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第3章番外〜大食い王の帰還〜中編

続きです。

 冒険者ギルドアレッシオ支部


「それが俺の今回の調査結果だ。ここ最近は特に出入りが激しい。そろそろでかく動くかもな…」


 ライアンは神妙そうな面持ちで話す。


「ええ、その話は彼の方からも聞いてるわ。彼の調査部隊も本腰を入れて取り組むそうよ」


「まぁ、この話はまだ表には出せん話だ。慎重に行く方がいいだろう。………それで?お前の方からも報告があるんだろ?」


 そう言われてギルマスは資料を渡す。


「なるほどな、Sランクが合計5体。うち4体は人為的に召喚された可能性があるか……」


 ライアンは手元の資料を念入りに眺める。

 ライアンの持っている資料は一週間ほど前、魔の森から出てきたレギノアス討伐の資料であった。


 Sランクが5体という異常事態ということもあって、本部でも問題視されていた。

 そして今回、SSSランカーのライアンに声がかかったのだ。


「それにしてもその5体を容易く葬る新人パーティか……そいつら人間か?」


「見た目は人間だけど、二人とも異質の魔力を感じるわね……ハクちゃんは何というか龍族に近い気もするし、ユウジくんに関しては初めて知る感覚だわ…」


 ギルマスは二人を初めて見たときのことを思い浮かべる。


 Aランクのルージスを倒した少女がいると見に行けば、とんでもない化け物がそこにいたのだ。

 ギルマスは少し身震いをする。


 あの魔力から感じられたのは明るく温かい心の奥底にある暗く冷たい恐怖すら覚えるような魔力だった。


 そしてその隣に立つ少年。

 彼から感じるのは全くの別物。

 人間の姿形をしているのに、中身はハクちゃん以上の化け物じみた魔力を持っている。

 私の鑑定眼を持ってしても底が見えなかったのがいい証拠だ。


 彼らがどんな目的でここにきたのかは分からない。けれど監視の意味でも冒険者ギルドに登録するなら安心だろう。


「お前にそこまで言わせるとはな……俺も会って見てぇな」


「彼らはすぐにSランカーになるでしょうね、それに魔闘会にも興味があるらしいから会えるわよ」


 魔闘会とはアークダム王国王都で開催される国内最大の武闘会で、優勝すればアークダム最強の証を手に入れることができるため、全国から力のあるものが集まってくるのだ。

 この詳しい話はいずれしよう。


「まぁ、俺はそっちには出ないがな」


「でもハクちゃんはそっちもいける感じよ」


「何!?……ほほう、それは楽しみだな」


 コンコンッ


 そのとき、会議室の扉からノック音が聞こえてきた。


「リリーです」


「入っていいわよ」


「失礼します」


 扉が開くと中からリリーが入ってくる。


「こちらが最近の魔の森のモンスターに関する資料です」


 リリーは手に持っていた書類をギルマスとライアンに手渡す。

 そして、ライアンは念入りに書類に目を通す。


「やはり多いな」


「ええ、ここ最近は特にね」


 ギルマスとライアンはお互い何かに納得したかのように頷く。


「何が多いのですか?」


 リリーはギルマスに尋ねる。

 ギルマスは話そうか戸惑うが、ライアンは構わないといった感じなので、ギルマスも説明を始めた。


「実はねーー」




 ***




「で?何で俺たちなんだ?」


 ルージスはリリーに不満そうに尋ねる。


「仕方ないじゃないですか。今のアレッシオにいる冒険者でギルマスとライアンさんに次いで実力のある『牙狼』のお二方に出てもらうしかないんですから」


「はぁ、まぁわかるけど……ライアン一人で充分な気もするが……」


 依頼された内容は魔の森とその周辺の調査で、SSSの実力を誇るライアンであればいとも容易く、むしろルージス自分達が同行する方が邪魔になるだろうと考えていた。


「おいおい、俺と仕事すんのは嫌か?」


 ルージスの後ろからライアンが笑いながら声をかける。

 ルージスをも凌ぐその巨体にルージスは一瞬ドキッとしたが、すぐに調子を取り戻す。


「い、いや、俺達がいたら邪魔なんじゃないかと思ってな」


「いや、今回はお前達が同行するからこそ意味があるのだ。だから気にせんでいいぞ」


 ルージスは頭の上に“?”を浮かべる。


「それについては私から説明するわ」


 ライアンの後ろからギルマスが現れる。

 その横にはレベッカもいた。


