牢獄の情報屋
顔に傷のある男の騎士に弁明もできないまま牢屋に入れられてしまっていた。
「現行犯だからな、裁判が始まるまで大人しくしておけよ」
「いや、だから違うってーー」
バタン
男はそのまま立ち去って行ってしまった。
「はぁ、完全アウェーだな」
俺は貧乏ゆすりが止まらなくなっていた。周囲を見ても俺以外に人が見当たらない。
しかし、薄らと向かいの牢屋にも人がいるのが見えた。
結構な年寄りだな
俺が見ているとその老人の方から声をかけてきた。
「そんな若ぇのに何やらかしたんだ?」
ちょっと鈍った感じの田舎臭い喋りだった。
「何もしてませんよ。ただ向こうが勘違いしているだけで」
「ハハッ!それはおもしれぇな!ここの騎士共は人の話を聞くことをしねぇからな、そりゃ仕方ねぇだろうよ!」
老人は愉快そうに笑いながら言う。
「まぁ、ここのところ忙しそうだけどな」
「何かあるんですか?」
俺は気になった。
「ああ、なんでも裏宗教が潜伏してるって大慌てよ」
「裏宗教?ということは表もあるんですか?」
この発言は少し軽率だったかもしれない。
「はぁ?お前、しらねぇのか?」
俺は内心焦るが、こういう時のためのラノベである。
「ええ、ちょっと遠くの出身でして…。」
「ふーん、そうか。だったら教えてやるが、宗教と言ってもこの世に神は一人しかいねぇもんだから、教えがあるわけでもないけど、今この世を治めていると考えられているのは神星皇様だそうだ」
神星皇?
俺はその言葉に少し引っ掛かったが話を聞き続けた。
「ま、今神星皇様を崇めて礼拝しているのは神星国ぐらいしかないけどな。殆どが無信者だ」
「へえ、そういやあ、じいさんはいつからここにいるんだ?」
言ってから思ったが、老人の影響でかなり砕けた言葉遣いになっていた。
しかし、老人はその点に関しては特に気にしてないらしい。
「おれぁ10年ぐらい出たり入ったりを繰り返してんじゃねぇか?ガハハハ!」
笑うところか?それ
「けっこー色々やってんだな。なあ、出たり入ったりってことはちゃんと解放されるんだよな」
「うん?まぁ、裁判で決まった刑を終えたらな。俺のやったことなんかちいせぇことだからよ。短い時で7ヶ月だな」
な、7ヶ月かぁ〜
いや、俺だって一応は召喚されたんだし、すぐに解放されるはず………と言い切れないのが異世界あるあるなんだよなぁ
はぁ………
「そっか」
「なぁに気にするこたねぇよ。最悪アークダムに亡命すりゃいい」
「アークダム?」
「なんだお前それもしらねぇのか」
「悪いな」
「アークダムったらゼフォードと肩を並べる王国でよ。俺も元はそこの生まれなんだぜ」
アークダム王国かぁ、もし捨てられたらそこでも行ってみるか
このまま行くと上島あたりに殺されかけそうだからな
逃亡先は早めに考えておいて損はないはず
っていうか俺、襲われて逃げる前提なのな。情けねぇ〜
「まぁでも、ここからアークダムなんて行けるもんじゃねぇけどな」
「え!?」
衝撃の事実に俺は驚愕を隠しきれない。
「いやな、ゼフォードとアークダムは確かに隣接してるんだよ。でもその国境に問題があってなーー」
老人の話を要約すると、ゼフォード王国とアークダム王国の国境にはとても長い山脈があるらしい。
それでも関所はちゃんと存在していて、ゼフォードから関所に行くことはそう難しくないということ。
問題はその先にあった。
「魔の森……か」
「ああそうさ。あそこはバケモノみてぇな魔物が山ほどいやがるんだ。あんなところ王国騎士団も立ち寄らねぇな」
関所を通り抜けた山脈の麓には広大な森林が広がっているらしい。
世間一般では『魔の森』なんて呼ばれるほどで、そのこともあってか両国の外交は殆ど行われず、疎遠となっていた。
外交官が通れないような道を商人が通るはずもなく、直接的な交易も行われていなかった。
「ま、アークダムに行く方法もあるにはあるけどな」
老人は渋々切り出した。
「本当か!?」
俺は思わず大声で喜んでしまった。
「あ、ああ、ゼフォードの北側は海に面しているんだがな、海を渡ってヴリーミアっていう独立した島国があるんだ。そこからアークダムまでの船に乗り換えるんだよ」
「でもな、その方法はあんましオススメはしないぜ。っていうのもなーー」
ガチャン!!
