エヴァ編22 オタクたちの知らない世界
宮台真司(敬称略)
「ああ、テレビとかにも良く出てる社会学者の」
「オタク界隈ではエヴァ論客としては印象が余り無いだろうが、深夜ラジオ番組の鼎談なんかに参加したりしてる。一応視聴してるみたいだ」
「で?」
「別に総括って訳じゃないが、確かにエヴァと非アニメジャンルとの共演は確かに目新しかったし、停滞気味のアニメ界隈に新風を吹き込んだのは間違いない」
「うん」
「ただ、そこで展開されている言論活動にそれほど目新しいものがあったとも思えない」
「また大胆なことを言い切りやがるな。基本的には歓迎ムードだったんだろ?」
「日本人がことあるごとに『これだから日本は…それに比べて欧米では』みたいに日本を貶めて海外を持ち上げるのと同じように、『アニメ業界』…ファンや製作者、アニメマスコミだな…を貶めて、門外漢である「サブカル文化人」「大学教授」みたいなのを持ち上げる風潮はあった。それに乗っかったってところだ」
「そうなの?」
「非・アニメ雑誌でされてる「エヴァンゲリオン特集」なんてのはアニメファン的に言えば全く見るところが無い」
「いや、そりゃディープなファンはそうだろうよ」
「最終回まで振り回されて、画面に映り込む者は当然のこと、セリフの「てにをは」まで検証して「今度の劇場版はどうなるのか!?」ってな具合に頭がパンパンになってるファンに向かって、「登場人物紹介」だの「用語集」で「使徒」「ATフィールド」「セカンドインパクト」とかやってるレベルの記事に満足が行くと思うか?」
「…いや、読者は一見さんが大半なんだからさあ…」
「そこがミソでな。アニメ界は八十年代後半に洗練と閉塞、頽廃と言っても過言でない状況に陥ってた。言ってみれば「アニメのお約束」みたいなのにうんざりしてたわけだ。だから「サブカル」みたいに目新しいものに飛びついた」
「はあ」
「ところが、そのサブカルさんたちってのは“単にアニメに詳しくない”って人たちってだけだった」
「いや、“だけ”は言いすぎだろ」
「全員がそうだとは言っとらんだろ。ただ、『オレってアニメとか全然みねえけどぉ~、エヴァって超クールだと思うぜぇ』(ぷかー)レベルの評論が目立ったのは確かだ」
「…表現に悪意が」
「何となくの印象で語ってる分にはともかく、知識が無いのに「アニメとは」とか「これまでのアニメに比べて」みたいなことを言い始めるとあっという間にボロが出る」
「いや、アニメ評論家じゃないしオタクでもないんだから」
「アニメの知識が無いと自称しておきながら「他のアニメに比べて~」と発言するのは不誠実だ」
「…」
「例えばオレはジャズなんぞまるで知らん。だからジャズについてどうこう言う気は全く無い」
「はあ」
「そんなオレが「でもジャズってのはさあ~、つまりこういうことっしょ?」みたいな知ったか決めつけで語ればジャズファン激怒だろ」
「そりゃそうだ」
「当時は似たような状況だったってこと」
「…この流れで名前出すのかよ」
「名前を出して評論活動している以上批判にもさらされるべきだ」
「何が気に入らんのだ」
「そのラジオ番組でいみじくも言い放った。「エヴァを観て凄いと思った。その後「ガンダム」を観た。ダッセェと思った」んだってさ」
「…あちゃー」
「この時期エヴァが「新しい時代のアニメ」であって、それ以外は「旧世代」「古臭い」アニメである(だからエヴァは素晴らしい)という論評が結構ハバを効かせてたらしい。今となっては黒歴史だが」
「正にな」
「そこで「旧世代のアニメ」の代表とされたのが…「ガンダム」だった訳だ」
「…それしか知らんからじゃないのか?」
「そう!そうなんだよ。アニメ門外漢としてエヴァについて語るのはいいけど、少しは体系的な情報・知識からそれっぽく語りたい。しかし、アニメなんぞ見つけてないから知識が無い。だから「とりあえず知ってる情報」の断片をかき集めて「恐らくは絶対に間違ってはいないだろうこと」を断定してみせる芸ってのがあったんだこの頃は」
「なんじゃそりゃ」
