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もし、直人の身体が生きてる時と同じように肉体があるんだったら、直人の胸を拳で、強くたたきたいところだ。そうして思い切りバカバカバカバカーっ! と叫びたい。でもそれはできない相談だった。もう、戻れないのだ。直人が生きてる時と同じではいられないのだ。でも心が叫んでいた。今言わないともう次はないのだ。


「直人! 私、私ね」


勢いあまって、私は言った。


「好きなの、直人のことが好きだったの」


はたと直人の目と合うと、顔が火がついたように熱くなった。直人は私の手をとろうとした。でもやっぱりそれは無理だった。直人の手は私の手をかすりもしなかった。直人は悔しそうに目をつぶった。それからゆっくり目を開くと、その目には一粒の涙が光っていた。


「俺も……。俺もあさみのことが好きだった」


直人はそう言って、笑顔になった。哀しいくらいのそのとびきりの笑顔に私の心は震えて、涙がとまらなくなった。


「ほんとは言うつもりなかったんだ、俺。こんな身体になっちゃったからな。でも今あさみに言われて、俺すごいうれしいよ」


笑顔なのに直人の顔は涙にぬれていた。私も直人も見つめ合うことしかできなかったけど、私達の心は一つにつながった。ずっとずっと気持ちは一緒だった。それだけでうれしかった。このまま永遠に時が止まってくれればいいのに……。


「高橋! 高橋!大丈夫か」


突然私を呼ぶ声に、一気に現実に引き戻された。


「あの声は、山本だな。俺いったん消えるから」


直人は慌てて姿を消していく。


「って、直人!」


どういうことと思っているうちに、暗闇の通路を山本博之が駆けてきた。山本君は、直人の親友で、直人と同じサッカー部に所属している。そして今回のお化け屋敷の取りまとめ役もしている。


「高橋、大丈夫か」


心配そうな顔つきで私をのぞき見る。


「大丈夫って何が?」


私は、はらはらしながらも、落ち着き払って、彼を見る。直人と違って茶髪で鼻筋の通っている山本君は今時のイケメン風だ。変な気なんてないけど、そばで見るとドキドキしてしまう。


「高橋お化けとか苦手だろ。今、このお化け屋敷で本物の幽霊が出たってみんな逃げてきたから、ちょっと心配になってね」


「だ、大丈夫よ。まさか山本君がそんなに心配してくれるとは思わなかった」

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