各々の動向
勇者の存在を忘れかけていた自分に反省。
「ったく、落ち着いたか?」
俺はようやく二人をなだめて、話を戻す。
「す、すいません」
「すまない。しかしこれは本当にすごいことなんだ!」
レオンは俺の手を取り、鼻息荒く顔を近づける。
どうやらまだ一名落ち着きを取り戻してなかった模様。
「ニブルヘイム」
俺は頭を冷やさせるためにピンポイントに猛吹雪を起こす。
「す、すすす、す、すまなかったぁ、ぁ、ぁ、ぁ」
レオンは全員を雪で覆われて髭剃り並みの振動で震えていた。
隣のカイルは喰らってないはずだが少し青ざめていた。
「これでようやく話ができるな」
俺はため息をついてソファーに寄りかかる。
「まず、レオン。創造神についてどこまで知っている」
いきなり核心的なところかもしれないが、俺は遠回りな会話は好まないのだ。
「え?え、ええと、この世界の創造神がゼロ様であることと今はその地位についていないということぐらいですかね」
「なるほど、大体わかった。それと俺に対して敬語はいい。お前は貴族だろう?俺はただの冒険者だ。この身分差でそのような振る舞いは他貴族から反発を買う可能性が高い」
「わかった」
理解が早くて助かるな
「次に俺の話だが、今お前たちにかけたのは絶対遵守の契約でまず解除は不可能だ。今からお前たちに渡す情報はそれだけ重要なものだと考えてくれ」
その言葉に二人は息を飲む。
「まず、レオンの推察通り俺をゼロと見なしていい。だがこの世界ではユウジとしているからそっちの方で呼んでくれ」
二人は首を縦に振りながら真剣に聞いている。
「そして次だが、この世界には今、勇者がいる」
「え?」
「それは知っているぞ?ゼフォード王国が勇者召喚に成功したって………あれはうちの国も脅威になるから今、軍の会議で審議されているんだ」
「それは僕も知っています。どういうことですか?」
やはり二人は少し勘違いをしているようだった。
「どうやらお前たちは勘違いをしているようだな、アレらは異世界から来たただの強化人間だ。俺の言う勇気とは、古から存在する七皇によって造られたいわば人型の兵器で、魔魂体を持つ唯一無二の存在だ」
「「え、ええ〜〜!!?」」
二人は眼球が飛び出そうな勢いで驚いた。
「し、七皇ってあの………」
「ああ、この世界を勝手に仕切っている王種と呼ばれる奴らの中でもトップの者達だな」
ゼロが神権を無くした後、この世界に領土を拡大した魔神皇や竜神皇らを筆頭とした王の資格を持つ者達が現れ名を馳せていた。それが王種であり、種族の中から世界が選んだ者達である。その中でも特に力を保有している者7名のことを七皇と呼んでいるらしい。
「でも、そんな人達がどうして勇者を………」
「本来勇者はゼロに対抗する最終兵器だったらしいが、結局最後まで会わなかったがな」
「そんな………」
「一度滅んだはずの勇者が再び現れた……これには何かあると思うが、まだ何も掴めていない」
「なるほど、その本物の勇者が現れたとなると今のゼフォードはかなり厄介だね」
確かに、冒険者で言えばAランク以上に匹敵する39人に加え、現時点で俺と同等以上の勇者が相手となると厄介以外の何者でもないが…
「いや、案外そうでもないかもしれん」
「というと?」
レオンは首を傾げ、紅茶を飲みながら尋ねる。
「召喚された奴らはこの世界に来てまだ間もない、今のうちに叩けばなんとかなるかもしれんぞ?」
「………いや、それは無理だね。あの国との境界には森がある」
森とは魔の森のことを指しているのだろう。
確かにそうだ。こちらからは手出しできない。
「だからこそ俺に協力しろ」
「協力?」
「そうだ。お前らには俺と軍を繋げる仲介役になってもらいたい」
「つまりあなたは戦争を起こしたいというわけですか」
レオンは少し食い気味に入ってくる。
戦争とは残酷で起こしてはならないものであると、レオンの中の日本人時代の部分が出てきているのだろう。
そこを俺は否定するつもりはない。
「いや、そうではない。奴らは攻めてくるはずだ。奴らと共にこの地に来た俺はアイツらに殺されかけた。だからこそ、アイツはわかるはずだ。俺が生きていると、そして俺を狙ってくるだろうとな」
「確かに、ゼフォードが攻めてくる可能性は大いにあります。わかりました、その話、私の方で処理させてもらいます」
「ああ頼む」
これで目的の一つは果たせそうだな
「そういえば勇者って40人ほど召喚されたと聞きましたが、ユウジさんの言う通りなら他の人たちはただの人間だったわけですよね?」
カイルはふと疑問に思ったことを打ち出してくる。
「ん?確かにそうなるな」
「いえ、なんだか可哀想だなと思いまして」
「まぁ、巻き込まれた彼らは災難だろうが、彼らは意外と馴染んでいたしな、戻れる時が来るまでなんとかやるだろう」
レオンはしょんぼりするカイルの頭に手を置き、励ます。
「これで話は終わりだ。契約に背いたら首が飛ぶから気をつけろよ」
俺は空間を元に戻す。
するとちょうどメイドがドアノックしてお茶を持ってきた。
「では、今日は視察だったね。どこから見に行くかい?」
レオンは話を本来の内容に戻す。
「あ、そういえばお昼がまだだったね、昼食を食べに行こうか」
そう言ってレオンは立ち上がり執事達に支度をさせる。
