エヴァ編17 流れよ我が涙、とオタクは言った
最終話3月27日 世界の中心でアイを叫んだけもの
「非公式な噂である『テレビ放送で25・26話は斬り捨てて、劇場版で本当の完結編を作る』という噂が裏書される形になったテレビ版なんだが、いつもなら「次回予告」が流れるところに何も流れない」
「そりゃそうだろ」
「この有様になってるのに青空をバックにムカつく爽やか笑顔のシンジの一枚絵と共に「ご視聴ありがとうございました」みたいな表示が出ただけで、この時点で劇場版については一切のアナウンスが無かった」
「…はあ」
「ここからアニメオタクのみならず多くの一般視聴者は大激怒、正に賛否両論を巻き起こす大騒動が繰り広げられることになる」
「そうらしいな」
「ぶっちゃけた話、テレビの本放送なんぞ前座に過ぎん。エヴァのブームは正にここから始まると言ってもいい」
「これまでだってブームだブームだって何度も言ってただろうが」
「ん~ちょっと意味あいが違うんだな。これは悪い方向、スキャンダルとしての『話題』って意味な」
「例えば?」
*三鷹近辺で不審な男(?)オタク(?)が徘徊する様になり、道行くアニメ関係者に話しかけては「あれ、どういうことなんですか!?」と問い詰める事案が多発した
「…なんじゃこりゃ」
「東京・三鷹といえばアニメスタジオが多いところだ。これ以上説明はいらんな。ちなみにアニメ映画「AKIRA」で東京大崩壊の爆心地となってるのがここ。軽いお遊びだ」
「はあ」
「とにかく『どうなってるのか?』が知りたくて知りたくてたまらない余りの行動だろう」
「…しかし…これはキモいぞ」
「気持ちは分かる」
*本屋などで、アニメコーナーなどにいたりすると全く知らない人に「最終回論争」を挑まれる事案が多発した
「…インターネットの無い時代らしいな」
「みんな話したくて仕方が無かったんだろうな」
*延期になっていたガイナックスの新年会がお花見会を兼ねて開催されるが、エヴァンゲリオンの結末に納得がいかないオタクらしき不審者の乱入によってけが人が出る
「…マジで事件じゃねえか!」
「ちょっと信憑性としては微妙なところなんだが、まあそういう雰囲気はあったってことで」
*怒りの余り、「全巻購入予約」を取り消すオタクが多発
新世紀エヴァンゲリオン Genesis0:3 1996年4月5日 第伍話、第六話
「これは本当。あの最終回放送の約一週間後に前半の目玉である5・6話が発売されるという間の悪さ」
「うっわー複雑だなあ」
「この「熱狂の中発売された1・2巻と同時に前巻購入予約、最終回放送後に怒りの予約キャンセル」はエヴァの最終回を巡る騒動の中でも代表的なそれだ」
「分かりやすいもんな」
「ちなみにこのエピソードには続きがあって、「1・2巻を怒りの余り中古で叩き売る」ってのもセット。そして何だかんだでこの後劇場版の制作がアナウンスされると、再び全巻予約…って感じ」
「店員さん死にそうだな」
「ここでちょっとまとめておきたい」
「何だよ改まって」
「つまるところ、オタク第1世代にとって「新世紀エヴァンゲリオン」とはどういうアニメだったのか?」
「またそれか」
「ここまで解説してきたのを聞いてくれたんなら『何だかんだ言っても前半は「普通に面白いアニメ」だった』なんてヌルいことは言わんだろ」
「…まあ…」
「放送開始直後の解説でも言ったが、エヴァはアニメにとって…いや、アニメファンにとって『希望の星』だった。間違いなく」
「…大げさだろ。たかがアニメだ」
「そうじゃない。今でこそアニメを見ることそのものに全く屈託がない…「構えなくてもいい」時代が到来してるが、1995年という時代を考え合わせないと駄目だ。宮崎事件からたったの6年後だぞ?」
