目でわかった。
「つまり、俺が兄貴に似てるからそれで慣らして行こうって話っすね!」
「そう!その通りです!」
「分かりました!この俺に出来る範囲で、向日葵さんの恋のサポートをさせて頂きます!」
「そっそうですね、お願いします」
向日葵さんは、恥ずかしそうに俯いて答えた。
そして現在、俺は利向日葵さんと手を繋いで新天町の大通りを歩いている。
向日葵さんの小さい手の温度を感じる。
あれっ?手を繋ぐってこんなにドキドキするもんなのか?
なんか、緊張しちゃって全然喋れない。
向日葵さんは、どうかな?
そう思って隣を見ると、向日葵さんがバタッと倒れた。
「向日葵さん!向日葵さん!」
「......あうっ、とばししゅぎました」
「向日葵さん!」
向日葵さんは、全身を赤く染めて気を失った。
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
今年もこの作品をよろしくお願いします。