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51話 走馬灯ですが脈ありでしょうか?


 私は、桔梗にしがみつきながら先に進んだ。

 お化け屋敷の様子がどうとかは、よくわからない。

 私は、真っ暗な闇の中、確かにある暖かく引き締まった体の抱き心地よさにすがるしかなかった。

 次の瞬間、唐突に女性の甲高い悲鳴が聞こえる。

 私は、腕に力を込めてぎゅっと、彼のお腹に顔を埋める。

 もう、私が怖がりな事なんてバレているだろう。

 それでも、その事を言わずに気づかないフリをしてくれている。

 昔と変わらない。

 今は、おちゃらけてちょっと軽薄な格好をしてるけど、中身は相変わらず優しいままだ。

 ふと、固く暖かい感触が頭に触れた。

 少し驚いたが、その感触は包み込むように私の頭を撫でている。

 その暖かさで私は、走馬灯のように昔の記憶が思い返される。

 私が、よく屋上に行くようになったきっかけ。

 私が、頑張ろうと決心したきっかけ。

 私が、彼に恋をしたきっかけ。



 私は、中学の頃いじめを受けていた。

 いじめの理由は、私にテストで負けてる事に腹を立てたんだろう。

 昔の私は、太っていたのでそれも相まって余計に迫害される要因になった。

 だから、中学生の時は結構ショックを受けた。

 友達を作ろうにも作れない。

 決してコミュニティ能力が、そこまでない私にそのいじめは効果覿面で中2まで友達がいなかった。

 中2の時、逃げ場所を探した私は、屋上にたどり着いた。

 普段は、鍵がかかっていて入れない屋上だったが、中2の頃に鍵が壊れて、立ち入り禁止の張り紙が貼ってあるだけになっていた。


 私は、屋上で弁当を食べ終わると、屋上を取り囲むフェンスに近づいて、外を見下ろした。

 今ここで飛び降りれば、楽になれる。

 そんな事が、頭から離れない。

 それから毎日、昼休みになるとずっと外を見下ろしてそんなことばっかり考えていた。


 ある日、その時はいじめがエスカレートして、特に落ち込んだ日だった。

 私は、泣きじゃくって顔を伏せて体育座りで座っていた。

 その時、暖かい手の感触が頭に触れる。

 私は、ビクッと体を震わせてそのまま動けなかった。

 顔を上げてしまったら、あいつらがいるんじゃないかと。

 そんな私を、その暖かい手は優しく撫でている。

 私は、涙が止まらなくなった。

 さっきの悲しい涙じゃなく、嬉しい涙が。

 私は、ゆっくりと顔を上げた。

 感謝の言葉を伝えたくて。


 しかし私は、顔を上げた事を後悔した。

 そこにいたのは、この中学校の要注意人物。

 この中学校のトップの不良、皐月 桔梗だった。


「すみませんすみません!!」

「ちょ......おい!」


 私は、急いでその場を逃げ出した。



 次の日、私は屋上という居場所を失い、仕方なく教室で昼食をとっていた。

 私が食べていると、1人の女子がこちらに来た。

 後ろに2人の女子を従えて、クスクスと笑っている。

 この一番前にいる子が、早川 歩美。

 少し垂れ目で黒髪が肩まで伸びている。

 一見、優しそうで清純そうな彼女だか、実際は凶暴で手がつけられないほどの負けず嫌い。

 一度負けると、その買った人を標的にして、どんな手を使ってでも勝とうとしてくる。

 私もその標的になってしまった。


「神奈月さん、教室で食べてるなんて珍しいですね」


 絵に描いたような作り笑いで、話しかけてきた。

 こうやって絡まれるから、教室で食べたく無かった。

 でも、屋上にはヤンキーがいるし、トイレにもヤンキーがいるし、っていうかこの学校ヤンキー多すぎない?


「おいあんた、歩美が話しかけてるのに無視すんの?」


 私が、頭を悩ませていると、後ろの取り巻きの後藤 晶が出てきた。

 ギロっとこちらを睨みつけている。

 どうしよう、凄い怖いよ。

 コミュ障にとって一番辛いものは、詰問である。

 こうやって、問い詰められると何を話したら良いかわからなくなる。

 私が、あたふたしていると、後藤は、不機嫌にな顔になった。

 後藤は、私の弁当を床に投げ捨てた。


「ほら食えよ、豚らしく這いつくばって」


 後藤の下衆な顔で私を煽る。

 教室の空気は、完全に早川の味方だ。

 ニヤニヤと笑う三人は、冷たい視線でこっちを見ている。


「こらこら晶、豚って言ったらかわいそうでしょう?ちゃんとマシュマロちゃんって可愛く言ってあげないと」

「歩美は、優しすぎんのよ!こんなデブは、豚がお似合いよ」


 教室が、笑いに包まれた。

 勿論、全員が笑ってるわけじゃない。

 ただ過半数は、早川の味方だろう。

 私みたいな不細工より、早川みたいな美人の言うことの方が信憑性が高いだろうし。

 私は、泣きそうになりながら、床にぶちまけられた弁当に近づいている。


「てめぇら、馬鹿じゃねぇの」


 その言葉で教室の空気は、一瞬にして凍りついた。

 1人の男の言葉で、私は救われたんだ。


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