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闇姫化伝(やみひめかでん)  作者: 三塚章
第五章 いわれなき咎(とが)
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いわれなき咎三

 荒ぶる神の気配を頼りに、殺嘉は木々の間を駆けていた。幸い、今夜は足下が見えないほど暗くはない。

「禍刺の兵とかち合わないだろうな……」

 そう思いながら駆けるうち、足にまとわりつく草がなくなり、急に走りやすくなった。

 気がつくと、周囲はまるで巨大な玉が跳ねたように、木がなぎ倒され、草がめちゃくちゃに踏みしだかれている。どうやら荒ぶる神の通った跡に出たようだ。

「木の倒れ方から上に行ったな。この跡を辿れば登りやすくていいや」

 殺嘉は刀を抜いて走り続けた。山頂に近くなったせいか、斜面がきつくなってくる。河の横手に出たようで、右下から水の流れが聞こえて来た。

 行く手に岩だなと言えるほど大きな岩が半分地面に埋まっていた。刀と、硬い何かがぶつかる音。どうやら淘汰はこの上で戦っているらしい。

「淘汰、無事か!」

 淘汰がその岩の下に駆け寄った時。ふっと頭上が暗くなった。見上げると、イビツな四角い影が星空をさえぎっている。ヌメッとした体。大きな後足。

「うわあああ!」

 とっさに殺嘉は真横に身を投げた。

 落ちてきたカエルの荒ぶる神は、地面を揺らして殺嘉の隣に叩きつけられた。落ちて来た勢いのまま、斜面を河の方にすべりおりて行く。

 地面と木を削る音が響く。舞い上がる土埃は、薄暗いせいで真っ黒な煙にしか見えない。血の代わりの、立ち昇る光の跡が宙に残って消えていった。

「危ねえな淘汰!」

 まだどきどきとする胸のままで殺嘉が叫んだ。

「殺嘉? なんでここに?」

 駆け降りてきた淘汰は、眉をしかめ、思い切り不愉快そうな顔をしていた。

「い、いや、鹿子に淘汰が心配だから見てこいと言われて……」

「まさか、それでおとなしく僕の所に来たの? 弱ってる鹿子様を一人にしておいて?」

 淘汰が抜き身のままだった刀を構え直す。

 殺嘉は両手で「まあまあ」となだめる仕草をしながら後ずさった。

「バ、バカ、刀はやめろ。死ぬ、本気で死ぬ!」

「これでも今まで一緒に戦ってきた仲だ。ひつぎぐらい作ってあげるさ」

 言いながらも、さすがに刀を納めた淘汰だったが、目の光は不穏なままだ。

「それよりもあのカエル! 河に落ちて行ったが留め刺さないでいいのか?」

「あの傷だ、ほっとけば死ぬよ。そんなことよりも、僕、鹿子様を頼むって言ったよね? 言ったよね?」

 背中をむけて逃げようとした殺嘉の襟首を淘汰が捕らえた。

「ぎゃあああ!」

 殺嘉の悲鳴に驚いて、夜の鳥が一羽飛んでいった。

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