「『エヴァを褒めて、エヴァ以外をけなす』ってのは当時のアニメ評論…と自称する感情論…では代表的な流れだ」
「ヒデエ…」
「エヴァがクールで、ガンダムがダサいってのは何重の意味でも間違ってる」
「解説必要か?」
「何だかんだ言ってもガンダムは70年代のアニメだ。確かに画面は荒いし、古臭く、野暮ったくは感じるかもしれない」
「…あしたのジョーやらアパッチ野球群的な雰囲気もあるわな」
「そうだな。下手すりゃヌカミソ臭い雰囲気も濃厚だ。この「ガンダムダサい論」はぶっちゃけ80年代にはしょうけつを極めると言ってもいい」
「ガンダムダサい論ねえ…」
「1982年の「超時空要塞マクロス」を見てもその洗練度合は明らかだ。美樹本晴彦デザインの美少女たちは抜群に可愛らしいし、画面のセンスも都会的…ってマジで都会だし…、バルキリーの格好よさやらメカの電光掲示板描写やら…はっきり言って段違いだ」
「まあ…そうかな」
「80年代前半のリアルロボットアニメ界の試行錯誤を忘れちゃいかん。例えば1984年の「銀河漂流バイファム」に登場するロボット…モビルスーツではなくて「ラウンドバーニアン」と呼ばれてる…は全身のあちこちに「宇宙空間での姿勢制御用」のバーニアが付けられてる」
「ほう」
「ガンダムは背中のランドセルにバーニアがあるだけだ。いくらアンバックシステムがあるったって無理があるに決まってる」
「まあな」
「確かに子供がロボットに搭乗するアニメではあるんだが、「無限のリヴァイアス」レベルとまでは言わんが、コンピュータと格闘する場面は秀逸だし、学習型コンピュータ…ソフトだな…の補助を受けて動かしてる描写が濃厚。ロボットの操作に「音声ガイド」がある」
「音声ガイド?」
「ズシンズシンと歩いてて『後方に熱源(後ろに敵がいます)』とか声で教えてくれるんだ」
「…?ロボットが喋るのか?」
「ロボットというか、操作ソフトだな」
「へえ」
「80年代前半のアニメなのに、「光学ディスク」にデータを格納する描写まである。下手すりゃ「CD」だって出たばかりの時期だ」
「そ、そうなの?」
「この当時の音楽ソフトは「カセットテープ」「LPレコード」の時代だ」
「…レコードが現役?」
「この時代にこの描写だ。下手すりゃオーパーツみたいなアニメだよ。こういうのがバンバン放送されてた時期に「ガンダム」がどう見られてたか…分かるよな?」
「…前時代の遺物…」
「ところが、この激動の時代を結果的に生き延びる。確かに表面的な派手さはなかったが、骨格として恐ろしく堅牢だったってことだ。アニメ論客名乗るんなら、見た目の古臭さに騙されず、ガンダムの素晴らしさ…程度は見抜いてないと」
「はあ」
「ところが、この『社会学者』はそのアニメに対する知識と見識の無さから「絶対的に失敗しない(と思われる言説)」…エヴァあげ、ガンダムけなし…をやらかした結果、「もっともありがちで薄いアニメファンの意見」を堂々と披瀝する羽目になってしまう」
「あーあーあー…」
「エヴァは言ってみればそれまでのアニメの「集大成」であって、既存のアニメの否定の上に立っている訳じゃない。というかこれは基本的にはどんなアニメだって一緒だ」
「だよな」
「オタク第1世代の代表的クリエイターである庵野監督が「ガンダム」を「ダセェ」とバカにしてロボットアニメ作ってる訳がない」
「当たり前だ」
「仮に意識していたとしても「乗り越えるべき目標」だったりであって、「旧世代の遺物」としてなんか観てるもんか。そもそも「エヴァ」は「Vガンダム」や「イデオン」の影響が濃厚だ
「だよな」
「それこそ本人に「エヴァいいっすよね?それに比べてガンダムはダサいっすよね?」みたいなことを言ったら…」
「ぶん殴られるな」
「殴りはせんだろうが、『何言ってんだこいつ』くらいのリアクションはするだろう。全く分かってないからだ」
「だよな」
「真のアニメファン…という言い方が正しいのかどうか分からんが…ならば、目立つガンダムのみならずスーパーロボットやらありとあらゆるアニメを決して「古い」「ダサい」などと馬鹿にしたりはせん。エヴァですらそれらの歴史の上に立った「集大成」であるからだ」
