110話 勘違いですが脈ありでしょうか?
着地の衝撃でドンという鈍い音と辺りに砂がぶわっと舞う。
その砂埃の中から、彼女が出てきた。
私たちは、状況が飲み込めず混乱していた。
「っと、なんとか上手くいったな」
彼女は、不良に近づいてニコッと笑った。
「おめぇら、俺の後輩になんかようか?」
「……」
不良は、何も答えられなかった。
それもそうだろう、表情こそ笑顔だったけど、鬼気迫るものがあった。
私の手首を掴んでいた不良は、掴んだ手を離して、彼女に近づいた。
「あ、あぁ?てめぇ誰だよ!」
不良は、用意してあった木箱を荒々しく蹴った。
不良は、彼女を睨んだ。
彼女は、全く臆せず睨み返す。
「紫、今のうちに戻っとけ」
「え、あの、ちょ……」
その瞬間、鈍い音がした。
不良は、彼女の腹にパンチを入れていた。
え……え!ちょちょ!あの人何してんの!
「よそ見してんじゃねぇよ」
「……」
空気が凍りつく。
なんなのこれ!話と違うんだけど!
私が、余計に混乱しているのを他所に不良がもう一度腕を振りかぶった。
「すとぉぉぉぷ!!」
「やめろ!ばか!」
隣にいたもう1人の不良と奥でスタンバイしていたもう1人に彼は、取り押さえられた。
彼女は、突然のことでキョトンとしていた。
「何をする!良いところだったろうが!」
「バカ!この人はボランティアじゃないぞ!」
「へぁ?」
「ん?こ、これは……」
「すみません、私から説明します」
私は、彼女に近づいてことの顛末を話した。
ー1時間前ー
私は、トイレに行った風鈴を待っていた。
20分も。
流石に遅くない?
あいつ、腹下したの?
はぁ、折角の学園祭なのに……。
「そこの可愛いお嬢さん」
はぁ、良いことないかな〜。
なんか、誰か知らないけどナンパされてるし、いいなぁ〜ナンパとかされてみたいなぁ。
「そこの茶髪のお嬢さん!」
「……」
茶髪?
私かな?
いやいや違うよね。
と思いながら、首を横にふる。
「違いません、あなたです!」
「え、え、あっ、は、はい!」
私だった。
「僕は、映像部部長の真狩と言います」
「は、はぁ、どうもご丁寧に」
「早速なのですが!我が部の映像作品にご協力いただけませんか?」
「えっ、私がですか?」
「はい、今映像部でみんなで作る映画という企画を行っていまして、文化祭にいらした方にも手伝ってもらっているのです」
「そういうのって、文化祭が始まる前に作るものじゃないんですか?」
「うぐっ……本来ならそうなのですが、ボランティアが集まらなくて……ぶっちゃけピンチなのです!」
「ぶっちゃけましたね」
「どうか、どうかお願い出来ませんか!」
「ん〜」
「お礼として、お好きな写真を撮りますよ!」
「写真ですか?」
「はい、父のお下がりの一眼レフがあるので、綺麗な写真が撮れますよ!」
「……わかりました、お手伝いします」
「あ、ありがとうございます!」
ーーーーー
「という感じで映像部のお手伝いをしていたんです」
「……なるほど、そうかそれなら良かった」
私の説明を聞いて頷く彼女。
なんだろう、さっき見た時よりカッコいいような……。
「すみません、こいつ役になりきって、本当にすみません」
「すみません!」
「本当にすまねぇ」
「いえいえ、こちらこそ勘違いで邪魔してしまい、申し訳ない」
「ご迷惑をかけた後に申し訳ないのですが……」
「はい?」
「どうか、協力していただけないでしょうか!」
「ええっ!?」
「先程の登場の仕方、僕は感動してその場から動けませんでした、是非参加していただきたいです!」
その後、真狩さんの熱心な勧誘により彼女も加わる事になりました。
「それでは、遅れましたが自己紹介いたします、映像部部長の3年真狩 透と言います」
「2年長谷部 勇だ、さっきはすまねぇ」
「1年渡 俊です、よろしくお願いします」
映像部の面々が自己紹介を済ませる。
そういえば、彼女の名前を知らない。
どんな名前だろう。
私は、少しワクワクしながら彼女の自己紹介を待つ。
「俺は、2年卯月 蓮華、よろしく」
え?
一瞬、時が止まったように、その場にいた全員が動かなかった。
彼女は……いや彼は、私たちをキョロキョロと見た。
その後、目線を下に向けて自分の服を見ていた。
「……嘘です」
「いや、無理でしょ!!」