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深層世界

 俺は造作もなく、キマイラの攻撃をかわす。キマイラはすかさず次の攻撃をしてくるがそれも難なく躱していく。キマイラの攻撃は、俺にはまるでスローモーションビデオを見ているようだった。


【どうだ?調子は?】


「…問題ない」


 俺は今までに味わったことのない高揚感を得ていた。


「…はぁぁぁぁ!!」


 俺はキマイラの攻撃をかわし、懐に飛び込んで、一発殴った。すると、キマイラは壁にめり込む勢いで吹っ飛んだ。


「この力……」


 俺は自分の拳を握りしめ。改めて力というものを感じる。


「グヴゥグゥ」


「グギャャャウ」


 すると、今度は奥の方から新たに2体のキマイラが出てきた。


「何体いようが関係ない。今は負ける気がしない!」


 俺はキマイラに向かって走り出す。キマイラは走ってくる俺に向かって、尻尾を伸ばす。俺はそれを飛んでかわし、魔法を使う。


「『ドラゴン=ニードル』!」


 俺の背後に現れた、無数の魔法陣から光が飛び出す。そして、一瞬で2体のキマイラを倒した。


「案外弱いな」


「グゥゥ」


 先程殴り飛ばしたキマイラが、俺に立ち向かってくる。


「まだ来るか…」


 俺は振り向き、走ってくるキマイラの頭上に飛び上がる。そしてそのまま、キマイラの頭にかかと落としを決め込んだ。


「ふぅ、これで倒せたか?」


【おう、お疲れさん】


 キマイラを見下ろす俺に声の主は反応する。どこから聞こえるのか、どこで見ているのか分からないが、俺のことを助けてくれた人物であることは確かだ。


「おい、お前は何者だ?どこにいる?」


 俺の声は少し広い洞窟の奥まで響きわたる。


【そんな大声出さなくても聞こえてるぞ。…そうだな、俺が何者でどこから喋っているのか……気になることは山のようにあるだろう。教えてやる。その為には場所を変えよう】


「場所を変える?どこへ行くつもりだ」


【まあそんな慌てんなよ。俺の今いる場所だ。俺は今そこから動くことができないもんでな。お前をそこに連れて行く】


「……で?どこなんだ?そのお前のいる場所は?」


【フフッ、俺のいる場所は、お前の中の深層世界。魂の間だ】


「?」


【フッ、そんなキョトンとした顔をするな。まずはこっちに来い。そこで話してやる】


「………それはわかった。もう驚くこともないさ。それで?どうやってそこへ行けばいい?」


【ああ、まずは目を瞑れ。そして意識を全て心の奥底へと落としていくんだ。俺が引っ張ってやるから少しは入りやすいだろう】


「…そうかわかった」


 俺は腰を下ろし、少し深呼吸をしてから目を瞑る。声の主の言った通りに全ての意識を下へと落として行く。意識はしっかりと感じる。ただその意識は何かに引っ張られ、本当に下に沈んでいるような感覚だった。


「ッ!」


「フハハハ、成功だ!お前、やっぱ才能あるな。悠二、ようこそ深層世界へ!」


 目を開けると目の前で嬉しそうに笑う男がいた。その男は、白く長い綺麗な髪に翠色の瞳を持ち、そして黒いマントを羽織り、胡座をかいて座っていた。


「(あの一族なだけはあるな……ククッ)……まぁ、とは言っても俺の世界じゃねえからな。ようこそは少し違うか」


「おい、お前は誰だ。まずはそこから聞こう」


 俺は割って入るように質問をした。

 とにかく今はコイツの正体が先だ。この世界であれだけ力を一瞬で渡せるコイツは何者だ?


「ったく、せっかちだな〜。分かったよ、話すから……まぁ、お前も座れ」


 男は手招きをして自分の目の前に座れという手振りを見せる。俺はその指示に促されるまま、腰を下ろした。


「じゃあ、まずは自己紹介からだな。俺の名は『()()』、あの世界の『()()()』だ」


「なっ!!?」


 創造者だと?コイツは自分が神だと言うつもりか?


