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親の愛、子の愛

ちょっと長いです。

 パウエル転移後。王宮。


 フードを被った男が笑いながら王がいる玉座の間へと入る。


「貴様!何者!………ぐわっ!」


 衛兵たちが男を取り抑えようと仕掛けるものの軽く捻り潰されてしまう。


「ククク、ハハハ!」


 フードの男はフードを取り、その姿を王の前に顕す。


「貴様、その姿………悪魔か?」


 王はその姿を見て驚く、フードをとった男の頭には角があり、その瞳は紅く染まっていた。


「ああそうさ!今宵!俺の計画は成就する!」


 悪魔は自らの影を操り、その後ろで蠢かせる。


「な、なんだ!?それは!?」


 王は次第に大きくなる影を見て恐怖する。


「出でよ!我が僕!」


 すると、影の中から鬼の様な魔人が現れた。

 その体長はおよそ3mは超えているだろうか、大きな体には鋭い牙、頭には3本の角を生やし、手には巨大な斧を持っている。


「やれ」


 悪魔のその命に従い、魔人は斧を振るった。




 ***




「どういうことだ!状況を説明しろ!」


 レオンは報告にきた衛兵に少し声を荒げる。


「そ、それが…魔人と思しき化け物と悪魔が王宮内で暴れまわっているそうで…現在、応戦中とのことです!」


「わかった、ご苦労、下がっていいぞ」


 レオンは衛兵を下げ、新たに指示を出す。


「総員!王都へ援護に向かう!急ぎ準備をしろ!」


「なんてこった!父上達が!」


 パウエルは頭を抱えて嘆く。


「いえ!お兄様!きっと勇者様が助けて下さいますわ!」


 どんだけ頭の中お花畑なんだよ!


 俺は内心ツッコんでいるとカイルが意見する。


「その、フードの男の事なのですが………」


「なんだ?何か知っているのか?」


「はい。ユウジさんには以前、父が男と会っていたことを話しましたね」


 俺はカイルが何を言いたいのかが分かった。


「そいつが………」


「ーーーはい。その男もフードを被っていました」


 カイルは何故だか申し訳なさそうに打ち明ける。


「カイル、他に何か言っていなかったか?何でもいい」


「あ、ユウジさん達と出発する2週間ほど前、父様は男との会話で王種がどうとか聞こえました。今回の事件、もしかしたら父が関わっているのでは!?」


 王種だと?今回の事件、王種が関わってくるのか?


「なるほど、バウザー子爵か……彼は中々敏腕だったのだが………しかし、今は領内にいるのだろう?」


 レオンはカイルに尋ねる。


「ええ、その筈です。でも、妙に胸騒ぎがして……」


 カイルは胸の辺りを抑えながら顔を暗くする。


「まぁ、取り敢えず現地に向かった方がいいだろう。王宮はここからどれくらいなんだ?」


 俺は近くの衛兵に聞く。


「大体100キロぐらいですかね」


「ありがとう」


 それから俺は魔力感知と空間魔法をフルで使い。100キロ圏内までその範囲を広げる。


 うおっ!