「…そうだが…」
「大げさに言うならば、『そもそもアニメなんてものは、男子一生の趣味として賭けるに値するようなものなのか?』というのが大テーマだったんだ」
「本当に大げさだな」
「この辺りの感覚は本田透氏の「電波男」あたりを併せて読んだ方が分かりやすいかもしれん」
「どういうことだ?」
「「オタクのビデオ」あたりを見るまでも無く、オタクと言う趣味は理解されにくい。どうしたって「気持ち悪く」見えるからな」
「…」
「BGMにエヴァンゲリオンの劇伴を使ってることで有名な「踊る大捜査線」に典型的な魔法少女オタクみたいなのが出て来るが、このステレオタイプな描き方が世に流通するオタクイメージの典型だろう」
「フィギア萌え族ってか」
「興味深いことに、女性にとって9割の男は「生理的に気持ち悪い」ものらしい」
「???どういうことだ」
「そのまんまな意味だよ。非オタクが好きそうな、汗の匂いがして体液がしたたり落ちて来そうなエロ本なんて、映ってるのは女性の裸…女性にとっては珍しくも無いもの…であるけど、女性にとってみれば『不潔!』ってことになる」
「そりゃエグいエロ本なんぞ女性は喜ばんだろ」
「対象が男であっても同じさ。それこそ世の中の「性的なモノ」の大半は女性にとっては「けがらわしい」ものなんだと」
「…はあ」
「デブでハゲで息が臭い、不潔でメガネが曇ってるダサ男…みたいなのは別に女性でなくたって生理的嫌悪感はあるわな」
「…まあな」
「これは美醜とは別次元で「不潔」か「清潔」かって話だ。だが、それこそ「ムキムキマッチョ」も結構な数の女性は苦手だ」
「…そうなのか?」
「うん。筋肉のスジがビキビキに出てるボディビルダーみたいな体型って寧ろ男の「筋肉マニア」みたいなのの方が夢中で、女性は「気持ち悪い」ものらしい」
「…なんとなく分からんでもないが…」
「それこそ「ゴキブリみたい」なんだと」
「ご、ゴキブリって…」
「上手く言えんけど、ターミネーターの骨組みみたいじゃん。昆虫ってさ。ああいう「機能美」しかないものってゴキブリとかスジ浮きマッチョみたいなもんでゾッとするんだと」
「はあ…」
「よく男は…いや、オタクは「顔がブサイクな男は絶対に持てない」とか「結局イケメンなら(顔がよければ)いいんだろ!?」みたいなことを言うが、ある面では当たってるがある面では外れてる」
「どういうことだ」
「確かに清潔さとかイケメンかブサイクかって視点はあるが、そもそも女性にとって男性の「9割」は「生理的に気持ち悪い」存在なんだよ」
「何を言ってんだ」
「そのまんまさ。あんなところからネバつく(自主規制)を(自主規制)したり(自主規制)な存在なんて「気持ち悪い」だろうが」
「…そういう風に言われるとそうかもと思うけど、それじゃあ人類なんか続かんぞ」
「その通り。ところが!男のやることなすこと90%を「生理的に拒否」「気持ち悪い」と感じるあらゆる特徴を、こと残りの1割、10%の男性に関してだけはその評価が180度反転する」
「けっ!所詮は顔かよ」
「いや、顔とは限らん。総合的な雰囲気とでも言おうか」
「何を言ってんだか」
「オタクの多くは持てない。オタク第一世代は結婚してるようなのも多いが、オタクをこじらせてるようなのは余りにも女性に縁が無いからそっち方面で人生を充実させることをとうの昔に諦めているようなのも多いんだ」
「はあ…」
「何というか、勇気をもって女性に話しかけてみよう!とかそんなレベルじゃない。近づこうとしただけで10メートル先からでもゲロを吐く真似をされるレベルの男ってのはいるんだ」
「…風呂に入れよ」