「フッ、まぁ最後まで話を聞け。確かに俺はあの世界を創り出した神。ただし元だけどな」


「元?」


「ああ、色々あってな、その座を追われた。まぁその話までしてたらキリがねぇ、その前にここについて話そう。………ここはな、深層世界と言われる場所で、魂を宿す()()()()に固有なモノとして存在している。つまりここは、悠二、お前の魂の中だ」


「ここが……俺の魂の中?」


「そう、そしてここは魂の根源を収めている空間だ。『魂の間』とも呼ばれるがな」


「なるほど、目の前で起こっている出来事が現実である以上、信じざるを得ないな。それで?なぜアンタはここにいる。神だったアンタがなぜ俺の中に居るんだ?」


 正体が分かれば自ずと出てくる疑問。そもそも俺はあの世界の住人ではない。もし、『ゼロ』という男があの世界を創造したならば、俺の魂に結びつく理由がない


「そうだな………。まぁ簡単に話せる内容でもない上に、俺もだいぶ記憶を奪われちまってる。だから俺が言えるのはあくまで客観的に見た事実のみだけだ」


 ゼロは下を向き、少し考えてから再び話し始めた。


「今から数千年も前の話だ……『終焉大戦(ラグナロク)』と呼ばれる史上最悪の戦争が起こったのはーー」


 ゼロの話を要約すると、終焉大戦(ラグナロク)という全種族が関わった戦争が起こり、その結果、ゼロは神の力である神権を失うにまで追い詰められ、世界を逃げてきたということだ。


「なら、なぜアンタは俺の魂に結び付いている?力を失ったアンタがなぜ俺のいた世界に入れた?」


「………悪いがそれ以上は言えないな。いや、というよりも記憶がそこから無いんだ。目を開けばお前の中にいた。向こうじゃ魔力も神力も使えなかったから、お前とコンタクトを取る手段がなかったんだが……どうやら俺はお前の生まれたタイミングで、お前の魂に結び付いたらしい。だから詳しいことはあまり分からんのだ。すまないな…」


 記憶がない。ここに来て突然裏切られた感覚だが、これ以上の詮索は意味をなさないだろう。


「……だが、お前を襲ったあの二人……アイツらは多分、俺のことを狙ったのかもしれないな。お前が生きているとなれば、再び襲ってくるかもしれない」


 俺はゼロの言葉から雨宮と小鳥遊を思い出す。もう思い出したくも、二度と会いたくもない奴等だが、もしもう一度戦うことになれば、次は負けない。


「まぁ、今のお前じゃアイツらには敵わないだろうな」


「なに?」


 俺はゼロを睨むように見た。俺はあのキマイラを三体も倒せた。俺の強さは確実に劣ってはないはずだ。


「まぁそう睨むな。キマイラを基準に考えてるなら勘違いも甚だしいぞ。あの二人はどちらもそれ以上の強者だ。特に女の方。あっちの魔力は俺クラスだろうな」


「!?」


 小鳥遊が?神レベルの力を保有しているだと?


「気付いてないかもしれないが、お前は一度催眠を掛けられていた。ま、俺が解除してやったがな!ハハハ!アイツら今頃必死になってお前を探しているかもな〜!あれはお前の位置を知らせるマーキングにもなっていた。その位置が分からない今!奴らは大慌てだろうよ!アハハハ!腹痛ぇ〜!」


 目の前で大笑いするゼロに俺の怒りも収まってしまう。


「…ふぅ、だが、奴らがお前を追って再び戦うことになるのは間違いないだろう。そこでだ、俺がお前を鍛えてやるよ」


「鍛えるだと?」


「そうだ。幸いにもここにはモンスターが山ほどいる。ここの奴らを全員倒せたら少しは戦えるようになるだろう」


「……」


「勿論、ここから出ることも目的とするけどな。とにかく、お前に足りてないのは経験だ。喧嘩もまともにしたことのないお前に戦い方ってやつを教えてやるよ」


「………」


 俺はただ黙って頷いた。

読んでいただきありがとうございます!

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