111話 不死身ですが脈ありでしょうか?
前回のあらすじ。
女装がバレました。
「ははっ……今までの努力が水の泡に……」
「卯月さん、大丈夫ですか?」
手伝いの休憩中。
俺が絶望して、壁に寄りかかっていると、紫が心配してこちらに来てくれた。
「心配してくれてありがとう、黙っててごめんな、こんな格好して幻滅しただろう」
「そんな事無いです!むしろここまでクオリティの高いコスプレで凄いですよ、私も全然気が付きませんでしたし!」
「……そう?」
「はい!」
紫は、そう言って俺を励ましてくれた。
ああ、なんて良い娘なんだ。
俺は、紫の頭にそっと手を添えて撫でた。
「え、な、なんですか!?」
「ありがとう……紫は、いいお嫁さんになるぞ」
「え、あっ、……ありがとうございます」
紫は、顔を真っ赤にして、目を伏せた。
こんなに良い娘に育って……お兄ちゃん嬉しいよ。
「蓮華の兄貴!ポカリどうぞ!」
長谷部が、俺の元に駆け寄り、跪いて両手に乗せたポカリを差し出した。
金髪でガラが悪い長谷部だったが、俺の名前を聞いた途端、何故かめちゃくちゃ礼儀正しくなった。
「お、おう、ありがと」
「いえいえ!これぐらいお安い御用です!」
「長谷部先輩、変わりすぎて気持ち悪いです」
「はぁ?んだとごらぁ!」
「うん、俺もそれ思った」
「えぇ!そんな蓮華の兄貴まで!」
わかりやすく傷ついた様子をする長谷部。
「だってよ……あの不死身の蓮華と会えたんだぞ!感動で手が震えちまうぜ!」
「ぶはっあ!!」
思わず飲んでたポカリを吹き出してしまった。
いけない。
ここで取り乱していては、再び黒歴史が展開されてしまう。
ここは、落ち着いて、クールに対応しなくては!
「長谷部くん、人違いだよ」
「そんな訳ねぇっすよ、さっき殴った時の手応えと名前で確信しました!」
「そんなに有名なんですか?」
「当たり前だろ、俺みてぇな不良の憧れよ!噂じゃ高校生の半グレ集団相手にたった1人で喧嘩を買って、全員病院送りにしたり、最強と言われた暴走族『紅』を目障りだからって理由で壊滅させたりと伝説だらけの人なんだぞ!」
「だから、違うって……」
「そ、そうですよ!蓮華さんは、あの時は、友達を助ける為に喧嘩したんですよ!」
「ええ!?」
「……それって、マジ?」
「はい!私が小学生の時むぐぅ!」
「ストップストップ!!」
俺は、急いで紫の口を両手で塞いだ。
「違う……違うんだ!」
「なんでそんなに隠そうとするんっすか〜」
「そうですね、必死に隠そうとしてますね」
うぐぐぐ……もう無理か。
俺は、紫の口から両手を離した。
「……そうだよ!俺が不死身の蓮華だよ……言わせんな!恥ずかしいなぁ!」
「えぇ!なんかすみません!」
「そんな人が、たった今女装をして泣いているという状況がなんともカオスですね」
「俺だってこうなるとは、思ってもなかった……」
「おーい、みんなぁ!」
真狩さんが、こちらに手を振りながら近づいてきた。
「空き教室の使用許可ももらってきたし、再開しよっか!」
「うっす」
「了解です」
「よし、ああそれと紫さん」
「なんですか?」
「お友達が来てるよ」
「え?」
すると、真狩さんに遅れて風鈴が走ってきた。
風鈴は、紫の肩をガシッと両手で掴む。
「もう、急に居なくなるなよ!心配したじゃんか!」
「え?」
「え?じゃ無いよ!せめてどこか行くなら連絡とかしてよ!」
「したよ」
「ああ、良かった……え?今なんと?」
「したって、LINE」
「……」
バカは、ごそごそと鞄から携帯を取り出し確認している。
俺は、バカにゆっくりと歩いて近づいた。
「ああ……あははっ、ご、ごめん見てなかったよ、という訳でお邪魔だろうし、後で合流しようか〜」
「待て」
逃げようとする風鈴を捕まえる。
「……あ、な、なんでしょうかサクラさん?」
「とぼけんな、どうせ気付いてるだろ」
「……あの」
「……」
「ごめんなさいぃぃぃぃぃ!!」