「だから物理的なものじゃないんだって。総合的な雰囲気と言うかさ」
「む~ん」
「何度でも繰り返すが、オタクをこじらせた第1世代にとって、アニメはしがみつく対象ではあったんだが所詮は子供向けのコンテンツ。「自主的に自分を騙し」たり、「突き離して達観して」楽しむ「通の趣味」になってた。子供の頃はあんなに熱狂してたのにだ」
「卒業しろよ」
「子供は大半がアニメ・特撮好きさ。けど、小学校に入る頃には「〇〇レンジャー」みたいなのは卒業だよ。あれは幼稚園児が観るものだ。ついでに言うと女の子で「プリキュア」観てるのは乳幼児から幼稚園生だ。小学生の女の子は観てない。ただ、オタクの多くが卒業せずにそのまま留まるか、また戻ってくる。これが何故なのかは分からん」
「反発必至で言うけど、精神的に幼いんじゃないのか?」
「仮にそれを言ったならばオタク第1世代は確かに反発するだろう。「分かってんだ。敢えて観てるんだよ」ってさ」
「面倒クセエなあ」
「現実は非情だ。どういう訳か自分たちオタク…はみ出しものには居場所が無い。しかし、サブカルには居場所がある」
「そこが分からん。どうして現実に居場所が無いんだ」
「…一応聞くが、付き合ってる彼女はいるか」
「何を言いだすんだよ」
「大事な話だ」
「…知ってるだろうに少し前に振られた。つーか何となく解消になった」
「友達はいるか?」
「…人並みに」
「そういう人間には分からんよ。オタク第1世代のオタク…童貞こじらせ系の人たちってのはまともなコミュニケーションを人と築くことが全くできないんだ。ましてや女性相手なんてとてもとても」
「…それはバカにし過ぎじゃねえの?オタク第1世代で妻帯者なんて普通にいるだろ」
「クルマと女と、せいぜいスポーツくらいしか共通点の無いウェーイ!系の浅黒いサーファー軍団みたいなのの中に「ザンボット3とガンダムの違いとは」が一番のトピックであるうらなりが馴染むと思うか?」
「…無理だな」
「オタクってのはそういう「業」を背負い込んだ存在なんだ。この世の日陰者。被差別マイノリティなのさ」
「本当の被差別マイノリティに怒られるぞ」
「そうは思わん。本当にコミュニケーション障害みたいなネクラな引きこもり、容貌魁偉なガチのオタクみたいなのばかりじゃなくてごくごく普通にサラリーマンや公務員生活を送ってるオタクだってそりゃいるさ。しかし、「こんなの本当の自分じゃない。思う存分大好きなアニメや特撮について語り明かしたい」と思ってる潜在的オタクも大勢いたはずだ」
「何か大げさなんだよなあ…」
「80年代の認識ってみんなそんな感じ。一般人がオタクを見る目ってのは常に上から小ばかにした様なのばっかりだ。この際名前を出しちまうが、「週刊プレイボーイ」なんて「オタクよ!とりあえずセックスしろ!全てはそれからだ!」みたいなノリだ」
「…表現はラジカルだが言わんとするところは分からんでもないが…」
「その週刊プレイボーイは今じゃ漫画を連載したり、オタク特集したりすっかりオタクに媚びてるわけだが」
「…」
「「セックスしろ!」なんてのは結論部分だけで、全編に渡って「キモい!ダサい!なんて気の毒な奴ら!人殺し予備軍!」ってな感じで“気軽に”…ここ大事!…差別用語連発だ」
「まあ、いかにもだが」
「オタクが恋愛に積極的でないのはよく「傷つくのが怖いから」みたいな言い方をするな」
「ああ」
「これは全く外れてはいないが、当たっているかと言えば当たってはいない」
「聞きましょう」
「自分が傷つくのもそりゃ怖いが、それ以上に「相手を傷つける」のも怖い」
「相手を?何で?」