 突然入ってくる多量の情報に少し目眩がする。

 基本的に1キロ圏内までしか行使していないので、その100倍ともなると、かなりの負荷は当然かかった。


「よし!」


「どうしたんですか?ユウジさん」


「ああ、王宮の位置を確認した。これでいつでも行ける」


 俺はちょうど100キロの所にある王宮の座標を確認する。


「ええ!?行けるってどういうことですか?」


「そのままの意味だ。ワープだよ」


 レオンも驚いている。


「ワープか……伝説の空間魔法を操る者にしか扱えないというあの!」


 まぁ、俺のはその上位互換だけどな


「で?今は緊急事態だ。俺と白は行くとしてカイル、お前はどうする?」


 俺はカイルに尋ねる。


「………確かに父様が関わっているとは言い切れません!でも…僕はそれを、自分の目で確かめたいと思います!ユウジさん!僕も連れて行ってください!」


 カイルはいつになく真剣な表情で頭を下げる。


「よし!それとレオンはこいつらと後から来てくれ!まぁ、その頃には全部終わっているだろうけどな」


「分かりましたよ。それとカイル君、例えどんな結果であろうとも、君は自分を貫きなさい。それが君のお父さんと対立することになったとしても」


「はい!」


 カイルは威勢の良い返事をして俺に掴まる。因みに白も俺の右手を繋いでいる。


「んじゃ、行くぞ!」


 今回の件、王種が関わっていようがなかろうが国王に恩を売るチャンスだからな、死ぬなよ。王様


「『転移(ワープ)』!!!」


 俺達は魔法陣から放たれる白い光に包まれる。そして光が徐々に消えていくと、俺達の視界が開けていく。

 辺りを見回すと、真っ赤に燃え上がる炎に囲まれていた。


「こ、これは………」


 カイルは余りの惨状に言葉を詰まらせる。

 王宮内の装飾品は壊れて、壁も一部崩れていたりと、悲惨なものだった。

 すると、奥の方で悲鳴が聞こえた。


「こっちか!白!お前が先頭しろ」


「え〜、めんどくさいのじゃ〜」


「仕方ないだろう。お前の方が五感は優れているんだから」


 俺は白を無理矢理前に行かせる。

 反魔力感知でも敷かれているのか、魔力感知だけではどうにも心許なかった。

 なので、そこは龍である白に頼ることにする。


「おい、カイル!何やってんだ?早く行くぞ」


 カイルは足下に転がる死体を見つめたまま動かなかった。


「は、はい!」


 俺に気づいたカイルは慌てて付いてくる。


 うーん、こいつには少し重かったか?


 俺達は白を先頭に走る。

 衛兵達の死体だろうか、首の上が潰れているモノや、下半身が無いモノまであった。

 俺達が奥に着くと、悪魔と魔人が横たわる王とその側で腰を抜かせている王妃に迫り、追い詰めていた。


「いたのじゃ!」


「チッ、何故だ……何故ここにキサマらがいる!!」


 悪魔はこちらを振り向くと怒鳴り始めた。そして、魔人に命令する。


「こいつらを纏めて殺せ!」


「ア、ヴゥ」


 すると魔人はこちらに向かって走ってくる。


「いきなりかよ!白!お前、こいつをなんとかしろ!俺は奥のやつを叩く!」


「了解なのじゃ!」


 俺は白に指示した後、カイルを連れて悪魔の方へと向かおうとする。


「おい、カイル!何やってる!」


 見るとカイルは目から涙を流して向かってくる魔人を見つめたまま、その場に立ち尽くしていた。

 その瞬間俺は悟った。この魔人こそが彼の父だったのではないかと。


「チッ、カイル!レオンの言葉を忘れたか!テメェの親父が例えどんな風になろうと、今!お前は自分を貫き通せ!そして、お前自身が今できることを考えろ!」


 俺はカイルに向かって叫ぶ。

 自分でも何を言っているのか分からなかったが、今の俺にはただカイルに向かって叫ぶことだった。


「僕……だけにできること………」


「そうだ。まずはあそこの二人を保護する。一人は倒れているがまだ死んではない」


「………はい!」


 カイルは再び瞳に熱を宿して王と王妃の方へと向かう。

 すると悪魔が走るカイルに向かって魔法を放とうとする。


「おっと、そうはさせないぜ」


 当然の如く、俺は悪魔の邪魔立てをする。


「貴様………」


「悪いがお前の相手は俺だ。白!そいつは殺すな!生け捕りにしろ!」


「ええ〜〜!?ユウジはまた面倒くさいことを言うのじゃ〜」


 こいつ、最近反抗的だな。思春期か?


