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俺に先手必勝は通じない

もう少しペースがゆっくりになると思います。

 俺たちは目的地の瘴気の森に着いた。森の前には木の柵があり、数日前に来たときと、あまり光景は変わらない。


 俺達は馬車を降り、それぞれ武器の準備などしている。


「みんな、いつでも戦えるようにしておいて頂戴ね」


 ギルマスの指示で森を前に冒険者たちが武器を構える。


「白」


 俺は白に合図する。


「うむ、そろそろくるのじゃ」


 白は目を瞑り、静かに森の方を向いて何かを感じ取る。


 すると、森の方から何かが近づいてくる音がした。俺の魔力感知にも反応がある。


 ドドドド


 と、足音が近くなるにつれて、冒険者たちの緊張が高まる。


「クキュュアァァァ!!」


 そして一体のモンスターが勢いよく飛び出した。


 その姿は、獰猛な歯に、硬い鱗のついた皮膚、プテラノドンのような翼に、長く太い尻尾と一本の角をもつ、怪獣だった。


「くるぞ!」


 ルージスの声にみんな動き始める。


「まずは拘束魔法で縛るわよ」


 ギルマスは魔法陣を出現させ、そこから鎖を出す。すると、鎖はレギノアスに巻き付き、その行動を封じ込む。


「今よ!」


 ギルマスの号令と共に、冒険者たちが一斉に攻撃を仕掛ける。


 火属性、水属性、雷属性など、様々な魔法がレギノアスを襲う。そしてレギノアスを囲むように砂埃が舞う。


 しかし、視界が晴れるとそこにはほぼ無傷の状態でレギノアスが構えていた。


 魔障壁か、あの程度の攻撃では貫通は無理だな


 そしてレギノアスはギルマスを見ると、口に魔力をため始める。レギノアスは魔法陣を出現させること無しに魔力弾を放つ。


 これはモンスターの特性で、知能の高くないモンスター(特に人語を理解できない類の)は、魔法陣を使わずに直接魔力をエネルギーに変換して使っていた。


 俺はギルマスの前に立ち、『絶対(アブソリュート)防御(・ガード)』を展開する。


 俺の前に、光の壁のようなものが現れ、真っ直ぐとこちらに向かう魔力弾を受け止める。


 すると魔力弾は霧散し、そのエネルギーは『絶対(アブソリュート)防御(・ガード)』によって吸収された。これも魔力を直接扱う類で魔法陣を使用してない。


「あれを搔き消すなんて……」


 レベッカはそう言って驚いていた。他も、レベッカと同様に驚いていた。


「助かったわ。ユウジ君」


 ギルマスも後ろで少し驚いた様子で礼を言う。


「まだ、終わってはいないぞ」


 俺は冒険者達に再度警戒を呼びかける。


「白!後は任せる!」


 俺は白に指示をしてギルマスの擁護に専念する。


「わかったのじゃ!」


 そう言って白はレギノアス目掛けて走り出した。


「キュゥゥクキャァァ!!」


 レギノアスは向かって来る白に気づき、今度は口から火のブレスを吐き出す。


「白!」


「わかっておるのじゃ!」


 白は空中に飛んでブレスを躱す。そして、その状態から魔法を展開し始めた。

 白の前に魔法陣が現れると、白は言葉を紡ぎそれを放つ。


「『煉獄』!」


 言葉と同時に、魔法陣から巨大な火の玉が放たれる。そしてそのままレギノアスを包み込んだ。

 白の『煉獄』は火系統魔法の中でも上位のものなので、レギノアスの魔障壁など屁でもなかった。

 そして、凄まじい突風が俺たちを襲う。

 レギノアスの鳴き声すらも一瞬で掻き消してしまうその威力に、一同は言葉を失っていた。


「そんな…私の鎖まで溶かすなんて………」


 ギルマスはその光景に少し落ち込んでいるようにも見えた。


「白、よくやった。あとでご馳走を買ってやる」


 俺は白にご褒美をあげることを約束する。


「本当か!?やったのじゃ!妾、アイスとやらが食べたいのじゃ!」


 白は悠二のまわりを飛び跳ねながら喜んだ。


「こんな子に戦いを挑んだのか……俺は」


 ルージスはブツブツと何か考え込んでいた。


「白ちゃん!やっぱりあなたは天才よ!魔法学院に入るべきだわ!」


 レベッカは白の手を取って、自分の母校に勧誘を始めだした。他も見ると、戦いが終わって、警戒を解いてしまっていた。


 しかし、俺だけはまだ戦いが終わっていないことを確信していた。俺の魔力感知に先程から異様な魔力質を持つ『人間?』が引っかかっていた。

 場所は特定に


「おい、まだ終わって…」