「自分みたいなキモくてダサいのに告白されたとなれば人間の格がガタ落ちだろうが。そんな残酷なことが出来る訳が無い。こちとら無差別殺人鬼じゃないんだから」
「…本気で言ってんのか」
「別にオレがそうだってんじゃない。オタクの心境としての一般論だ」
「何でそこまで卑屈になってんだよ」
「お前にゃ分からんよ。リア充に片足突っ込んだ非・コミュ障にはな」
「それはあれか?何度も振られて嫌になってんのか?」
「あはははははは!(ひとしきり笑う)」
「…何だよ」
「あのな、そんなレベルの高い話をしてるんじゃないんだよ。それ以前の話をしてんの」
「…何だよ“それ以前”ってのは」
「幾らオタクが人間関係の機微に疎くて、KY(空気読めない)だろうが、「自分のコミュニケーションレベルがその場にそぐうものかどうか」くらいは何となく分かるんだ。分かってないと思われてるだろうがな」
「…はあ」
「例えばお前が可愛いと思う女の子がいたとする」
「ふん」
「いきなり『結婚してくれ』って言うか?」
「バカか」
「だろ?」
「頭おかしい奴だそれじゃ」
「それこそまずは何気ない会話からだろうが」
「当たり前だ」
「お前らリア充は傷つくことを恐れるな!みたいなモンキービジネスをほざきやがるが、オタクに言わせれば「出会いがしらの女にいきなり求婚しろ」と言われてるみたいなもんだ」
「ちょっと待てよ!何でそうなるんだよ。誰もそんなこと言ってねえだろうが」
「じゃあ何か?まずは段階を踏んで何気ない会話するところから始めろってのか?」
「…それって誰かに教えてもらう様なことか?普通に考えて普通にやれよ」
「その「普通」が出来ないんだって」
「何を言ってんだか全く分からん。それこそアニメ詳しいんだろ?アニメの話でもしとけ」
「いい年こいた男が「プリキュア」の考察始めたらキモがられるだろうが」
「なんでいきなりそんなハードコア路線なんだよ!普通にジブリとかその辺にしろ!」
「ムーミンが実は核戦争後の話だとか」
「なんで音楽初心者にいきなりデスメタル聴かせる様なトリビアぶっこんでんだお前は!「ドラゴンボールって面白いよね」くらいにしとけ」
「スカウターって最初は5万で壊れてたのにフリーザは53万あるのに普通に計れるっていくらなんでも性能上がり過ぎじゃね?」
「やかましい!」
「実は元気玉って劇中で3回使ってるけど、一度もまともに相手を倒せてないよねとか」
「知らねえよ!」
「冗談はさておき」
「冗談なのかよ!」
「何度も言うが、お前が言ってる「普通に話せ」とか「当たり障りのないコミュニケーションから」みたいなのは少なくとも選ばれた一部のオタクには全く通用しない」
「選ばれた…って」
「もちろん皮肉だ」
「はあ」
「お前はそうやって「普通に話せ」とか言うけど、いざ近寄ろうと言う「気配」を出しただけで嫌悪感丸出しの表情で睨まれたことなんぞ無いだろ」
「…」
「オタクってのは、「普通」が極めて困難な人種なのさ」
「…そりゃ不潔だったりしたんだろ」
「まあ、そうやって分かりやすい原因決めつけようとはするわな」
「違うのかよ」
「少なくとも分かりやすい原因があって、それを克服することで劇的に改善したりはしない。だが、明らかに条件が違う。人間としてのスタートラインが違うんだ」
「…何だと?」
「オレに言わせれば、オタクの人間コミュニケーションに対して「いいから普通にやれ」と言うのは、脚が不自由で地べたを這いずり回ってる人間の尻に蹴りを喰らわせて「何で走らないの?」と挑発してるみたいなもんだ。本人は善意のつもりでな」
「ふざけんな!」
「…何だ?大きな声だな」
「流石に今のは聞き捨てならんぞ。生まれつき脚が不自由みたいなもんだと?」
「ああそうだ」