「うむ」
「この手の「普段アニメ観ない」人の評論聞くとアニメファンは失笑が漏れることが少なくない」
「そうなの?」
「要するにアニメ見慣れてないもんだから、アニメファンなら見れば分かる「お約束」「暗黙の了解」みたいなのにいちいちリアクションしたり、下手すると学術的に要因をこじつけたりする」
「???」
「やたらでかい銃器が登場するのは、フロイト的に言えば男として自信が無いことの深層心理の表れ…とかそんな感じ」
「バカなの?」
「ま、もしかしたらそういうこともあるのかもしれんけど、『そんなもん何とでも言える』わな」
「だよな」
「それでいて「アンビリカル・ケーブル(へその緒)」みたいにモロなそれに気付かなかったりするんだよなあ…」
「…」
「もちろん、サブカルやアカデミックな方向性からエヴァに注目してくれた人もこんなんばかりじゃない」
「ほう」
竹熊健太郎(敬称略)
「エヴァに好意的なサブカル論客として名前が挙がるのが竹熊さんだろうな」
「『サルでも描けるまんが教室』が有名だよな」
「そう。「編集家」を自称して評論や編集活動をされてた。今も同人誌の編集などをして、大学講師として頑張っていらっしゃる」
「突然敬語だな」
「やっぱり「さるまん」は凄いし、個人的に尊敬しているので」
「どうしてエヴァに入ったんだ?」
「竹熊さんは非・アニメ畑とはいうものの70年代から80年代のアニメ・特撮はかなり熱心な視聴者で、その意味では知識・見識ともに生半可なオタクよりあるといえるんだ」
「じゃあオタク系じゃないの?」
「ここが凄いところなんだけど、あの騒動を聞いてから後追いでエヴァに注目したんだそうだ」
「へー」
「エヴァの最後を褒めてみてそれを持て悦に入るタイプのファンは多いけど、竹熊さんは明らかに違うだろうな」
「どうして」
「だって、『最後はああなる』ことを最初から知って入って来てるんだから怒ったりしない」
「あ…」
「それこそ年齢的に言えばオタク第1世代に属し、知識でいえばそこいらのオタクを軽く凌駕するほどあるのに、「こちとら門外漢なんで、オタクの皆さんの後ろでひっそりと提言させていただきます」という謙虚な姿勢が好印象だったんだろうな」
「他のサブカルさんは違ったのか?」
「特に何も考えてない人もいたけど、中には「キミたち視野の狭いオタクくんには分からんかもしれんから、より広く世間を見てるこの俺が教えてやるけどさあ…」みたいなのもいた…らしい。具体的に誰とはいわんけど」
「…」
「それでいてそいつの「オタクじゃないからこそ気付く独自の視点を持った考察」とかが、「綾波レイは碇ユイなんじゃね?」レベルだったりしてげんなりだ」
「…いたたたたた…」
「クイック・ジャパンの編集長にエヴァを紹介したのも竹熊さんらしい」
「へえ、じゃあ間接的にかなりエヴァブームに貢献してるんだな」
「そうなんだ。確かに一般紙にエヴァが特集されてるとはいっても、我々アニメオタクが欲しいのはそれこそ「敢えて読む価値のある情報」なんだよ。どんな肩書きだか実績がある人なんだか知らんけど、「感想文」と変わらんレベルのダラダラ長いだけの駄文なんぞ読みたい訳じゃない。そこには「新発見」が何もないからだ」
「…また怒られそうなことを…」
「とはいえ、それでも独自色を出そうとしているところだけは評価出来る。アニメ雑誌の特集を数十倍に薄めたようなのを読みたいんじゃない。「サブカルだから出来る」独自の視点が欲しいんだよ」
「つっても無理だろ。それで謎が解ける訳じゃないし」
「まあな。ただ、QJは執拗にエヴァ、ひいては庵野監督の特集を続けて独自色を出した。当時の心あるアニメファンの多くが貪る様に読んだと言われてる」
「スゴイな」
「どうしてそんなにエヴァにこだわるのか?と聞かれた編集長は「世界中見渡してもここまで真剣に作品を作ってる映像クリエイターはいないから」とハッキリ断言してる」
「お前の見解と同じだな」
「というよりオレが参考にさせてもらったと言っていい」
「パクりかよ」
