37話 優しいですが脈ありでしょうか?
とうとう、勉強会も三日目になった。
昨日は、紫陽花に遅れを取ってしまったが、今日こそはあの券を貰わなくてはいけない。
あの券を使って、あのボイスレコーダーを取り上げないと、一生あいつの奴隷のままだ!
今日こそは、絶対取るぞ!
とは言ったものの、勉強は辛い。
この1時間の勉強時間でさえ、苦痛だ。
「はぁ〜こんな時に、マシュマロが居てくれたらなぁ」
「久しぶりに聞いたな、桔梗のマシュマロちゃん」
「だれ?」
「中学の時、桔梗を助けてくれた人らしい」
「そう、あの子のお陰でこの高校に合格したと言ってもいい」
「確かに、中学の時、ド級の馬鹿だもんね」
「お前に言われたくねぇよ!」
紫陽花に、向けて思いっきりデコピンをかます。
紫陽花の額から、低く鈍い音が鳴る。
「ぎゃあああ!!痛い痛い!!ちょっとは、手加減してよ」
「……すまん、加減したつもりだったんだが、まだ強かったみたいだ」
「うう、たんこぶできそう」
「後から、ジュース奢ってやるから、な?」
「仕方ない、許してやろう」
「切り替え速いな、まぁ大丈夫そうだな」
「はぁ〜勉強のやる気が出ないぜ〜」
「ほらほら、ちゃんとしないと、また紫陽花に負けるぞ」
「そうだなぁ、ああ今となっては、小学生もどきの悪魔に、拷問の如く教えられてるしなぁ」
「その小学生もどきの下着を見て、興奮してたのはどこの誰かしら?」
「下着?」
俺は、即座に蓮華の耳に指で栓をして、ついでに目も隠した。
「いいか、お前は何も聞いてないし、見てもいない!いいな!」
「あら、なんでそんなに慌ててるの?」
「慌ててないけど!どうもしてません!」
「全く、そんなに優しく教えて欲しいならやってあげようか?」
「え?」
聞きずてならない事を聞いたぞ。
この悪魔が、優しく教えるだって?
そげな馬鹿な!
こんな悪魔と意地悪を混ぜ合わせたキメラが、優しく教えるなんてなんの冗談だ!
「とりあえず、失礼な事考えてそうだから、後で覚悟してなさい」
「なにも考えてないって!というかお前が、優しく教えるなんてできるの?」
「出来るわよ、優しく教えた所でどうせ覚えないからやらないだけよ」
「いいだろう、やってみろよ」
楓は、俺の席の横に椅子を置き、そこに座った。
ほとんど肩が当たってるぐらいの距離感だ。
「なんでこんなに、近いんだ?」
「問題に正解したら、頭をよしよししてあげるから、優しいでしょ?」
「そういう感じ?」
それから、問題に正解するたびに神奈月から頭を撫でられた。難しい問題で悩んでいる時は、
「がんばれ❤️がんばれ❤️」
と何処かで聞いた事のある応援をしてくれる。
めちゃくちゃ恥ずかしい。
優しいというか、羞恥プレイだろこれ!
「すみません、流石に恥ずかしいので勘弁して」
「自分から言っておいて、また厳しい方を選ぶの?ドM?」
「断じて違う!いつもと温度差が違い過ぎて気持ち悪いだけだ!」
「酷い言い草ね、まぁその調子で頑張りなさい」
しかし、ほんのちょっと、本当にちょっとだけ嬉しかった事は、絶対に言わない。