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闇姫化伝(やみひめかでん)  作者: 三塚章
第十六章 鳥辺野
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鳥辺野二

 柚木は、動かなかった。ただ、肩を抱いたまま、背を丸めうつむいているだけだ。体を覆う柚木の震えが、少しずつ大きくなっていく。

 柚木本人よりもよほど辛そうに、詩虞羅は顔を歪めた。

「迷いました、本当に。この秘密は、死ぬまで抱えていこうと思いました。けれどそれは間違いだった。あなたは強い。きっと早くに伝えていれば、希月様の死を乗り越え、巫女として人々を守っていたでしょうに」

 ほとんど囁くように、詩虞羅は語り続けた。

「ひょっとしたら、私はあなたに隠したかったのかも知れない。内心、私が辿り着いた結末に満足していた事を。希月様ではなく、柚木様が生き残った結末に」

(ああ、そうか……)

 詩虞羅は、柚木を想っていたのだ。いや、たぶん今でも想っている。鹿子にはそれがわかった。だからこそ、秘密を保てたのだろう。村人を悪者にしても、希月を犠牲にしてまでも、柚木を失いたくはなかったのだ。

「くくく。ははは、あははははは!」

 仰け反って、柚木は笑った。狂気を含んだ笑い声だった。

「ははは、なんだ、くだらない。結局のところ、希月を殺したのは私だったのだな」

 振動で足の裏が痺れる。地面の下をヒルコが流れているのだろう。玄室の壁にヒビが入

り、骨を割るような不吉な音が響く。

「十年、その秘密を呑み込んでいたのか。さぞつらかったろうな」

 薙覇は、静かな笑顔を浮かべたままだ。

「だが」

 柚木は元従者の喉元に切っ先を突き付けた。

「今頃、真実を言って何になる。数刻も無く、ヒルコは国中、いや、この世すべてを覆い尽くす。この世にあるものは全て呑み込まれ、純粋な力の塊と帰す。そして、神代の前の混沌に戻るのだ。助かる道はない。私がそう仕組んだのだから」


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