事件調査コンサルタント嗣岵峰輔の事件録
謎解き編です!
みんな、お分かり頂けただろうか?
台所から彼は戻ると、紅茶を一口飲んで彼は話し始めた。
「この事件は、不可解な点がいくつかあります。1番犯人と思わしき被害者男性の義理の姉は、彼らが死ぬよりも先に死んでいるという点。川に沈められていたハンマーは、誰が沈めたのか……。
さて、ここで事件を振り返ってみましょう。おとといの夜、あなたは家にいたのではなく友人と食事を楽しんでいた。一緒にいた友人が証言をしていますから、あなたが現場の公園にいたことは考えづらい。そしてあなたの夫とそして愛する子供は家で留守番をしていそうですね。さして次の日の午前2時、あなたのお子さんとそして愛する夫は、公園で吊るし上げられていた。昨晩は雨が降っていて川の流れも急でしたから、首をロープで絞めて、片方にはハンマー結んでおいて川に投げ込めば2人の首は絞められたでしょう。
間違いないですね? 警部」
彼の問いかけに警部は黙って頷いた。
「でもね、不思議じゃありませんか? どうして、2人を殺害したあとわざわざ川に飛び込んだんでしょう? 金が目当てなら知らないふりをしてその後奥さんも殺害しようとするはずです」
ここで、待ったがかかる。警部がやらなければ私もするつもりだった。
「待て待て。被害者の義姉はもう死んでいるんだろう?」
だが、彼はニヤリと笑っただけだった。
「ああそうでした! それではどうやって誰がふたりを殺してしまった‼️ のでしょうか。
僕の推理はこうです。奥さんあなたは事件の前に、お姉さんと電話をしている。違いますか?」
「え、えぇ。でも、世間話をしただけよ!」
「刑部、実は奥さんの帰りが普段より遅かったって話があるんじゃないですか?」
と、言うと警部は驚いた顔をして彼の顔をまじまじと見つめた。
「いや…。だって友人と食事……」
「あー、それではありません。食事に行く前ですよ。もしくは、仕事の上がりが早かったとか」
このとき、奥さんの顔が少し引きつったのを、私は見逃さなかった。きっと彼女は、事件前に姉に会っている。
つまり、彼女は事件に少なからず関係していたのだ。
「おいおい、嗣岵ぁ……。姉が親子を殺すためハンマーを川に入れる。ただ、投げ入れて首が絞められるということは川の流れは早い。そして雨が降っていたということは岸は滑りやすい。それで滑り姉は川に転落。そのまま溺死とか…。
多分台所にある何かが鍵なのだろうがこういった推理もできるだろう? なにも奥さんが関係者だって証拠は…」
「もちろんです警部。それに僕の推理どおりならば、彼女がやったことはリスクがでかすぎる。だからこうしてお宅にお邪魔したんです。…………これを見つけるためにね」
彼が出したのは、粉の入った袋だった。どうやら台所に行ったのはコレを見つけるためらしい。
「でも、どうしてそんなところにあるって分かったんだい?」
「そんなことよりも! なんだそれは?」
二人の質問を受けても尚、彼は笑みをたたえたまま答えた。
あたかも当然かのように。
「これはゾンビパウダーです。これでお姉さんを操り人形にしたのでしょう?
ゾンビパウダー、とはブードゥー教という宗教で処罰に使われる、魔法の粉です。死者の魂、ゾンビを生成するのに使います」
「ぞ、ゾンビだぁ!?」
私達は心底驚いていたが、唯一、奥さんだけは諦めたような表情だった。つまり正しいのだろう。
「といっても死者を蘇らせるわけでありませんこの粉にはテトロドドキシンのような神経毒が入っています。これを服用された人間は脳に支障をきたし、仮死状態になります。この時このの濃度が適正ならば、仮死状態だった意識が復活します。しかし、脳は損傷を受けたまま、です。そしてブードゥー教はこの人間を奴隷として扱うのです。ここまで来れば分かるでしょう? 奥さんは、コレを使って夫と子供を殺害させて、さらに実の姉を自殺させたんだ。
さてさて。ボクの推理はこうだ。
あなたは朝、お姉さんに会って、ゾンビパウダーを服用させた。方法までは想像しかねますが、とにかくあなたはそれから仕事へ出かけたんでしょう。そして帰路についたとき、家に帰る前にお姉さんがちゃんとゾンビになったか確認しに行った。そしてこう言った」
と、言うと彼は電話に出るような仕草をした。
「これから音が鳴ったらこうしろ、ってね。そのあと、家からか、友人たちのもとへ向かう途中かは知りませんが、お姉さんに電話して、殺害を命じた。違いますか?」
私は、事件の真犯人の顔を見た。
彼女は、どこか安心したような顔だった。
「……いつ、分かったんですか」
「なに、事件の話を聞いたときから疑ってはいました。と、いうか警部がゾンビの話をしていらしたのでそこで目星が付きましたね」
まさか、あの時から。
私は感心を通り越して呆れて、思わずため息が出てしまった。
「ただ…人を絞め殺してからハンマーを括り付けて近くの川に飛び込むなんて……。それを脳が壊れた「ゾンビ」にやらせるのは正直大胆すぎると思いましてね。気が回らないのか、それともそんな大胆なことはやるはずがないという先入観につけ込んだのか。どちらにせよ、家を探せば見付かるも知れないと思い、伺ったのです」