「できたらご褒美をあげてやる」


「ーーー分かったのじゃ!妾、頑張るのじゃ!」


 白は目の色変えてやる気を出す。


 相変わらずチョロいな


 そんなことは置いておいて、今は自分の敵に集中するとしよう。

 理由はこの悪魔は今まで戦った中では一番強いと判断したからだ。

 神と同等の力を手に入れたとはいえ、未知の敵に警戒するのは基本中の基本、俺は全ての場合を想定して戦いに挑む。


「クソっ……ユウジ………貴様とは戦うのを避けたかったんだが、仕方ない。あの方の為、ここで俺が潰してやる」


 悪魔は早速魔法陣を展開し、俺に向かって魔法を打ってくる。


「『影遊び(シャドー・ダンス)』!」


 悪魔は足下の影を浮かび上がらせ、俺に向かって鋭く影を伸ばす。

 俺は神王の眼(ゼウス・アイ)でその動きを予測しながら躱していく。


 それにしてもこいつ、俺の名前を知っているのか…?それに、あの方ってのも気になるな


 俺が躱し続けると、一度攻撃が止む。

 それにしても思っていたより弱いな…


「くっ、小賢しい」


 すると今度は自らの掌に影を集め出した。


「流石にそれはやばいかもな」


 俺がではなくこの建物が、だ。

 今この建物が崩れるのは流石にまずいので、俺は少しだけ警戒レベルを引き上げる。


「『影の衝激波(シャドー・インパルス)』!!」


 悪魔は影の球体を俺に向かって投げる。


 ん?あ、そういう系ね


 俺は敵の攻撃を理解すると飛んできた球体を素手で掴む。

 見た感じ、周囲の魔素を圧縮しただけの魔力玉みたいな感じだった。


「なっ!?」


「え!?」


 敵の悪魔は勿論、負傷者を保護するカイルも驚いていた。


「そんでもって、こうだな」


 俺は影の球体を消す。

 実際には亜空間の中にしまっただけなのだが、当然そんなことを知らない他の者達は何が起きたのかわからなかった。


「ば、馬鹿な………それで、国一つ滅ぼせるのだぞ!」


 悪魔は動揺している。


「やっぱりそれなりに危険だったか、これは尚更食らうわけにはいかなかったな」


「貴様ァァ〜〜!!ーーーおい!魔人!何をしている!」


 悪魔が魔人の方を見ると信じられない光景が広がっていた。


「まさか………これほどだったとは」


 悪魔は膝を地につける。


「ユウジ〜!こんな感じで良いのか〜?」


 白は顔面が腫れまくっている魔人を顔だけ出した状態で地中に埋めていた。


「おお〜〜!!そんな感じそんな感じ!いいぞ〜」


 俺は白を褒めてやる。


「やったー!ユウジ褒めてもらったのじゃ〜!今日は焼肉なのじゃ!」


 俺は最後の部分を聞かなかったことにして、悪魔の方に向き直る。


「さて、お前に問う。お前の目的は何だ?」


「フフフ、それを言うとで思ったか?貴様らはいずれ知ることになる………あの方の恐ろしさを………」


 その瞬間、影が悪魔を取り込むと悪魔は消えていった。


「なっ!?………チッ、逃げられたか」


 感知にも引っかからないので、空間魔法の一種であろう、ユウジは落胆しつつ魔人の方に向かう。


「お前、人の言葉は分かるか?」


 俺が魔人にそう声を掛けると、魔人は呻き声のような返事をする。

 悪魔による使役効果も切れたのだろう。

 先程まで紅く光っていた目が今は青く落ち着いている。


「なるほど、まぁあんたの肉体損傷率や残りの魔素量から見ても、助かる見込みは正直ない。まさかこんなことなってるとは誰も思わないからな……まぁ、後はあんたら親子に任せるよ」


 俺はカイルを連れて魔人と会わせる。


「やはり、父様なのですね?」


 魔人は何も返さない。


「何故ですか………何故なんですか………貴方はどれだけ迷惑をかけたと思っているのですか!!」


 カイルは魔人の前に座り、だんだんと声を大きくしていきながら、怒りをぶつける。

 もちろんその返事も返ってこない。

 カイルは目に涙を浮かべながらその雫をこぼさないように必死にこらえながら言う。


「父様、僕は貴方に憧れてもいたんですよ………」


 動くことのない魔人の前でカイルは堪えきれそうにない涙を流しながら悔しそうに拳を握る。

 俺はその様子を見た後、カイルの隣に並ぶ。


「アンタは馬鹿だよ。こんな親思いの息子なんてそうはいないぞ?」


「ヴゥ」


 魔人が呻き出すと、突然額から紅い球が出てきて、その結晶が割れてしまう。すると、魔人の体は元のバウザーの体に戻っていた。


「父様?………父様!」


 カイルが泣きながらバウザーの顔に抱きつく。バウザーも意識はあるのかカイルに答える。


「カイル………か?」


「はい!父様!」


「すまなかった………その……今まで………」


「ーーーホントですよ!………全く、父様は自分勝手過ぎます。僕に!母さんに!そしてみんなに!どれだけの迷惑をかけているのだと思っているんですか!!……僕は辛かった………悲しんでいる父様を見て……」


 カイルは震える声で、父にその思いをぶつけ始める。


「ーーーその、お前自身にしていた仕打ちは辛くなかったのか?」


「それも辛かったですよ!勿論!………でも、それ以上に父様が辛いんだろうなって思うと、あんなのは幾らでも我慢できます!」


「!?」


 カイルのその言葉を聞いて、バウザーは目からポタポタと涙を流し始めた。


「すまない………カイル。私は………アリアが死んで、何もかもを失ったと絶望していた。私はお前がいながら、お前を子として扱っていなかった。いつしか道具として、駒としてしか見れてなかった。そんな私でも許してくれて………ありがとう………」


 バウザーが頭だけ地面から出した状態で話しているのは非常にシュールだが、それは言わないお約束である。


「ユウジ君、君には事の真相を伝えておこうーー」


「ーーユウジ君、カイルを頼んだ」


 俺はバウザーから今日に至るまでの真相を聞き、少し考えると、バウザーは最期に微笑みを見せる。

 そしてそのまま、バウザーは光となって消えてしまった。


「………父様?………父様〜〜!!!」


 そこには穴の空いた地面の前で咽び泣く一人の少年の声が響き渡った。

令和ね令和

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