「甘ったれんじゃねえぞカスどもが!」
「…あんだと?」
「己のコミュニケーション能力が足らないのを棚に上げて言うに事欠いて「生まれつきの障害と同じ」だと!?そんなもの、本当に生まれつきの障害を持っていながら健気に真面目に努力してる人たちに対する侮辱だ!取り消せ!」
「へっ!」
「何だその態度は」
「お前はその人間を形成してる要素が全て後転的なものだと思ってんのか?」
「先天的なものばかりだってのかよ」
「全てとは言わんが大半がそうさ」
「そんな訳があるか!」
「じゃあ背が低いのも血液型がB型なのも本人の努力が足らないせいかよ?」
「いや…それとこれとは話が違うだろうが!」
「同じだ!同じ!口下手で挙動がおどおどしていて、不気味なのも全部生まれつきだ!」
「だったら努力しろよ!」
「やってる!全員とは言わんが、オタクが全員最初から現実諦めてる訳じゃねえ!自分なりに努力してるんだ!その結果があのキモさだ」
「ンな訳ねえだろ!」
「何故分かる?」
「…何だと?」
「お前が言ってるのは結果論だ。今現在不気味な人間は全部努力不足だってのか?生まれつき気色が悪かったのを渾身の努力でそこまで『マシ』にした状態なのかもしれんぞ?」
「…」
「それをお前は言ったんだ。「努力しろ」ってな」
「…」
「これが侮辱でなくてなんだ」
「…理屈としては分かる。だが、結果しか評価されないのが世の中でもあるぞ」
「じゃあ、生まれつきキモい人間がいるのも、努力をしてもなおキモい人間がいるのも認めるんだな?」
「…認めるが…だったらもっとキモくならない努力はすべきだろうが!」
「人間には差がある。勉強であれ運動であれな。どんなに努力をしてもオレはイチロー並みの野球プレイヤーにはなれんし、羽生棋士並みの将棋プレイヤーにもなれん。これも努力不足か?」
「いやそれは…」
「お前は異性と話したり、一般人とコミュニケーションを取ること自体は「生まれつき」能力を持ち合わせて生まれてきて、維持するのにこれといった努力も必要としないんだろう。けど、世の中そんな人間ばかりじゃないのさ」
「いや…確かに俺は「他の人間と話すこと」に努力も練習も修行もしてねえけどさ…そんなの「普通の人間」なら「普通に」出来るだろ。努力するようなことか?」
「それだ!」
「…何だよ」
「だからそれなんだって。世の中全部自分の基準で考えるんじゃねえよ」
「…だってよお」
「じゃあ聞くが、お前はソバアレルギー持ちの人間に「普通に食えばソバくらい食えるだろ?普通にやれ普通に。出来ない?努力が足りねえよ」と言ってるのと同じだ」
「いや…性格が暗いのと病気を一緒にするなよ」
「(首を振る)全く分かってない。今も「アレルギー」を「好き嫌い」程度に考えるバカが大勢いるが、お前も同類だ」
「いや、だから病気は別だって!オタクは病気じゃねえだろうが!」
「ああそうさ。確かに病気じゃない。だが、期せずして生まれ持ったマイノリティ(少数者)だ。だから迫害される」
「…まさかとは思うが弱者権力振り回すつもりじゃねえよな?」
「いや。だが、「違い」すら前提として認めようとしない姿勢は断固許さん。別に理解しろとか許容しろとまでは言わん。だが、生まれつき社会と馴染まない性格ってのはあるんだ。それは「事実・知識・情報」として「知って」おいてもらわんと話にならんのでね」
「(考えている)」
「話を続けていいか?」
「…だとしても、「自分は生まれつきコミュ障なんだ!だからこのままでいいんだ!」って胸を張るのは何か違うんじゃねえのか?」
「いつ誰が胸を張ったよ」
「さっきから偉そうにほざいてるだろうが!」
