異世界へ行くのに必要なのは転移者の血であった
18歳の女子高校生である天導星。
彼女はついに成し遂げた。異世界への転移方法を発見したのだ。
異世界転移はもはやありふれた現象だったが、転移者が自分の意思で転移した例はひとつもない。実は広い世界のどこかにはあったのかもしれないが、少なくとも星が集めた2000件の転移者情報の中にはなかった。異世界転移は、あくまでも事故のようなものなのだ。そう、この時までは。
方法は意外に簡単だった。帰還した転移者の血を使って、壁に門を描く。それだけ。
それだけで赤黒いラインで形作られた門は、白と黄金の光を放ちはじめた。
『壁に光の線で作られた門が現われ、それに触れるとその先が異世界だった』というケースと、『何らかの原因で大量出血した後、流れ出した自分の血だまりの中に身体が沈んでいくと異世界だった』というケースの合わせ技である。とりあえず思いつきを試したら成功した形だった。
前者は2000件中、192件、後者は111件だ。発生頻度としては、トップ2と3になる。
ちなみにトップ1は552件、『異世界に移動した衝撃と、その直後に発生したトラブルへの対処に追われたせいで、転移方法なんか覚えてない』、だ。
「……よし」
星は扉に手を伸ばした。もはやためらいはない。
ここでためらうくらいなら、無理を言って……本当に無理を言って言って言い尽くして、帰還者の友人の血を抜いたりはしなかった。素人療法だが、死にはしないはずだ。なにせ異世界でだって生き延びた男なのだから。
「待ってて……月」
星は最後に妹の名前をそっとつぶやく。異世界に行ってしまって帰って来ない、でも自分が連れ戻す、そう決意し、実行する、妹の名を。
指が触れる。光が、走る。時が、止まる。