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114話 女の喧嘩ですが脈ありでしょうか?

 両者、表情は笑顔だがお互いになんとも言えない気迫を放っている。


「折角私が来てあげたのに随分なご挨拶ですね」

「逆によくノコノコ私の前に現れたわね、あの頃から変わらず図々しいわね」

「あの頃ね……実は反省してるんですよ、今日も謝罪しようと来たんですよ」

「さっき来てあげたとか言いやがる奴が謝罪する態度ではないでしょう?いらないからさっさと食うもん食ってお帰りやがれ」

「あらあら、貴方も相変わらず怒ると感情的ですね」


 バチバチに睨み合う2人。

 こ……こえぇ。

 これが、女の喧嘩ってやつか……男の喧嘩より断然こわいんだけど。

 なんなら、ここまでヒートアップしてて未だに2人とも笑顔なのが怖さを際立たせている。


「ちょちょっと、2人とも落ち着いて……」


 教室の空気を察してか、厨房から桔梗が出て来て、2人の間に割って入った。


「馬鹿はすっこんでなさい」

「桔梗君、邪魔です」


 ばっさりだぁぁぁ!!

 やばい、あの桔梗が今にも泣きそうな顔している。

 すると、桔梗が俺とふと目が合った。

 気づいたのか、俺に目で必死に助けてと訴えているのが伝わった。

 仕方ない、俺は紫陽花に小さな声で


「神奈月さんを頼む、俺はあの子の相手しとくから」


 すると、紫陽花は小さく頷いた。

 そこからは、速かった。


「大体、あんた…っ!」

「はいはい、失礼しますよぉぉ!ほら桔梗も!」

「あいよぉ!そぉれ!」


 神奈月さんを桔梗と紫陽花の2人で取り押さえて厨房へ迅速に運ぶ。

 俺は、ポケットに入れていたメモを取り出して、接客の体勢に入る。

 ここまで僅か10秒の出来事だった。


「ご迷惑おかけしてすみません、変わりまして卯月が注文をお伺いします」

「……あっえ?」


 彼女は、展開の速さについていけてないのか少し混乱しているようだ。

 改めて見るとやっぱり本当に綺麗な人だな。

 可愛らしいたれ目にツヤツヤとした長い黒髪が特徴的な優しそうな美人だった。

 この人が、さっきまで神奈月さんと言い合ってたんだよなぁ、未だに信じられないな。


「で……ではこの、パンケーキとりんごジュースを一つずつお願いします」

「はい、パンケーキとりんごジュースですね、少々お待ちください」


 俺は、彼女に軽く会釈してその場を去った。

 厨房に戻り、小岩井さんに注文を伝えて神奈月さんの様子を見に行った。


 神奈月さんは、厨房の隅で椅子に座っていた。

 紫陽花が、何か言ってるみたいだった。

 しかし、神奈月さんは沈黙したまま、ぷいっと顔を逸らしている。

 すると、紫陽花がくるりと振り返った。

 紫陽花は、戻ってきた俺に近づいてきた。


「あ、蓮華〜!ちょっと来て!」

「どうしたんだ?」

「楓ちゃんにさっきのこと、ずっと聴いてるんだけど……」

「おう」

「一向に喋らないどころか、全てフル無視なんだよ!目を合わせてくれないし!」

「マジか、桔梗は?」

「それが……」


 紫陽花が指で示した先には、口にガムテームを貼られ、体をぐるぐる巻きにされた桔梗の姿だった。


「一体何があったらそうなるんだ?」

「……そんな訳で何も分からずじまいなんだよ」

「そうか、まぁ仕方ないそれなら、俺の出番だな」


 俺は、椅子を持ってきて神奈月さんの正面に座った。

 紫陽花も、椅子を持ってきて俺の隣に座る。


「じゃあ、神奈月さんこれから質問するよ」

「……」


 俺は、変わらず明後日の方向を見る神奈月さんに質問を投げかけた。

 あの子とは、どういう関係性か?

 なんであんなに喧嘩腰だったのか?等言ってみたが、以前として神奈月さんはポーカーフェイスを貫いている。


 まぁ、実を言うとなんとなく見当は付いている。

 神奈月さんは、基本温厚で争いを嫌うタイプだ。

 でも、自分が好きな事に対すると途端に頑固で感情的になる。

 だから……


「あの子、桔梗の元カノ?」


 俺は、流れるようにその質問を投げかける。


「ばっ、あいつがそんなわけ無いじゃない!」


 神奈月さんは、顔を真っ赤にして俺に怒鳴りつける。

 普段怒り慣れていないせいか、息を荒げてこちらを睨みつけている。

 ここまで大方予想通りかな。


「じゃあ次の質問、あの子は桔梗が中学生の時好きな人だった?」

「そんな訳ないでしょ!バカでもあんな人をいじめるようなクソ女好きになる訳ないでしょ!」


 俺の質問に怒鳴り付けながら答える神奈月さん。


「はぁ……はぁ……あっ」


 神奈月さんは、一通り言いたい事を言い終えたのか、息を切らしながら落ち着いた。

 そして、気づいた。

 自分が誘導されたことに。


「……卑怯な聞き方をしてごめんな、でもやっぱりそうか、そんなに隠す必要ないのに」

「……」


 神奈月さんは、はぁと深いため息をついた。

 顔を強張りがすっと消えて、諦めたような表情に変っていくのがわかる。


「……で、どういう関係なの?」


 神奈月さんと俺は、紫陽花の一言にずっこけた。

 おかしいな?

 君の方が、付き合い長いはずなんだけどなぁ?

 俺は、そう思いつつ紫陽花の方を見る。

 紫陽花は、キョトンとした顔をしてこちらを見ている。


 俺は、はぁぁと深いため息をついた。


「あのなぁ、うわっ!」


 俺が話そうとした瞬間、後頭部を誰かに押されて何かに顔が押し付けられた。

 

「ちょ!ちょっと何してるの!」

「うるさい、ばか」


 何故か、紫陽花と神奈月さんが揉めているようだ。

 状況を整理しよう。

 俺の顔が押し付けられた場所は、布ごしに柔らかい何かに包まれていて、ほのかにいい匂いした。

 そして、俺が押された方向には紫陽花がいた。

 これにより導き出される答えは……



「なんで私の胸に蓮華の頭押し付けてるのさ!」


 

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