53話 自己紹介ですが脈ありでしょうか?
それから私は、昼休みに必ず屋上に行って、彼と一緒に昼ご飯を食べるのが日課になった。
彼は、いろんな事を話してくれた。
テストで0点を取ったことや、喧嘩した人と友達になったこと、自転車で山を登って温泉に行った事など話してくれた。
どれも私には、絶対に経験できないような話なので聞いていて楽しかった。
徐々に、早川達が私に関わることも少なくなった。
私は、学校に来るのが楽しみになっていた。
クラスでの私の扱いは、変わらないけど昼休みのあの時間があればどうってことない。
そんなある日、私はいつも通り家に帰って自分の部屋で勉強をしていた。私がこうやって常に勉強しているのもとある理由がある。
「入るぞ」
三回ドアをノックして、父が部屋に入ってきた。
父は、綺麗な七三分けとつり目が特徴的な人だ。
父は、神妙な面持ちで私を見ている。
「......お父さん、どうしたの?」
「気にするな、勉強が捗っているか見にきただけだ、その調子なら次も満点取れて当たり前だな」
「......う、うん」
「中学で挫折していては、到底慶王大学には行けないぞ?意識して勉強すること」
「......うん」
父は、そう言って部屋を出て行った。
父は、塾の人気講師だ。
塾では、とても有名と聞いている。
父は、異常なまでに慶王大学に固執しており、私に絶対に行けと言っている。
自分が行けなかったから。
私は、別に慶王大学なんてどうでもいい。
でも、そう言う問題じゃない。
お金だったり、その他諸々も父が稼いでくれている。
だからこそ、独り立ちするまでは我慢するんだ。
大学には、行きたいし我慢しなきゃ。
慶王大学はとても難関でだから、中学は満点以外認めないと父に言い聞かされた。
見直しが、出来てなくて98点を取った時は、血相を変えて怒鳴りつけられた。
そして、学校では早川に勝ったからいじめられるという板挟み状態だった。
でも、今は違う。
今は、彼が居てくれるから。
頑張れるんだ。
翌日、私はまた屋上に来ていた。
しかし、彼の姿は無かった。
代わりに一枚の紙が、屋上の扉に貼りつけてあった。
『すまん!今日は、補習があってこれねぇ!代わりに友達を呼んどいたから一緒に食べてて!』
と書いてあった。
え?友達?どうしよう?
友達の友達って一番気まずい奴じゃない。
このまま、逃げるって手もあるけど。
私が、頭を悩ませていると屋上の扉が開いた。
「誰かいるか?」
「ほら、正面にいるよ、多分あの子じゃない?」
扉から2人の男女が出てきた。
男の子は、もろヤンキー感丸出しの人で、女の子は、制服でかろうじて女の子と分かるけど少しガラの悪い男の子みたいな人だった。
「ってよく見たら楓ちゃんじゃん!久しぶり!」
彼女は、私を見るなり抱きついてきた。
え?なにこの子?コミュ力バグってるんじゃないの?
「覚えてない?私、水無月だよ?」
「水無月?......まさか水無月君?」
「そうそう!」
私は、驚いた。
水無月君は、私が小学校の時のクラスメイトだった。太った私のお腹を好きで触りに、抱きついてきたのをよく覚えている。
でも、私は彼女の事を完全に男の子と勘違いしていた。
「......女の子だったんだ」
「あ〜やっぱり、勘違いしてた?」
「あっ、ごめんなさい」
「いいよいいよ、小学校の頃はあんまりそういう格好してなかったし」
「......まさか、同じ中学だったとは思わなかった」
「そうだね、私もびっくりしたよ!」
彼女は、ニコニコっと笑って私の手を握った。
「お二人さん、蚊帳の外にしないで欲しい」
「!?」
「わっちょ!びっくりした!蓮華、突然出てこないでよ!」
「いや、最初からいたよ」
さっきの彼が、私達の会話にぬるっと参加した。
一旦、状況を整理する為に各々自己紹介をする事になった。
「じゃあまず俺から、2-Bの卯月 蓮華だ、桔梗とは喧嘩して仲良くなった」
「はいは〜い!次は、私ね!私は同じく2-Bの水無月 紫陽花だよ、桔梗とは一緒にテストの点数で張り合ってたら仲良くなったよ、ちなみに楓ちゃんの小学校の頃から友達です!」
水無月君がそう言って、また抱きついてきた。
え?親友?そうなの?
混乱していると卯月君が、水無月君の頭にチョップして、私から引き剥がした。
「こらこら、あの子めちゃくちゃ混乱してるぞ?」
「混乱?そうなの?」
水無月君は、そう言って私の顔をじっと見る。
どうしよう?
こういう時って、本当の事言ってもいいのかな?
どうしよう?どうしよう?
私が、頭を悩ませていると肩を軽く叩かれた。
「ごめんなさい!」
反射的に、謝罪が出てしまった。
どうしよう、気持ち悪がられたかな?
しかし、私の憶測とは違って2人はキョトンとした顔でこっちを見ていた。
「とりあえず聞くけど、君は桔梗の友達だろ?」
私は、言葉が上手く出なかったので大きく頷いた。すると、卯月君は優しく私にこう言った。
「なら大丈夫だ、別に怒ったり急かしたりしないからゆっくりでいいから話してくれないか?桔梗と友達になれたんなら、俺達ともなれるよ」
「そうだね、どうしても喋りづらいなら使わないノートがあるから使ってよ!」
「あ......ありがとう」
水無月君からノートを貰った。
ノートは、普通の大学ノートで表紙に国語って書いてあった。
「使わないノートって、バリバリ国語ノートだろ?」
「私に、国語なんていらない」
「流石に授業の時くらい勉強しろよ」
「仕方ないんだよ!国語の松崎が、話始めると徐々に眠たくなるんだもん!」
「そりゃお前が、話聞いてないだけだ」
「えー、酷いよ!」
「......ふふっ」
私が、2人の話して笑うと、水無月君が急にこっちを見た。
もしかしてまずい事しちゃったかな。
しかし、彼女はニコッと笑ってまた抱きついてきた。
「ほら、蓮華見て!楓ちゃんが笑ったよ!」
「何言ってんだ、笑われたんだよ、もうテンションが高くてごめんな」
そう言ってじゃれあう2人を見ていると彼を思い出す。
皐月君もこんな暖かい感じだったなと。
私は、大きく深呼吸をする。
よし、頭の中で原稿ができた。
言うぞ。
「私は、2-Aの神奈月 楓です、よろしくお願いします」
そして、深く頭を下げる私を2人は迎えてくれた。