「何とでも言え。ただ、アニメファンが表面的なパロディその他「謎」やらに夢中になってた時期に「真剣に作ってる」点にいちはやく気が付いたのは凄い。こういう「アニメファンには無かった独自の視点」が欲しかったんだよ!」
「…なるほど、少しわかるな」
「竹熊さんといえば「スキゾ・エヴァンゲリオン」「パラノ・エヴァンゲリオン」というインタビュー集の編集でも有名で、今でも古本屋で安値で叩き売られてるほど売れた」
「謎本か」
「違う。謎本ってのは本家の許可を得ずに文字だけで推測で書かれたものだが、これらは公式だ」
「ふ~ん」
「エヴァの吸引力に魅せられたってところだ。竹熊さんは出会いが出会いということもあって、あのラストに好意的だ。まあ頭に血が上っていたファンたちを完全に「そっか…あれでよかったんだ…」と転向させられた訳じゃないが、ある程度の説得力を持って最終回への流れを擁護したという意味に於いては若干の救いになったんじゃないかな」
「そんなもんかね」
「さるまんは、主人公二人がマンガについて真剣に考えて考えて考え抜くことで遂に壊れてしまって精神崩壊するまでが描かれている」
「…そうだっけ?」
「そう。エヴァと全く同じ構造なんだよ。序盤に恐ろしい分量の情報量でディティールを描きこみ、パロディを並べ立てる構図も同じ。なにより「とんち番長」という「劇中漫画」を実際に描いてるのが凄い」
「あったなあ「とんち番長」」
「多くの「漫画家を主人公にした漫画」では「ではその作者がどんな漫画を描いてるのか?」ってのは逃げて描かないことが多いのに果敢に挑戦して結果を出してる。物凄い漫画だ」
「はあ」
「そのインパクトのありすぎるタイトルはあらゆるジャンルにパクられまくった。ジャンルこそ違え、クリエイターとして共感してたってことだろう」
*映画ファン
「…?何これ」
「エヴァはアニメファンのみならず「普段アニメを観ていない人」なんかも大勢巻き込んだ。公式の記録として残ってる訳じゃないが、そこには「アニメファン」と「非アニメファン」との相克もあったらしい」
「にわかが…ってこと?」
「平たく言えばな。ただ、先ほどサブカルのところで言った様に、確かに「慣れてない人」の意見は貴重は貴重なんだけど、物凄く基本的なところ…アニメのお約束とか…までいちいちヘンなところで突っ掛ると流石に「どうかな?」と思ったりする」
「具体的に頼むよ」
「例えば主人公のシンジは、年上のミサト、最終的には同年代のアスカとも同居生活を送ることになる」
「そうだな」
「これは言ってみれば「男の欲望」をまんまアニメにしたご都合主義展開だ!…ってな具合」
「ハーレムものだって?う~ん…」
「そりゃそういう側面はゼロじゃないさ。ただ、そこが本質かと言われるとそうじゃない。シンジの心理的な内面描写が云々とか、人類の未来を賭けた戦いがどうとか…メインのモチーフが何なのかということはあるが、ともあれ本質じゃない。オマケ描写ってところだ」
「そりゃそうだろ」
「ところがこういうのにいちいち突っ掛る人がいる」
「…??」
「だから日本のアニメは駄目なんだ!子供っぽくて女性をモノとして見てる!…とかそんな感じ」
「…何を言ってんの?」
「そういうことを言う人は、同じ1995年に放送されたアニメでいいから何本か観てみて欲しい。言ってみれば「エヴァ」程度の「問題」(?)を抱えたアニメなんて幾らでもざくざく見つかる」
「そりゃそうだ」
「要するに、普段殆どアニメ見ない人まで取り込んだ関係上、全く持って「エヴァ特有」でもなんでもない「ごく一般的な日本アニメの典型パターン」まで引き受けてしまう格好になっちまってるんだ」
「うわ~…これは気の毒だな」
「こう言う程度の認識の人って、申し訳ないんだけど「評論」めいたことをしてもどうしても指摘が「的外れ」になる傾向が強い」
「…そりゃそうだろうなあ」
「そもそもがして、「映像作品を見て何らかの見解を述べる」こと自体に不慣れなんだからどうしようもないわな」
「無理して述べなくてもいいんじゃ?」
「そこはほら、『語りたくなる』アニメだから。エヴァンゲリオンは」