紅茶も、ゾンビの話も全て彼の計算通りだったということだ。
「でも君。もしも『ゾンビパウダー』だっけ? それが見付からなかったらどうするつもりだったんだい?」
すると彼は少し困ったような顔で
「最終手段だが……」
ちらっと警部を見ながらぼそっと答えてくれた。
「………あまり信用はならないが、警察の家宅捜索か、ゾンビというこの事件のもっとも核心に近いところまで行き着いた警察に任せるつもりだったよ。僕はのらりくらりと適当に『調査中』とだけ言ってね」
奥さんが友人と出かけていたのは、ホストクラブだった。その友人も恥ずかしがって言いたがらなかったため、全く分からなかったことだが。
彼女は店へ通う金に使うためにこの凶行に至ったそうだ。なんでも、推している子と結婚するつもりまであったという。
「いつだって人間を変えるのは『欲望』だよ。正義感に駆られるにしろ、犯罪者になるにしろ、その大本にはいつもくだらない、『欲望』があるものさ」
そのことを伝えると、彼は私にそう言った。
「……にしても、ゾンビパウダーなんてよく知っていたね」
「まあね。探偵は色々なことに精通していないとやっていけないしね」
彼はさっき受け取った手紙を読んで、嬉しそうに笑っている。
「…誰からの手紙だい?」
「兄さ」
「そうか。知恵比べをしているんだったね」
この嗣岵という男を変人と呼ぶのなら、アニもまた変な人だな、と正直思った。
「どれどれ…『きょうの朝刊見たよ。みんな喜んでいるをのびのびと生活しているようだね?かあさんがたまには帰って来いだってさ。ちょっとでも顔を見せてくれるだけでも良いと思うよ。だから、また家で会おうね。と、思い出した。けい済回すためにも金は使えよ~。いやまあ、金がないなら別だけど。だい体君は慎重が過ぎる。いい?のリってのは大事だぞ。かあちゃんが言ってたから。り性も忘れずにwはやめに帰ってくればお父さんにも会える。いまの仕事が片づいたら来いよ?づぅったいだぞ!れん絡よろ~』…。変な文だね」
と僕が言うと、彼は首をかしげ、すぐに返信を書いた。
「『あさ早くから手紙ありがとう。りゆうも定期もなく来るのでびっくりしました。が。とうさんにも認められたかな?うんまあ。きみという大切な協力者がいてくれて良かった!みんな元気そうだね。はがき、今年も送るよ。かならず読んでね。いやー。嬉しいなあ。と、忘れていた。うん動もしなくちゃ駄目だよ。む駄な肉がない方がモテるからね。きみは頭は切れるのにもったいないよ。だから次合ったときはもっと痩せていてよ。よろしく!』」っと。
「さて、和戸くん」
「なんだい」
「この暗号を教えてあげるからこの住所に警察を送ってくれ」
それは、彼の兄の住所だった。
「…どうして?」
「…………あとで説明する」
私は、これまでにも彼の行動が理解できないと思ったことはある。たくさんある。しかし、この時ほど困惑したことはなかった。
だから、この時私を動かしたのは、彼への信頼だったのだろう。私はすぐさま警察署へ飛んでいった。
「……それで、あの手紙はどんな意味があるの?」
「文頭に注目するんだ。極めて単純だ」
…と、すると『きみのかちだとけいだいのかりはいづれ』。つまり、『君の勝ちだ。時計台の借りはいづれ』、ということだろう。勝ち、とはきっと彼らがしている知恵比べのことだろう。しかし、『時計台の借り』とは、一体……?
私は、彼と過ごす日々の中で、疑問に思ったことはすぐに尋ねた方が身のためになる、と言うことを知っている。だから、このことも尋ねてみた。
「なあ、この『時計台の借り』って何のことさ?」
彼はいつものニヤニヤした顔のまま、とんでもないことを言ってのけた。
「君が巻き込まれた事件のことだよ。あの怪盗は僕の兄だった。もっとも、コレを知ったのは事件が終わったあとだけどね。
たいしたもんだよ、兄は。なんせ探偵の僕の目を盗んで、ずっと怪盗をやっていたんだからね」
ははは、と朗らかに笑う彼を見ながら、僕は先程警察へ伝えた住所へ走ろうとした。
が、それを彼が私のスーツの裾を掴んで止めた。
「やめておきな。もう彼は移転している。僕も何回も彼から手紙が来た住所に行ったけれども、全部もぬけの殻だったよ」
「…犯罪者一家なんだ、ウチは」
私は私に濡れ衣を着せた彼の兄を許せそうにもなかったが、彼はそれで良いと言ってくれた。そして、初めて自分の事を話した。
「兄はさっきも言ったけど怪盗。両親は、立派にマフィアなんてやっているよ。暴力団だとか、そういうのとは違う。もっと根深く街を支配するような嫌な奴らさ。だから僕は彼らに反発する形で探偵なんてやっている」
何の言葉の出なかった。慰めたりするどころか、彼のコレまでの心情を察することすら出来ない。もしも自分の親が犯罪者だったら……。
「あ、そうそう。今回奥さんが買ったゾンビパウダーの出所はウチだったよ。彼女の計画を知った僕の友人が薬を売りつけたみたい。人を殺したいと思ってる人を探し出して家に説明書付きで送りつけているんだって」
慌てて証拠隠滅したなーと笑う彼に、再び私は殴りかかった。
諸悪の根源は意外と近くにいるものだ……。
嗣岵って字が書きづらい。