サスペンス的な………
俺…思うんだよ。
こういう王女様とのラブコメ展開ってさ、異世界最強主人公にはお約束じゃない?
なんか…おかしくね?
自分で言うのもアレだけど……俺って最強じゃん?
レギノアス3体を同時に一撃で倒せるくらいには最強じゃん?
でも、俺の周りの奴らで俺に好意を寄せてる奴……いなくね?
白はただの能天気バカだから論外。ビアンカはロリコン。ギルマスは……。
あれ?
そもそも今までにハーレム要素ってなくね?
で、今回登場してきた王女様は得体も知れない勇者に恋してるときた…あれ?
俺……一応この世界じゃ最強だよね?
チートだよね?
なんかゲームに勝って勝負には負けてる感が半端ないって………
***
「王女様!一体どういう事ですか!?」
レオンは王女に説明を求める。
それもそのはず、なんと言ってもあの勇者が現れたのだから…
「ええ、レオン卿。私はこの目でしっかりと見ましたわ!」
王女もなんだか興奮気味である。
「お嬢様にも遂に想い人が………」
サラは混乱して部屋中を歩き回っている。
なんだろ……ゼロの意思を受け継いでこの世界を救うとか言ってきたけど、なんだかモチベが上がらない
俺は一人この世の終わりについて悟るように考えてた。
「あれは勇者様よ!悪の手下から私を守ってくださったのよ!」
王女の言っていることは本当に意味不明だった。
こいつ、精神干渉でも受けてんじゃねぇの?
俺は神王の眼で体内の魔素を確認する。
異常なし………なるほど、じゃあ元からか
俺は王女には救いようが無いと思い、帰ることにする。
「おい、どこへ行くんだ?まだ、何もしていないだろう?」
レオンは目を充血させながら俺の肩を力強く掴んでくる。
「な、何言ってるんだよ…お、俺はちょっとトイレに行こうとしていただけで………」
俺は汗水垂らしながら強引に外に出ようとする。
なんでこんな時だけ俺より力つえぇんだよ!?
結局俺は残らされる事になった。
***
「ーーーーはぁ………とりあえず、あんたの記憶を覗かしてもらうがいいな?」
「貴様!お嬢様に何をするつもりだ!?」
サラが興奮気味に俺に取っ掛かろうとするのをレオンが必死に抑えている。
「安心しろ。数時間前の記憶を少し覗くだけだ」
「そ、そんな事が出来るわけーーー」
「まあまあ、落ち着いて………彼を雇っているのは私ですよ?任せてみましょう」
レオンは興奮するサラを落ち着かせながら俺を見守る。
レオンがいるだけで心強いものだな
俺は王女の前に立つ。
「俺の目を見ろ」
王女は俺の指示に従い、俺と目を合わせる。
そして、『神王の眼』が発動させて、俺は王女の深層世界まで入り込む。
「ーーーここが王女の深層世界か…」
それから俺は記憶の間へと足を運ぶ。
今回はバウザーのときのように時を止める必要がないので、簡単に侵入できる。
「ここら辺だな」
ちょうど5時間くらい前の記憶を取り出す。それを見てみると意外なことが判明した。
『へっ、こいつは上玉だ〜!』
そのシーンはチンピラが王女を追いかけ回しているところだった。
『待ちやがれ!』
『はぁ、はぁ(逃げなきゃ!)』
王女が角を曲がると黒いフードを被った男が現れた。
『(危ない!)』
王女が男に突っ込みそうになったところで男の足下の影が広がり、黒い空間が現れた。
王女が吸い込まれそうになるところで記憶が途切れる。
何だ?ここで終わりか?………かなり断片的だな)
王女の記憶はそこからはボヤけたり、途切れ途切れな物しかなく、フードの男が誰なのかは分からなかった。
ただ、殺戮犯ってのはこいつだろうな……
俺は深層世界から戻る。
「どうだった?」
レオンは尋ねる。
「有力な情報になり得るのはフードを被った男ぐらいだろう」
「フードを被った男…か………よし、警備部隊に連絡、フードを被った男を緊急手配だ!」
レオンは部屋にいた警備員に指示を出し、向かわせる。
それにしてもこのフードの男、かなり厄介そうだな
最後に見たあの黒い空間、あれが何なのかは分からなかったが、あそこに引きずり込まれたのを見ると、空間魔法の一種だろう。
俺は未知なる敵に多少の警戒心と好奇心を抱く。
「しかし、それだけとは…情報が少ないな」
レオンも顎に手を当てて悩んでいる。その姿はサスペンスドラマの敏腕刑事を彷彿とさせるものだった。
「私が来た時には既に酷い惨状でしたので………」
サラは申し訳なさそうにしてしょぼくれる。
そして、王女はというと、相変わらずフードの男を勇者と勘違いしているようだった。
結果的に助けて貰った形になっていたが、あの男の目的は何だ?
とは言っても今は他に手掛かりがないので、ここは警備部隊の奴らに任せることにする。
「今は考えても仕方ありません。夕食にしましょう。私の邸宅でご馳走を用意しておきます」
俺達は領主邸に向かった。
***
ユウジら主発直後、領主邸にて。
「ステーキ、ステーキ!」
白はスキップしながらユウジ達の帰りを待つ。
「(はぁ、この子と留守番だなんて少し苦痛だな)」
カイルは少しだけ白に苦手意識を持っていた。
「(はぁ、この子の取り扱い説明書とかないのかな〜?)」
「どうしたのじゃ?」
「え?」
カイルは急に白に声をかけられて背筋を震わせた。
「お主、先程から溜息ばかりではないか。それでは人生良い事ないぞ?」
白は上から目線でカイルに説教をする。
「う、うん。そうだね」
カイルは内心、(お前のせいだ!)とツッコミたくなったが、なんとか堪える。
「妾なんて毎日が楽しいぞ?ユウジと出会ってから新しい発見でいっぱいじゃ!」
白は楽しそうに笑う。
カイルはそんな白の笑顔を見て思った。
「(そういえば僕もユウジさんと出会ってから少し楽しいような………?)」
カイルは自分の過去を振り返る。
いつも忙しい父、母は幼い頃に病気で亡くなり、それから父は仕事に打ち込んでいた。
たったの数年で準男爵から子爵まで登り詰めた父の背中は広く、安心できたのを覚えている。
僕が貴族学院に通うようになると父は急に厳しくなり、自分の後を継がせようと必死になっていた。
勉強に追われる日々が続く中、父の下にある男が近づいてくる。
フードを深く被った男だ。
厳格な父がそれからというもの豪遊をし始め、まだ学院に通っている僕に退学届けを出させて、ここに送らせた。
「(父様………)」
カイルは領主内にいる筈のバウザーの事を考える。
「どうしたのじゃ?」
白は思い詰めたような顔をするカイルの横顔を覗く。
「いえ、それよりも白さんとユウジさんの出会いの話でも聞かせてくれませんか?」
カイルは白にお願いをする。
「ん?妾達のか?それと妾のことは呼び捨てで構わんぞ?お主のことは気に入ったからの!」
それから白は楽しそうに話し始める。
「妾はな、家を追い出されたのじゃが…そこでユウジに拾われてな。退屈だった毎日が楽しくてしょうがないのじゃ!」
その後もカイルと白は楽しげに会話をする。
カイルにとって、母が亡くなってから一番楽しいひと時であった。