「はあ」
「ただ、そんな中でも傾聴に値する意見を述べてくれる「非・アニメ畑」の人たちはいた」
「人たち?」
「うん。一般的な映画ファンの人たちだ」
「映画ファンかぁ」
「ぶっちゃけ「普段アニメ観ない一般人」とか「サブカル系」とかよりも一番公平にして冷徹な目を持ってたかもな。『映像リテラシー』が段違いだからな」
「…?そういう人って代表的なところで言うと誰だよ」
「残念ながらオレは不勉強だからそういう映画評論家の人を誰!と上げることは出来ん」
「何故?」
「別に体系的に語り下ろした人っていないんだよ。散発的に何らかの意見を聞かれりゃ答えるってところがあるくらいで」
「じゃあ何で知ってる」
「これまた知人のオタク第1世代のそのまた更に友人から聞いたんだそうだ」
「一般の映画ファンにエヴァ観せたのか!?」
「みたいだ」
「なんて無謀なことを…」
「何故無謀だと思う」
「春エヴァか夏エヴァか新劇場版か知らんけど、あんな映画として訳が分からんものいきなり見せられてもどうしようもないだろ」
「少なくともエヴァが劇場映画として単品で存在しえないということは認めるんだな?」
「…まあな」
「心配せんでもテレビシリーズ全26話のビデオテープ渡してそこから観せたんだってさ」
「…アニメ観ない人にいきなり全26話!?」
「まあ、日本のアニメに激しい嫌悪感と拒絶反応を示す「映画ファン」も一定数存在はしてるが、別にそれほど関心が無いというだけでフラットに観てくれる人もいるから」
「…で?どうだったって?」
「かなり面白かったってさ」
「それはよかった…ん?」
「どうした」
「かなりアニメ的なデフォルメやらパロディなんかもあるよな」
「あるな」
「そういうのはどうなんだ?実写映画ファンとして」
「別に、そういうもんだとしか思わんかったらしい」
「…あのラストは?」
「まあ、その知人はその時はスキあらば誰かに貸そうと全26話を3倍で詰め込んだVHSテープ2本を常に持ち歩いてたらしいんだが、要するに「観てくれよ!ヒドいだろ!?」と同意を求めようとしてたらしい」
「もはや酔狂の域だな…それで?」
「あのラストにごく普通の映画ファンはどう反応したかってんだろ?」
「そうだ」
「…いや、こういうアニメもあるんだなーと」
「…それだけ?」
「ま、エヴァにのめり込んでた人はそういう反応になるわな」
「いや、だって普通に『なんじゃこりゃ?』になるだろ」
「ふっふっふ~…そこは修羅の国(?)である実写映画ファンだよ。しかもこの人はB級…いや、Z級映画もバンバン観る悪食だった」
「Z級映画って、「死霊のはらわた」とか「ピラニア」とか「ゾンビ」とかそういうのか?」
「あのな、そんな映画なんぞ映画全体で言えば下手すりゃ「名作」の域だぞ」
「いや…だって「悪魔の追跡」とか、「死霊のしたたり」とかヒドかったもん」
「お前は「ゾンビ・オブ・ザ・デッド」とか「地獄の巨乳戦士」とかそういうの観たことないだろ?」
「何それ?」
「「エロム街の悪夢 もっと腰をフレディ」とか「タフミネーター」とか知らんだろ」
「エロ映画じゃねえか!」
「映画ジャンルには下には下があるんだよ!世の中には「プラン9・フロム・アウタースペース」が「市民ケーン」に感じられるようなゴミ映画・クズ映画がうじゃうじゃあるんだ」
「知りたくねえよ!そんな世界!」
「ゾンビ映画なんぞ、血みどろメイクさえ出来ればなんとなく映画になるから全世界の低予算映画人が最初に手を出すジャンルでな。映画ジャンルの墓場みたいなところだ」
「何なんだよ」
「イタリアなんぞ、何かヒットするとすぐ勝手に似たような映画こしらえる(自主規制)みたいなところだ」
「怒られるぞ」
「『ゾンビ』が流行するとさっさと「ゾンビ5」とか作ってる」
「いきなり番号が飛ぶな…ってあれ「ナイト(夜)・オブ・ザ・リビングデッド」の続編的位置づけで「ドーン(夜明け)・オブ・ザ・デッド」って原題じゃなかったか?」
「そんな高尚なこと考えるもんか。ゾンビが当たってるからゾンビ映画作ってるだけだよ」
「なんで「5」なんだよ」
