56話 告白ですが脈ありでしょうか?
私が、その言葉を放った瞬間、私の顔面に父の拳が叩きつけられた。
「お前、調子にのるなよ?」
怖い、怖くて今にも謝りたくなる。
でも、だめだ。
変わるまで言わなきゃ。
全部無駄になる。
「だってそうでしょう?貴方が優等生とほざいた早川さんは、私をいじめている張本人なんだから!」
父は、驚いた様子でこちらを見ている。
畳み掛けるなら今だ。
「貴方は、見た目だけで判断して不良の格好をしている彼を害だとのたまって、早川さんみたいに裏でネチネチといじめてる詐欺師のような害に気づかない!本当に見る目がないと正直に申し上げてただけですよ?」
「......いい加減にしろ」
「なにがいい加減ですか!本当の事を言われて図星なだけでしょう?大体、不良は害と言っておきながら、自分は暴力と恐怖で教育しておいて説得力のかけらもないですよ!」
「......」
「そうやって私の将来に害をなすだなんだの言ってますが、貴方は将来しか見てないだけじゃないですか!将来の私ばっかり見て、今の私を見向きもしない!そんな父親なんていらない!」
「調子に乗るなよ!馬鹿娘が!」
父は、大きく振りかぶった拳を、私目掛けて放った。
私は、静かに目を瞑った。
言いたい事を言った。
悔いは無い。
骨に当たったような鈍い音が鳴った。
しかし、何故か痛くない。
私は、恐る恐る目を開くとそこにはお母さんがいた。
お母さんは、私を庇ったんだ。
「美恵子、邪魔だ」
お父さんは、お母さんに謝りもせずにそう吐き捨てた。
「この調子に乗った馬鹿に、自分の立場を分らせなきゃいかん」
「......自分の立場をわかってないのは、貴方よ」
「なにを言っている?」
「私は、間違っていた、この子の将来の為にも貴方の教えの方が正しいと思っていた」
「なにも、間違えてないだろ?俺は、楓の事を思って」
「百歩譲って教育者としてはね、でも保護者として圧倒的に貴方は間違えている」
「なっ......」
「この子が虐められている事を言った時、貴方は、自業自得だと言ったわね、ふざけないで!この子は、いじめが起きてる事を私達に隠してたのよ!私達を心配させないように!いじめが起きてるのに、必死にいじめと自分だけで戦おうとしている我が娘にかける言葉が、そんな身勝手で保護者が務まりますか!」
「......そ、それは」
「そのいじめと戦ってくれる友達を、この子はようやく見つけることが出来たのよ!楓は、自分で戦ってたのよ!自業自得なんかじゃない!貴方のエゴでこれ以上、楓が傷つく所なんて見たくないの!」
「......」
「もう貴方と楓を一緒にはできない、さようなら」
母は、そう言って離婚届を父に投げ捨てた。
父は、言葉を失って膝から崩れ落ちた。
私は、母に手を引かれ家を出た。
母は、車に私と荷物を載せてエンジンをかける。
「......お母さん、ありがと」
私が、そう言うとお母さんは涙目になりながら答えた。
「いいのよ、逆にお礼を言わなくちゃいけないのは私の方」
「え?」
「お母さんは、逃げてたの」
「どういうこと?」
「お父さんが、貴方を叱る度にこれは楓の為だからとか、お父さんが居なくなったら金銭的に楓を不自由にしてしまうからとか、そう言うくだらない言い訳をして、お父さんと向き合う事から逃げてたの」
「......」
「でも、貴方はお父さんと向き合う事から逃げなかった、お父さんと勇敢に向き合ったのよ、それは私にも出来なかった凄いことよ」
「......」
「楓、強くなったわね」
私は、涙が止まらなかった。
ようやく、私は変われたんだ。
ようやく、人を変えられたんだ。
翌日、教室に入ると早川達がニヤニヤとこちらに近づいてきた。
「あら?そんなに傷だらけでどうしたのですか?」
「元々ブサイクな顔が、もっとブサイクになってる!ウケるんだけど!」
後藤は、私を指差して大笑いした。
私は、2人を無視して自分の席についた。
2人は、急激に不機嫌な顔になって私の席にはりつく。
「ちょっと!人が話してるのに無視するってどういう事⁉︎」
後藤は、睨みつけながら私の胸ぐらを掴んできた。
なんだろう、なんでこんな奴を怖がっていたんだろう?
お父さんに比べたら、全然怖くない。
「話?貴方達が言ってたのは、ただの悪口でしょ?会話がしたかったら、主語と述語としっかり言ってくれないと分らないわ」
「はぁ!?馬鹿にしてるの!」
「ええ、だって貴方達、私に一度もテストの点数で勝ててないでしょ?馬鹿にされても仕方ないと思うけど」
「くそがあぁぁぁ!!」
私の頬に、殴りかかる後藤。
「まだまだ!調子に乗り上がって、このくそ豚がぁ!」
「......ちょっと後藤やめときなさい」
「はぁ?やめるかっての!こいつ、あそこまでやられておいて、こんな減らず口叩きやがって!」
「後藤!」
「私達に逆らって、生きていけると思うなよ!次は、もっとエグいいじめしてやる!覚悟しとけよ!」
「ほーう、詳しく話を聞こうか?」
後藤の殴る腕が止まった。
「邪魔しな......いで......」
後藤が、振り返るとそこには桔梗と生徒指導の先生がいた。
桔梗は、怒りをあらわにしており、凄い力で後藤の腕を握っている。
「後藤、それと早川、後で生徒指導室に来なさい、神奈月は今日は保健室で休んで、体調が回復したら早退しなさい」
「......はい」
「せんせ、俺が連れてくよ」
「ああ、よろしく」
桔梗君は、脱力しきった後藤の腕を投げ捨てるように離して、私の肩を持ってくれた。
後藤は、絶望したように血の気が引いた顔になっていた。
早川は、苦虫を噛み潰したような顔で私を睨みつけていた。
私は、桔梗に保健室に運ばれて応急処置をしてもらった。
その後、肩を持ってもらいベットまで運んでもらった。
桔梗君と話をしたかったが、朝のチャイムが鳴ったので大急ぎで桔梗君は、保健室を出た。
「まさかお前が喧嘩するなんて、夢にも思わなかったぞ、カッコよかったぜ」
彼が、そう言って私の頭を撫でてくれた。
「......桔梗君のおかげだよ」
「そうか?俺は、なにもしてないけどなぁ?」
首を傾げる桔梗君。
彼がいなければ、今頃どうなってただろう。
あの時、勇気を出さなければどうなっていただろう。
多分、後悔していたと思う。
ならば、今もそれは同じ。
ここで、勇気を出さなければ。
ここで、言わなければならない。
後悔しないように。
「あっ......あのね!桔梗君」
「ん?どうした?」
「......私は、貴方が好きです」
私は、変わるんだ。
彼に相応しい人になれるように。