突然牢屋部屋の扉の鍵が開く音がした。
鉄製の重々しい扉がゆっくりと音を立てながら開かれていく。
そして現れたのは最近よく見る顔だった。
「やあ、神谷君。随分質素な所に収まってるね」
「うるせえ」
どうやらルームメイトの雨宮が、俺を向かいに来たらしい。
「ボウズ、今回はこの方に免じて釈放されるけどよ。次はねぇからな」
相変わらず騎士の男は俺が犯罪者だと勘違いしているようだった。
「なんだ?お前、もう出るのか?」
先程まで会話していた老人が牢屋から出た俺を見上げて言う。
「ああ、俺は元から犯罪は犯してないからな。当然だ」
「そうか」
老人はただそれだけ言って奥へ行ってしまった。
そして俺は雨宮と収容所を出た、紅く染まった空が俺を出迎えていた。
それから俺は雨宮について行くように城に向かう。
その途中、ふと今朝の聞き取れなかった言葉が気になったので聞いてみようとした。
「なぁ雨宮、今朝の言葉ーー」
「神谷君」
すると雨宮は被せるように俺の名前を呼び、こちらを振り向く。
「君はもう少し自分の存在について意識をした方がいい。自分が何者で、どういう立場なのか。でないとすぐに死ぬかもよ?」
そう言って見つめる雨宮の目はまるで今後起こる何かを知っていて、その光景見たかのようだった。
「はぁ、ほんと君って何するかわからないよね〜」
少しの沈黙からまたいつもの調子に戻った。
「なんだよそれ」
俺も少し笑いが溢れてしまった。
それから王城へ戻ると委員長や先生、小鳥遊などが心配してくれていたようで、かなり厳しい注意を受けた。
最初に居ないことに気付いたのは小鳥遊だそうで自ら探しに行こうとしてくれたらしい。
そこで先生がルームメイトでもある雨宮に捜索を頼んだそうだ。
結局俺は今後の外出権を失ったと共に退屈な時間をどう過ごすかで頭がいっぱいになっていた。
夕食を終え、部屋に戻ろうとすると部屋から誰か出てきた。
よく見ると内田さんだった。
内田さんは小鳥遊達とは別の女子グループで今回の班分けには第3班にいた筈だ。
なんで彼女がこんな所に?
俺はそんな疑問を抱えつつ部屋に入る。
すると上裸の雨宮がベッドの上に寝転んでいた。
はあん?なるほどね
俺はこういう時取り乱さない。
「おい、ここは俺も寝る部屋なんだ。イカ臭くするなよ」
「うるさいぞ童貞君。別に彼女はそういう関係じゃないさ」
コイツに童貞と言われるのは尺だが否定はできない自分が恨めしい。
「僕がシャワー浴びてたら突然部屋を訪ねてきて、僕に告白してきただけだよ。もちろん断ったけどね、僕が今興味あるのは神谷君だし」
突然のカミングアウトに俺は全身の毛が身の毛立った。
え?コイツ怖っ!?
俺ももう寝てられねぇじゃん!?
部屋変えてもらおうかな
「ハハッ、冗談だよ冗談。僕にそんな趣味はないからね、安心していいよ」
いや、ものすごい笑顔で言われてもむしろ怖いんですけど!?
結局その日は寝付くことができなかった。
本当だろうな〜
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