王都の散策
翌朝。
ベッドから起きて隣を見ると雨宮はいなかった。
アイツ、帰ってこなかったのか?
俺が気になっているとシャワールームからバスローブを羽織った雨宮が現れた。
「おはよう。神谷君。もうすぐ朝食が届くから支度しておいた方がいいと思うよ」
そう言われて魔導時計を見ると既に起床時間を過ぎており、朝食が届くまで数分だった。
「やべっ、、」
俺は急いで支度をして顔を洗っていると朝食が届いた。
昨日と同じメニューの朝食を食べた後、今日もまた訓練場へ向かう。
そしてその訓練場に入って、雨宮と別れる時、奴が何か言っていたのだが、よく聞き取れなかった。
なんて言ったんだ?
でも最後の方に「気を付けろ」って聞こえた気もするけど……
とりあえず俺は考えるのをやめて、訓練をすることにした。
昨日と同じようにランニングをして筋トレをすると、また見学モードに入った。
しかし、みんながやっていることは昨日と同じで見ても特に面白くもなかった。
はぁ、俺も能力とか持ってたらなぁ
あ、そうだ。アレ聞いてみるか
俺は思いつくや否や、すぐさま行動に移る。
アレとは昨日の夜、ふと思ったアレだ。
俺は近くの警備兵に暇だから町を見に行きたいと伝えると意外にも簡単に了承してくれた。
まぁ、あくびしてたし、多分こっちの話なんざほとんど聞き流していただろうな
そんなことよりも町だ
俺は城の門兵に許可は出ていると伝えて城下町へと続く階段を降りていく。
階段を一段ずつ降りていく度にその光景は鮮明になっていく。
すげぇな
これが王都ってやつか
西洋風の建物が地平線まで延びており、舗装路を通る馬車や人はその雰囲気をさらに盛り上げている。
もしこれが元の世界ならばきっと世界文化遺産に登録されていることだろう。
うーん
少し視線を感じるな
というのも俺はまだ制服を着用していたからだった。
他のクラスメイトと違い、特に防具等を着ける必要もなかったので、制服のまま過ごしていた。
気にしても仕方ないことなので、俺は町を散策し始める。
へぇ〜写真でしか見たことないけど、やっぱり石レンガでできてんだな
木や鉄骨でできた家ばかり見てきたので石レンガというのは珍しく感じた。
しばらくメイン通りを歩いていると一段と賑わいを見せる通りを見つけた。
ここは……何をしてるんだ?
東南アジアでよく見かけるような市場がそこにはあった。
時代的に都市部でもこういう所は田舎臭いな
そうは言ったが、興味がないわけではないので立ち寄ってみることにした。
様々な店が並んでおり、野菜や果物はもちろん、布や糸、一部ではアクセサリも売っていた。
なんかフリマっぽいな
テントも張らずに敷物を広げてるだけのところもあったので一層にそう感じていた。
そして何を買うわけでもなく、ブラブラと見て回っていると、八百屋らしき店の前に立っているおばさんから声をかけられた。
「ちょっとあんた見なれない格好だけどよそ者かい?」
「ええ、少し遠いところから来ましてーー」
「そしたらあんた、これを持っておいき!ちょっと余っちゃってるのよ。若そうだし、いっぱい食べれるでしょ?貰ってって!」
おばさんの怒涛の押しに加え、最後に見せたニンマリとした笑みに、俺は特に中身を確認することもできずに苦笑を浮かべながら受け取ってその場を立ち去った。
あのおばさん、強そうだな(語彙力)
俺はおばさんから受け取った物を確認する。
主に野菜や果物ばかりだった。
俺は貰った野菜を丸かじりしながら再び歩き始める。
するとアクセサリ店だろうか。宝石のような煌びやかな物が並ぶその前を行ったり来たりする少女が目に映った。
年は十歳くらいだろうか身なりもちゃんとしていて、特に貧しそうには見えない。
しかし、こういう子でも悪事をしてしまうことがある。
それが人間だ。
明らかに挙動不審なその動きだが、店主は他の客の接待で忙しそうにしており、その少女に気づいている様子はない。
匂うな
俺は昔からこういう犯罪には鼻が効いた。
小学生の頃クラスメイトが万引きしようとしてたのを凛と二人で止めに行ったのが懐かしく思い出された。
ちょっと様子みるか
しばらく見ているとやはり俺の勘は当たったていたらしく、少女は商品に素早く手を伸ばすと、音もなくその場を立ち去った。
ビンゴ!
俺はすぐさまその少女を追いかける。
そして思いの外簡単に追いつくことができた。
俺は少女の手首を握り、逃げられないようにする。
「君、今何を隠した?」
少女は俯いたまま何も話さない。
俺は少女の耳元で小声で言う。
「盗んだよね、そのアクセサリ」
その言葉に反応したのか少女はバッと顔を上げた。
「助けて!!痴漢!!」
そして突然大声で叫び出した。
「はぁ!?ちょっと!」
その言葉に周りの男が俺を取り押さえる。
「こんな少女に手を出すなんて」
「おい!誰か衛兵呼んでくれ!」
少し大事になる予感がするが、取り押さえている男達の力が強く、抜け出せることができない。
「おい!待ってくれ!俺は痴漢じゃないし、そもそもあの子が万引きしてたのを止めようとしただけで」
俺は必死に弁解しようと口を動かす。
「はあ?マンビキ?訳のわからんことを言いやがって!」
はあ?はこっちのセリフだよ!
なんで痴漢は通じて万引きは通じねぇんだよ!
そして俺はそのまま警察署のような所まで連れて行かれてしまった。
そして今、取り調べ室のようなところで縄に縛られた状態で座らされていた。
しばらくすると騎士のような男が入ってきた。
男の顔には何かに切られたような傷があり、これまで数々の修羅場をくぐり抜けてきたような貫禄があった。
「名前は?」
唐突に始まった聴取に少し驚く。
「え、ええと、神谷悠二です」
「年齢は?」
「17です」
「職は?」
「一応この前まで学生でした」
「無職っと。つぎ、生まれは?」
無職と言われると少し不満があるけど、実際そんな感じだから仕方ない。
俺は次の質問にも迷いなく答える。
「日本です」
すると男は怪訝そうにこちらを見る。
「日本だ?そんな所聞いたことねぇなぁ」
「かなり遠い国ですからね。王城の人にでも確認とってもらえれば分かりますよ」
俺は多分世界の裏側も知らないであろう時代に未知の国だとを示すことは効くだろうと思ったことと、さりげなく王城の関係者だということをアピールすることで早期の解放を狙おうとした。
「はっ、お前のような犯罪者が王城と関係ある訳ないだろう」
そういうと男は立ち上がり「牢屋連れてけ」と衛兵に指示出しをする。
「ちょっと待ってくださいよ!俺は泥棒を捕まえようとしてーー」
「わかったわかった。でもな、あの子は何も盗んでなんかいなかったぞ」
は?
俺は少し頭が混乱したまま牢屋へと入れられてしまった。
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