 俺の注意がそちらに向かった瞬間、新たな魔法陣が出現した。


「きゃっ!!?そんな!?これは、召喚魔法!!?」


 レベッカはその異常事態にに尻もちをついてしまう。


「クキュゥゥアァァ!!!」


 そこから出てきたのは、先程白が倒したレギノアスだった。


「うわぁ!!も、もう一体!?」


 何人かの冒険者は慌てて逃げ出した。


「こいつはさすがにヤベェな」


 ヨットは身の危険を感じ、隠密スキルで姿を眩ます。


 こいつは仲間を見捨てるのか?いや、今はそんなことどうでもいい


 俺はこの事件の首謀者に注意を向ける。しかし、既に魔力感知にはいなかった。


 そして、さらに3つの魔法陣が後方に出現する。そこからはやはりレギノアスが現れた。


 そして、俺たちは計4体のレギノアスに四方を囲まれることになった。


「チッ、置き土産ってか」


 俺はさらに増えた3体を見て、愚痴をこぼす。


「お、終わりだ……」


 この状況に絶望するものもいた。前も後ろもSランクモンスターが取り囲む中、絶望を感じるなと言われる方がキツイだろう。


「まだだ!!まだ諦めるには早い!」


 しかし、ルージスは、立ち上がってみんなを鼓舞する。


 その言葉に続いて、立ち上がるものもいた。


「そうだ!!俺たちはこの仕事を何年やってきたと思ってんだ!こんな修羅場いくらでも乗り越えてきただろう!!」


 絶望を味わっていた者たちも立ち上がる。皆が既に臨戦態勢といった形で目の前の脅威を迎え撃つ。


「ではみなさん!行きますよ!」


 ギルマスも皆を鼓舞して合図を出す。


「白!一体はお前に任せる!残りは俺が一人でやる!」


 そう言って俺は、白に指示を出し残りの3体を睨みつける。


「わかったのじゃ!」


 白は正面のレギノアスに向かって走り出した。


「さてと、盛り上がっているところ悪いが、ここは俺たちにやらせてくれ。報酬はいらん」


 俺はそう言って冒険者たちが戦うこと制止させようとかする。


「無茶よ!Sランクを3体同時だなんて」


 どうやらギルマスは俺の実力を見誤っているらしい。


「俺の実力を測りたいんだろう?見せてやるよ。まぁ、こいつで測れるかどうかは保証はしないけどな」


 俺はそう言って歩き出した。ルージス達は息を飲んでこちらを見る。


「わかりました。あなたのことを信じましょう」


 そしてギルマスは俺に従い、冒険者達を集め、待機するように言う。


「本当にできるのか?」


 ルージスは俺を心配そうに尋ねてくる。


「愚問だな。俺は神を超える。その力に偽りはない」


 そして俺は今、レギノアス3体と向かい合って睨み合っていた。


「ちょうどいい機会だ。お前らで実験してやる」


 そう言い、俺は左眼に魔力をためる。


「『神王の眼(ゼウス・アイ)重力操作(グラビティ)』」


 その瞬間レギノアスたちは吹っ飛んで一箇所に集まる。


「この方が倒しやすいな」


 そして俺は巨大な魔法陣をレギノアスの足元に展開する。


「燃え尽きろ、『ムスプルヘイム』!!」


 そして地面の魔法陣から巨大な火柱が上がる。そしてレギノアスを一瞬でチリにしていく。

 その光景を冒険者達は黙って見ていた。いや、どちらかと言えば、その光景に言葉を失っていたのだろう。

 火柱が消えると、そこには焼け焦げた地面だけが残っていた。


「まぁ、こんなものだろうか」


 俺は手で埃をはたき落とす。そして白に声をかける。


「白?こっちは終わったぞ。頑張って倒したらアイスをパフェに変えてやる」


 俺はご褒美をもっといいものに変えてやる気を出させる。

 どうやら白もパフェの方が良いらしく、目の色を変えて燃えていた。


 白はレギノアスに向かって走り出すと、手前で大ジャンプを見せる。

 その高さはレギノアスの二倍ほどあった。


 すると、白の上から黒い雲が現れる。この世界では何故か()と呼ばれるただの積乱雲だ。


「食らうのじゃ!!」


 白はその雲から雷を落としてレギノアスを丸焦げにした。


「ユウジ!!やったのじゃ!!パフェは絶対じゃぞ!」


 地面に降りると白は笑顔でこちらに向かう。そして俺の胸に飛び込んで来た。そのまま俺は白を抱きかかえ、頭を撫でてやる。


 こいつは本当に素直だな


「ユウジ………お前たちは、一体何者だ?」


 一方で、ルージス達は俺達を怪訝に見ていた。

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