第3章番外〜大食い王の帰還〜前編
お久しぶりです。
番外編です。
本編にも繋がっていくので、読んでいただけると嬉しいです。
ここはゼフォード王国とアークダム王国を隔てる魔の森に隣接する町、アレッシオ。
シュルメイダー領最大の都市でもあるこの町には知る人ぞ知る伝説があった。
***
冒険者ギルドアレッシオ支部。
「リリーちゃん!今日も可愛いよ〜!」
朝方から酒に酔っ払ったおっさんどもがアレッシオの看板娘とも称される受付嬢のリリーを囃し立てていた。
「あなた達!そんなことしてる暇があったら依頼でも探したらどうなの?」
そう言って、酔っ払い冒険者達を叱りつけるのはAランク冒険者のレベッカだ。
レベッカによって睨みつけられた冒険者達はそそくさと散っていく。
レベッカは裏でアレッシオの女番長と呼ばれているだけのことはある。
「おはよう。リリー」
静まり返ったその場の空気を読まずにリリーに挨拶をするのはレベッカ同様Aランク冒険者のルージスである。
レベッカとパーティを組む『牙狼』ではもう一人を加えた3人編成で、ルージスはそのリーダーでもあった。
「あれ?ヨットさんは居ないんですか?」
ヨットとは『牙狼』の最後の一人であり、一部では生きる新聞とも言われているそうだ。
………ちょっとダサい気もするが本人は気にしていない様子。
「ああ、ヨットの奴は実家が何だとか言って出て行ったな」
「へぇ〜、ヨットさんの実家ですか……少し気になりますね…」
リリーがこの町に来てからもう3年以上が経っているがその当時からいるヨットについて詳しく知る者は居なかった。
「やめておいた方がいいぞ。アイツを追いかけるのは時間がいくらあっても足りやしない」
ルージス達も以前ヨットを尾行しようとしたらしいが、全て撒かれてしまい、結局真相には至らなかったとか。
ルージス達はもう既に諦めているのであった。
「そういえばユウジ達は居ないのか?最近見かけないが………」
ルージスは辺りをキョロキョロと見回す。
しかし、いつも少しやる気なさそうにしている青年といつも何かを食べている少女の姿は見えない。
「あ、あの時はヨットさんしか居ませんでしたもんね」
リリーは手を叩いて頷いている。
「Bランクパーティの『白銀』は現在遠征で商業都市ハーレイの方まで行っているんですよ!ホントに羨ましい、私も行きたかったです」
リリーはついつい本音を口にしながら説明する。
時間軸的に言えば、今日はユウジ達が出発してから3日ぐらいであった。
「へぇ〜、あのアークダム最大の都市に!確かにそれは羨ましいな」
ルージスはハーレイの街並みを思い浮かべる。
ルージス達が最後に行ったのは一昨年も前のことなので少しうろ覚えなところはあるが、楽しかった記憶がある。
「リリーは行ったことあるのか?」
ルージスが聞くと、リリーは下を向いてボソボソと呟く。
「………ないです」
リリーは心底落ち込んだ様子で、負のオーラがギルド内に広がっていった。
「あら?どうしたの?」
酔っ払い冒険者達を追い払っていたレベッカがルージスの横から顔を覗かせる。
「ああいいところに!」
ルージスは事の成り行きを説明する。
ルージスは基本的に会話が得意ではないので、こういう時はいつもレベッカ頼りなのであった。
「ーーーなるほどね、なら今度有給でも取って行ってきたら?『白銀』の二人でも連れて行けば護衛にもピッタリでしょ?」
レベッカの顔が一気に明るくなる。
まるで『その手があったか!』と物語る顔でレベッカを見つめる。
その様子に若干レベッカは引いていた。
「ありがとうございます!じゃあ『白銀』の二人が帰ってきたら早速行っちゃおうかな〜♪」
リリーの頭の中はもう旅行のことでいっぱいである。
「それはしばらく無理ね」
どこかからリリーの妄想に水を差す声。
少し色っぽい声の持ち主は冒険者ギルドアレッシオ支部のギルドマスターである。
種族はエルフと希少な種族でありながら、その年齢は不詳。しかしその実力は本物で冒険者時代はSSランカーの超エリートだったとか!
色気のあるその容姿に垂れ下がる二つのスイカ。
ここ、冒険者ギルドアレッシオ支部がおっさんどもに人気な理由がそこにあった。
「ギルマス!おはようございます!それよりもどういう事ですか?しばらく無理って………?」
リリーはギルマスに尋ねる。
「まず彼らは1ヶ月以上に渡る依頼に出かけたのよ?まだ3日しか経ってないわ」
確かにその通りである。
ユウジ達が戻ってくるのは最低でも来月なのだ。
そう考えるとリリーは少し肩を落とす。
しかし、ルージスは少し別の部分が気になっていた様だ。
「まずってことはまだあるんですか?」
「ええ、そうよ。明日、彼が帰ってくるの」
その言葉に一同は納得した顔になる。
しかし、リリーだけは何のことを言っているのか分からなかった。
「はぁ、リリー、先週も言ったでしょう?」
先週というキーワードにリリーは記憶に検索をかける。
「先週、先週………あっ!」
「漸く思い出したようね。明日にはライアンが帰ってくるから出迎えなければならないと言ったでしょう?」
リリーは完全に忘れていた。
ここ最近、特にユウジ達が来てから事務の処理で右往左往していた為、すっかり記憶から抜け落ちていた。
「そういやその時期か」
「ああ!アイツが帰ってくるのね!」
「皆さん知ってるんですか?」
リリーはルージス達に尋ねる。
「そうか、アイツが居たのはリリーが来る前のことだからな。知らなくても当然か………アレッシオ最強と謳われた冒険者、大食い王ライアンを…」
大食い王。
それは、アレッシオに限らず、この世界のものなら知らない者はほぼいないと言われるほどの人物であり、アレッシオ伝説の冒険者と謳われるほどだった。
「なんだか怖そうです〜」
「怯えなくても大丈夫よ。アイツは熊みたいだけど基本的に温厚だわ」
ドスンッ! ドスンッ!
ギルドの外から大きな足踏みの音がだんだんと大きくなるのが聞こえる。
「以外と早くに着いたのね」
ギルマスはギルドの外へと向かう。
「な、なんか凄い音がしましてますけど………」
するとギルマスが中に入ってきた。そして、その後ろから2メートル以上ある大男が入ってきた。
「よう!お前ら、元気にしてたか!」
「当たり前だろ!」
「老けたか?ライアン!」
「今から飲もうぜ!」
ライアンが笑顔で言うと、周りの冒険者もそれに反応する。
リリーの緊張も少しだけ解ける。リリーは、もっと怖い存在なのかと身構えていたが、どうやら違うらしい。ギルマスの言っていたことは正しかったようだった。
「はいはい、それは後にしてください!…今から少し会議がありますから」
ギルマスはライアンを連れて会議室へと入っていく。
入る際、「リリーも来てちょうだい」と言われてしまったので、少し不安だがリリーもその大男の後ろをついていくのであった。
「それにしてもアイツが帰ってきたってことはーー」
「ええ、そうね」
ルージスとレベッカはお互い、アイコンタクトで互いの認識を確認する。
「はぁ、何もなければいいんだが……」
この後すぐに続きを投稿します。