「そういえばユウジさん、白さんはいいんですか?」
その言葉に俺の相棒を思い出す。
あいつにお金渡したまま一人で行かせたんだっけな
「いや、あいつにはお金を渡してあるし大丈夫だろう」
「は、はぁ…大丈夫なんですかね?」
俺とカイルはレオンの後をついていった。
***
一方白は………
「ふんふふん♪」
かなりご機嫌の様子だった。
「妾もついにお小遣い!今日は何を買おうかな〜♪」
悠二からもらった初めてのお小遣いに心を弾ませながら先程見た屋台へと向かう。
「うおおお〜〜!!なんじゃこれは!!?」
白が屋台にたどり着くと先が見えないほど長い行列が反対方向にできていた。
「むぅ〜、妾を差し置いてこんな行列を作りおって〜」
白は行列に向かって『煉獄』を放とうするも、そこで悠二の言葉を思い出す。
[面倒ごとは起こすなよ]
白は我に返り、仕方なく別の屋台で我慢することにした。
「うむ、あそこが一番空いておるな」
白が向かった屋台はこじんまりとしたおでんの屋台だった。
「嬢ちゃん、1人かい?」
坊主頭にハチマキを巻いたどちらかというとたこ焼きでも焼いてそうな店主は、見た目小学生(実質中身は幼稚園児以下)の白を見て驚いていた。
「うむ、妾はユウジにお小遣いをもらったからお昼を食べにきたのじゃ!」
そう言って白は大銀貨をちらつかせる。
「おお!そうかい。で?何にするだい?」
店主はお品書きを指差して、いくつかオススメを教える。
「うーん、それじゃあ、妾は卵とちくわとはんぺんが欲しいのじゃ!」
「じゃあすぐに出すから待っててね」
店主は熱々のおでんを差し出す。
「あと、これはおじさんからのサービスだよ」
店主は白の注文に加えて、アルメギアの尻尾をくれた。
「おお〜!なんだかうまそうなのじゃ!」
「おっさん!やってるか〜!」
そこで元気のいい髭面のおっさんが入ってきた。
「お?」「ん?」
入ってきたのは、牙狼のヨットと呼ばれていたやつだった。
白的にはあまり面識がないが、ユウジと何やら話していたのを見ていたので、顔には見覚えがあった。
「なんだ、嬢ちゃんと知り合いだったのか?」
店主は2人の様子を見て、ヨットに尋ねる。
「ま、まぁ一応な。アレッシオでの同僚だからな」
「おいおい、何言ってるんだよ。こんな子のことを同僚だって?バカ言ってんじゃねぇよ」
どうやら店主は白が冒険者だということを信じてないらしい。
「はぁ、まぁ普通はそうなるよな」
ヨットはため息をつきながら白にギルドカードを見せるように促す。
「うん?これのことか?」
白はポケットの中から銀色に光るカードを出す。
「お、おい。嬢ちゃんそれ」
「わかっただろう?こいつはBだ」
店主は何度も目をこすったりして見る。しかし、何度見返してもそれは銀色だった。
「悪かったな、疑ったりして」
「ま、そういうことだ」
ヨットは白のとなりに座り、焼酎とおでんをいくつか頼む。
「いいのか?昼間っから飲んでて」
「いいんだよ。今日はもう仕事ねぇから………おかわり!」
ヨットはさらに焼酎を飲み干す。
その様子を白はじっと見ていた。
「てんしゅ!妾もあれを飲みたいのじゃ!」
「え!?ダメだよ。嬢ちゃんはまだ未成年だろう」
「そうだぜ。こいつは大人になってから初めて手が出せるもんだ。ガキにはまだ早ぇよ」
ヨットは白の頭をポンポンと叩きながらそれっぽいことを言ってみる。
「そういやお前、あいつはどうした?」
ヨットは白に尋ねる。あいつとは悠二のことだろう。
「ユウジは仕事で忙しいのじゃ」
「いや、お前も同じ職業だろう」
***
「ふぅ、食ったのじゃ〜」
白はお腹を叩きながらゲップをはく。
「汚ねぇなあ、女の子がそれってどうかと思うぞ」
「妾はこれからユウジのところに戻るのじゃ!」
白はヨットを無視して立ち上がり屋台を出ようとする。
「嬢ちゃん!お代!」
店主は慌てて白を呼び戻す。
「忘れてたのじゃ!これで良いか?」
「大丈夫だよ。じゃあ気をつけてね」
「うむ、さよならなのじゃ!」
白は元気に手を振りながら屋台をあとにした。
まずいな、あのガキがうろつくのは鬱陶しい
***
時は一カ月前のゼフォード王国
まずい!逃げなきゃ!
全力で走っているフードを深くかぶった少女?は後ろからやって来る何かから逃げ回っていた。
まさか、彼が………
少女?は自分が聞いたことを思い出すだけで気味が悪くなった。
でも、彼が言っていたことが本当なら………
そして少女?は強く決心する。
この事を伝えなきゃ!彼に!
少女?はまた走り出す。向かう先には巨大な魔の森があった。
***
時は同じくゼフォード王国
「いいの?あいつを逃したままで?」
「ああ、構わない。彼の元に行ったところで何も変わらないからね。それにあの森を抜けることなんて彼女には無理だ。今頃ワームどもの苗床にでもなっているんじゃないか?」
「ふふふ、それは滑稽ね!」
高笑いをする2人の男女。真っ暗な部屋に月の光が差し込み2人の顔が露わになる。
そこにいたのは雨宮と小鳥遊だった。
「これからが本当の楽しみだ」
部屋全体が明るくなるとそこは王座の間で、床は血の海になっていた。玉座に座る自分ではない血を顔に浴びた雨宮は真っ赤に染まる月を見て笑みを浮かべた。
少し書き直した部がありますのでご注意下さい。




