墜落の王宮
*改稿しました。「瘴気の森」→「魔の森」等
「ーーーで、どういうことですか?」
夕食の席で隣のカイルは俺に耳打ちで聞いてくる。
「何でリリア王女がいらっしゃるんですか?」
カイルの疑問も当然であろう。
出かけた上司がさらにその上司を連れて帰って来たんだ、しかもサプライズの。
優しい俺は的確に答えてあげる。
「今回非常に残忍な殺戮事件が起こってな、その事件のある意味被害者だったから一応連れて帰ったんだ」
「ある意味ってのは気になりますけど、殺戮事件ってどういう事ですか?」
「フードを被った男が複数名を粉々にしたんだ」
中学生くらいの男の子に対してする話では無いだろうが、この世界の残忍さは遅かれ早かれ知るべきことなのだ。
「フードの男ですか………」
あれ〜?今の割とグロめの話なんだけど………スルー!?
カイルは顎に手を当てて何かを考えている様子。
俺の心は17年間の人生でどんな孤独にも耐えられるように鍛えられているのでこの程度では心傷にも至らなかった。
「それにしても大丈夫ですかね?王宮の人を勝手に連れて来ちゃって」
カイルは考え事を辞め、頭を振ると直ぐにこちらに向き直る。
「まぁ、そこら辺はレオンが何とかしてるだろう」
そこで従者がレオンに耳打ちをしているのが見える。
なんだか次第にレオンの顔が青ざめていった。
「何を話しているんだ?」
すると今度は部屋の扉が勢いよく開く。
カイルや白なんかはその音に反応してしまう。
今度は何だ?
誰かがここに来たのは感知していたが、こんなにも凄い勢いで扉を開けるとは思わなかった。
魔素量から従者か何かだと判断したからだ。
「リリアはここか!」
入って来た人物は大声で叫ぶ。
顔は割とイケメンで王女と同じ金髪の青年だった。
っていうかあの王女、リリアって言うのか………今更だけど
「お兄様!?」
リリアは立ち上がり入って来た男に向かって叫ぶ。
「おお〜!愛しのリリアよ!君が危険に晒されたと聞いて飛んで舞い降りたぞ!」
男は宝○歌劇団の様な振る舞いでフィギュアスケートのトリプルアクセル並みの回転をしながら、リリアの前と移動する。
お兄様!だと?じゃあこいつはーーー
「パウエル王子、今は食事の時でございます。今暫くお待ちください」
レオンが丁寧に対処する。
「ふむ、レオン卿か、それは済まない。皆!僕の名の下に食事の時を持ちたまえ!」
パウエルが手を広げるとスポットライトが当たり、花吹雪が舞う。
どこから出てきたんだよ…
***
領主邸一階談話室。食事後。
ここでは俺、レオン、サラ、リリア、パウエル(一応カイルと白もいる)が今後の方針なども含めて話し合っていた。
「ふむ、ところで君達は誰かね?」
パウエルは足を組んで俺と白を指差す。
「態度のでかい奴だな………」
俺はボソッと小声で呟く。
「ユウジさん、それブーメランですよ」
カイルが余計な一言を言う。
俺にも自覚が無いわけではないので、放っておいて欲しいところでもあった。
「この者たちは私が雇っている冒険者です。腕がたちので今回の事件に協力してもらっているのです」
レオンは説明する。
元々雇っているのはカイルだが、事件解決の協力の為だからな。
あと報酬………
「ふーん、あっそう。それよりリリア、大丈夫だったかい?」
パウエルは聞いておきながらまるで興味のかけらも示さない。
レオンを見ると額の血管が浮いている気がした。
この王子はダメそうだな。王女の方も特殊な感じでダメそうだ
俺は王子達に見切りをつける。
せめて国王はまともであって欲しいと願うのであった。
「ええ、お兄様。私は問題ありませんわ、なんせ!勇者様が私を助けてくださったのですから!」
リリアは嬉々として立ち上がる。
「勇者だと?」
対して少し冷たい声でパウエルは呟く。
「ええ!そうですわ!私が襲われそうになったところを勇者様が助けてくださったのですわ!」
さらに対してリリアは興奮した様子で語り始める。
まるで少女漫画のように薔薇に囲まれたお姫様だった。
いや、本当にお姫様だったな
「僕のリリアに手を出すとはいい度胸!其の者を捕らえて参れ!!」
パウエルは立ち上がり、天井を見上げて薔薇を吹雪かせる。
やっぱ兄妹だな、こいつら
収まりがつかなくなりそうなところでリリアが話題を切り替えた。
俺はそのやり取りにマイペースだなと言う感想を持った。
「そういえばお兄様、随分と早くにいらっしゃいましたがどうなさったのですか?付き人の方もいらっしゃらないようですしーーー」
確かにパウエルには従者の一人もついて来ていなかった。
こんな王子を一人で出歩かせるなんて、この国も終わってるな…
俺が呆れていると、パウエルは説明する。
「ふむ、それがな………」
***
ハーレイ殺戮事件からおよそ5時間後。
王宮にて。
「ふんっ♪ふふん♪♪」
鼻歌交じりにパウエルは王宮の廊下をスキップしている。
「今日も楽しい一日だ♪………おや?」
パウエルがふと足を止めるとその視線の先にはフードを被った男がいた。
「そこの者!お前は何をしている!」
気になったパウエルが声をかけてみると男が近づいてきて、言った。
「いえ、私はゼン王太子殿下の遣いでして…」
するとパウエルは考えて、
「なるほど、我が兄上の………よし、私も付いて行こう!」
パウエルは何を思ったのかはわからないが男に同行しようとする。
「い、いえ、パウエル王子も忙しの身、ここは私にお任せくだされ」
男は何とかパウエルを引き離そうとする。
「はっ!そうであった!今日は我が妹が王宮へと帰ってくる日!」
パウエルは薔薇で自身を輝かせながら思い出す。
すると男は少しだけ考えて、何か思い出したようだった。
「そういえば、パウエル様。その妹君が大都市ハーレイで事件に巻き込まれたようなのです」
「何!?それは誠か!こうしてはおれん!直ぐにでも父上に報告せねば!」
パウエルは興奮した様子で王の下へと向かおうとする。
「お待ちくだされ!パウエル様、それでは遅いやもしれません。ここは私にお任せくだされ」
***
「そしたらその男、僕を一瞬でここまで飛ばしたのだよ!なんとも見事であった!」
パウエルは高々に笑いながらドヤ顔をしている。
「「「「………」」」」
一同が沈黙であった。いや、一人だけ違うが
「お兄様も大変でしたのね」
………やはり兄妹だな……いや、王族だからか?
俺がそんなどうでもいいことを考えているとレオンが耳打ちしてくる。
「パウエル様が言うフードの男って………」
「………まぁ、そうだろうな」
俺もレオンの考え方に同意だ。
というか嫌な感しかしない。
するとまた扉が勢い開く。
「レオン様!報告です!王宮から緊急事態とのこと!応援要請が確認されました!」
衛兵の一人が大慌てで駆け込んできた。
ほら、言わんこっちゃない