「予算不足でゾンビが5人しか出てこない」
「いい加減にしろ!」
「こーゆーの毎日観てる様な映画ジャンキーだからエヴァ程度の投げっ放しなんぞ珍しくもなんともない」
「あああああ…」
「こう言っちゃ何だがアニメファンの多くが映像体験が貧相過ぎる。映像リテラシーが圧倒的に足らないからたった一作のアニメに二十年も右往左往するんだよ」
「…といっても、少々のクズ映画じゃ動じなくなるのもなんかイヤなんだが…」
「まあ、クズ映画云々はともかく、映画ファンは当然ながら日本アニメと言う意味でのアニメファンとは映像とのスタンスが全く違う」
「その様だ」
「とにかく物凄い数を観るのが当たり前だから、しっかり内容は把握するし、感情移入もするけど、どうしても一作にそこまで執着しない」
「…そうだな」
「数を観るからその分相対的な視点が入ってくる。エヴァしかアニメどころか映像そのものを観てない人間はエヴァに心底のめり込んで半ば「依存」してしまうような有様になるが、映画ファンにしてみれが「その年観た200本の映画の中の一本」にしか過ぎない」
「…そうか」
「こう言う人たちはオタク界のオピニオンリーダーだったり、エヴァにかこつけて目立とうとしているなんちゃって評論家と違って別にエヴァ評論をもってどうこうしようとは全く思ってもいないからまとまった文章とか残さないんだよね。当時のコミケとかにはもしかして売ってたかもしれないけど…」
「なるほどなあ」
「ここだけの話、オタクと違ってエヴァエヴァ言わんでも他に楽しいこと幾らでもある人たちだから」
「それを言ったらおしまいだろうが」
「でも、テレビ版の後に劇場版作ってると言ったら『作者はここ(テレビ版のラスト)でもう言いたいこと言ってるよ。これ以上無理』『この続きを作れって自分が言われたとしたらしんどいと思う』とズバリ本質を喝破しちゃってるんだ」
「…その辺は流石実写映画ファンってところか」
「結局『何度やり直させても同じになる』というあたりまで半ば予言しちゃってたらしい」
「…心ある映画ファンって凄いな」
「こう言う人に「他に楽しいことないのか?」と言われれば…言い返せないな」
「…もっと広い視野を持てと」
「そういうこと。とりあえずこのテーマおしまい。次にエヴァが示したもう一つの側面「価値相対化への対抗手段」について」
***
・「新世紀エヴァンゲリオン」は「とにかく格好いい」「興奮する」シチュエーションをひたすら並べ立てている
・その為には設定や統一感すら犠牲にする
・元は「連続するストーリー」にする予定すらなかった(?)
*****
・とにかく情報を大量にぶち込む。意味はどうでもいいから(例)マルドゥック機関、ネオパン2000、ガフの部屋)
・よく聞いてないと分からん用語を絶妙に配置する(例)使徒、セカンドインパクト)
・ダブルミーニング、見立て用語を多用する(例)ATフィールドは人の心の壁の象徴、LCLは羊水)
・ディティールが格好いい(第壱話、初号機、弐号機、参号機…)
・敵の正体が不明で、得体がしれない感じ
・戦闘シーンでは重厚で格好いい音楽を流す(低音を効かせる)
・オペレーターが緊迫した表情で「格好良く聞こえる」専門用語を怒鳴る(例:強羅絶対防衛線を突破されました!)
・意味は良く分からんが、「何だか格好いい」用語を使う(例:汎用人型決戦兵器、ヤシマ作戦、人類補完計画、死海文書)
・人類が滅びそうなピンチに陥る
・「とにかくなんか大変なことになってる」感じにする(例)BGMがクラシック)
・感情移入できそうなキャラが機転を利かせて危機を突破する
・ちょっとシリアスもありよ(例)一見明るく見えるミサトやアスカも心の闇を抱えている)
・敵相手、そして味方相手にも「びっくり解説」をする(例)もうエヴァを止めることは出来ないわ!)
・誰か何かたくらんでいそうな雰囲気を出す(例)リツコ)
・「何もかも分かっている」風を装うキャラがにやりと意味深に笑う(例)ゲンドウ、カヲル)
・やっと判明したと思ったら次の新しい「謎」が提示される
*****