「彼女にはもう説明してあるから後はあなただけね。まず、今回の目的は魔の森とその周辺の調査。確かにこれだけならあなた達が参加する必要はないわ」


 ルージスは内心、そこまではっきり言うかよ、と、落ち込んでいた。


「でも、今回は違うわ。あなた達二人には報告係として参加して欲しいの」


 ルージスは「報告係?」と呟いていたが、レベッカや他のみんなは少し真剣な雰囲気であった。

 ルージスもその様子からなんとなく事態の深刻さを感じとる。


「お、おい、まさか!?」


「ええ、SSSランカー(ライアン)ですら敵わないのが出てくるかもしれないのよーー」




 ***




 これは先程のの会議室での会話の続きである。


「なるほど、確かに最近、Bランク以上のモンスターの出現報告が魔の森付近に多くありました」


「そうね、群れで行動することの多いBランクモンスターが、魔の森から出てこざる得ないとなると、魔の森にはさらに強力なモンスターが住み着いた恐れがあるわね。それに、人為的に召喚された可能性のあるレギノアスの件もあるから、この件の調査をライアンに頼むのよ」


「うむ、だがな………今回ばかりは俺だけでは済まないかもしれん」


 ライアンは顔を険しくする。

 その様子にリリーは息を呑んだ。


この人(SSSランカー)がそこまで言うなんて……あの森の奥にはSランクモンスターが群れで生息して、山脈にはそれらを超える主が存在しているって聞いたことはあるけど………)


「それでだな、今回は助っ人を入れようかと思ってなーー」




 ***




「ーーなるほど、まぁ事情はわかった。それで、レベッカもいいのか?」


「ええ、ライアンの頼みだもの。受けないわけがないわ」


「ごめんなさい、ギルドとしてもあなた達を巻き込んで申し負けないとは思っているのよ」


 ギルマスは心配そうにルージスら二人を見る。

 しかし、そのような心配も必要はないらしい。

『牙狼』の二人にはこれから待ち受ける試練に対して、不安よりも覇気に満ちていた。


「俺たちはAランクパーティだ。それに、俺たちの背中を爆速で抜き去ろうとする奴らがいるからな、怖気ついたなんては言ってられないよ」


「そうね。彼らに負けないためにも私達は頑張らなきゃ行けないもの」


「だからといって、調子に乗って大怪我したりするなよ〜」


 ライアンがニヤリと笑いながら言う。

 ギルドの内で少し笑いが起こった。温かい空気の中、誰しもが安心している。

 SSSランカーという存在はそれだけ大きいのだ。




 ***




 その日、もう町の子供達は寝静まった頃。

 ライアンはユウジ達がいつも使うアレッシオの宿屋の前に来ていた。


 ぶら下げられた看板は少し古くなっており、あまり文字が読めない。

 しかし、ライアンは覚えている。

 その看板に書かれていた文字のことを……

 ライアンは少し懐かしさを感じながら扉を開ける。


「この時間はもう泊まれないよ」


 扉がカランカランと音を立てたことに気がついたここの女将が奥の方から出て来ながら言う。

 たぶん明日の朝食の準備をしていたのだろう。


「って()()()!帰って来てたのかい!?」


 ビクッ!


 急に話しかけられたので、ライアンは体を震わせた。


「い、いや〜その……仕事でな、一時的だよ……」


 ライアンからは何やら焦りの色が感じられる。

 すると女将はライアンを目を細くしながら見つめる。


「ほぉー、この一年、仕事で出て行ったきり何の便りもなしで私ら家族をほったらかしにした挙句、帰ってきても何にもなしにまた仕事かい?」


 女将はライアンの胸をつつきながら少し強めに憎たらしく言う。

 ライアンの汗はブレーキを踏むことを知らなかった。


「まぁでも、生きててよかった。アンタが無事でホッとしたよ」


 女将はライアンの胸に頭を預ける。


「ユネリ………」


 ライアンはユネリの頭を撫でる。

 ライアンはこの時、心底この女性と結婚して良かったと思うのであった。


「アンナはもう寝てるか?」


「ええ、寝てるわよ……最近、この町に来たウチのお客さんと仲が良くてね、今は少し長旅だからいないけど、「帰ってきたら旅行のお話をいっぱい聞くんだ」って、楽しみにしちゃってるのよ」


「そうか、それは良かったな」


 ライアンはこの家族を、この町を守るために、明日の仕事をに意気込んだ。

後編間に合いませんでした。

すみませんm(_ _)m

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