戦女神、ここに降臨
僕の名前は山田 瞬。
とある高校に通っている何ら変哲もないただの人間だ。
僕は今信じられない光景を目の当たりにしている。
バイト帰り、ただ自宅に帰ろうとした俺はいつも通りかがる川辺に視線をたまたま落とすと夜とは言え全裸で水浴びをしているのだ。
視力が極端に悪く、眼鏡をつけてさえなんとか見えるような自分にもわかる。女性だ。
人目をはばからず豪快に川の水で体を清めている。
僕はそんな彼女から視線を反らせなかった。
遠目からでも分かるほど、この世のものとは思えないほどの美しさだったからだ。
闇夜の月はさながら彼女を照らし出し、腰まであろう生糸のように艶やかで美しかった。
水浴びをしている彼女の傍には半透明の神話で出てくるような美しい羽衣が置いてある。
その羽衣は軽いそよ風で吹っ飛んでしまいそうな薄く軽そうな素材だが、月の光を吸収してキラキラと様々な色に反射していた。
熱い視線を送る瞬に未だに気付きもしない女性。
ふわりと夜風が舞うと傍にあった羽衣は風に乗り、瞬の方向に漂う。
ふよふよと風に流される羽衣を瞬は掴み取る。
バチッと全身を駆け巡る電流が瞬を襲った。
「くぁ‥!?」
あまりの衝撃にふらつき崩れ落ちる。
「少年、名をなんていう」
項垂れる瞬に鈴を震わすような美しい女性の声がした。
苦悶の表情を浮かべながら瞬は顔を上げると、そこには先ほどまで水浴びをしていた女性が水を滴らせながら立っていた。
女性の問いに答えられぬほど瞬はなにかに魅入られたように彼女を見上げていた。
間違いなく‥神かそれに相当する存在だと瞬は察した。
「答えぬか、そなたの名を。」
美しく澄んだ声がまた聞こえる。
女性の顔は余裕に満ちた慈愛の表情をしていた。
「山田‥瞬です‥」
薄氷を踏む思いで瞬は自らの名を明かした。
そうか、瞬か。と女性はふむふむと何かを納得したような素振りを見せた。
「あの、これ‥」
先ほど手に取った羽衣を返そうと握っていた方の手を差し出すが、すでに羽衣は見る形もなくなくなっていた。
「構わん、瞬貴様は私と共に来る資格がある。」
瞬が差し出した方の手を女性は美しく彫刻のような白く細い手で優しく握った。
「ちょ、ちょっと待ってください!
突然過ぎて何が何だか、あなたのことも知らないでいきなりついていけません!」
瞬はいきなりの超展開に状況を飲み込めず慌てふためく。
そんな瞬を見てふふっと女性は笑った。
「そうだな、それもそうだ。
名乗らずについて来いなどあまりにも不躾だな。」
パァーと彼女を光が覆い包む。
光が治るとそこには純白の鎧に身を包んだ麗しい戦女神が立っていた。
凛とした姿に瞬は固唾を飲み込む。
「戦女神ワルキューレのひとり、我が名は《レギンレイヴ》。
神々の選定により、瞬お前は戦士と認められた。
光栄に思うがいい。」
銀髪を風に靡かせ誇り高く名乗りを上げた女性はなんとかの有名なワルキューレの一人 レギンレイヴだったのだ。