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「きゃあ! あれ見て笹木君じゃない」
「まさか」
その声に反応して、私は声のした通路へと勢いよく走り出た。見ると、直人を前に立ちすくんでいる女子生徒達が恐ろしいものを見たとばかりに、わなわなと震えている。
「直人!」
私が叫ぶと、白い身体の直人がこちらを向いた。直人はにこにこしながら、彼女達の前にいたが、その目にはきらりと光った涙があった。慌てて直人はその涙をぬぐったけど、私は見逃さなかった。がたがた震えている彼女達に
「ほら、あっちが出口!」
と指示すると、女子生徒達は逃げるように走り去った。
「暗闇苦手なのにどうして、中入ってきたんだよ」
「だって今直人泣いてたでしょ」
「気のせいだよ」
直人はそっぽを向きながら言い切った。
「違うよ、私見たもん。幽霊だからって、自らピエロになることないじゃん。そんなんで笑い飛ばせると思ったの」
私は悔しかった。直人が心残りがあると言いながらも、悩みを相談してくれないことを。そう思ったら急にまた泣けてきた。
「泣かないであさみ。本当のことを言うよ、俺、未だに自分が幽霊だっていう実感がないんだ。でもさっき、みんなに怖がられて、やっぱり幽霊なんだと思った。そしたら、つらくなって涙が出たんだ。変だよな。幽霊なのに涙が出るなんて」
小さな声で言う直人に私は実体のない手に自分の手を重ねようとした。
『直人が生きていたら、今この手を握りしめてあげることもできたのに』
「でもあさみの役に立てたらって思ったのは本当だよ。あさみ、俺が亡くなってずっと泣いてただろ」
私の手は宙をつかんで、直人の手をすりぬけたけど、その言葉にはっとした。
「知ってたの……」
「だから、あさみには見えなかったかもしれないけど、俺はずっとそばにいたんだってさっき言ったじゃん」
照れくさそうに直人は頭をかきながら言った。
「あんなに泣くなよ。心残りになるだろ」
「そんなこと言ったって、悲しいもん」
私は顔がほてるのを感じながら、口をとがらして抗議した。
『いつも一緒だったのに。それなのに急にいなくなっちゃんだもん。寂しいに決まってるじゃない!』