「…オレが言ってるのは、少なくともマジョリティ(多数派)の言う「普通」レベルに達してない人間ってのがいて、馴染めずに孤独を感じてるって話だ」
「…人間的に何か欠陥があるんじゃねえの?」
「次に似たようなことを言ったら殺す」
「どうしても分からんのだ。こっちはオープンなのにどうして勝手に自分の殻に引きこもるんだよオタクってのは」
「別に。それこそ「普通」にしてるだけだ。こっちの基準でな」
「そんなんじゃ人生つまらんと思うがねえ」
「大きなお世話だ。こちとら話の合わん異性と時間を無駄にすることに意義を見出せない。そもそも人外魔境みたいなオレらに女が近づいてくる訳が無い」
「なあ、俺の方が間違ってたら教えてくれ。少なくともオスとしてメスに興味を抱く方が生物として正常だと思わんか?」
「思うね」
「だったら」
「こっちの方が異常だってのか?」
「…結論としてそうなるだろ」
「何度も言うが、オタクに性欲が無い訳じゃない。それどころかあの色とりどりのエロコンテンツを見る限り人一倍性欲は旺盛だろう。しかし、当の女性の方が全く求めない以上仕方が無い」
「何の話だっけ?」
「オタクの社会での居場所の話。異性だけじゃない。少なくとも一部のオタクは「普通」の社会にはなじめない」
「いや、普通に社会人してるオタクなんて幾らでもいるぞ」
「例外をあげつらって揚げ足を取るなって」
「いやいやいや!オタクがそこまで社会不適合なもんか!日本社会が成り立たん!」
「ああそうさ。だから少なくとも第1世代は「擬態」が上手かった」
「擬態…」
「そりゃ寄せ集めればキモオタみたいなのは10万人くらいはいたさ。オレの知ってるリア充はコミケの入場人数が50万人だって聞かされて『それならこの会場にミサイルでも打ち込んで皆殺しにすれば少しは日本も良くなるな』とさも当たり前みたいに言い放ったもんだ」
「…」
「第1世代オタクはアニメは好きだが、あくまでも趣味と割り切ってた。多感な子供時代に魅力的なコンテンツであるのは確かだが、アニメ一つが世の中を変える訳じゃない。そもそもが本気でのめり込むようなものじゃない…そう思ってたんだ」
「前にも聞いた」
「…これには前段階がある。まず「アニメ新世紀宣言」だ。ガンダムを嚆矢とするリアルロボットものの隆盛は「ロボットアニメはガキが見る30分のコマーシャル」という偏見と唾棄すべき現状を打ち破り「大人も観る価値のある映像作品」というステータスを獲得した」
「…まあ、そうかな」
「これは一アニメジャンル…ロボットアニメ…に留まらず「アニメ」ジャンルそのものの可能性を押し上げた。何しろガンダムだマクロスだイデオンだに長蛇の列ができ、週に何本も放送されて専門雑誌まで何冊も創刊されてる。わが世の春だ」
「…うん」
「ところが、…これまで縷々説明してきたとおり、「リアルロボットアニメ」と言うコンテンツは構造が脆弱だ。あっという間に「ガンダム」の貯金を使い果たし、唯一その「ガンダム」だけを残して壊滅してしまう」
「80年代後半だな」
「うん。そのガンダムだって「継続してる」というだけでずーっとブームだった訳じゃないからな。ともかく、ぶっちゃけて言うと「寄って立つところ」があやふやなオタクたちはこの「リアルロボットブームが去ったこと」を持って「一事が万事」とばかりにある可能性に思い至る」
「…何だよ」
「そもそもアニメなんてものはそれほど大したものじゃなかったんじゃないのか?…ってね」
「…う~ん(腕組みをしている)」
「これについてどう思う?」
「どうって…単なる「はやりすたり」の問題でしかないだろ。アニメと言うコンテンツそのものが滅びる訳じゃない。めんたいこスパゲティのブームが去ったらもうパスタは誰も食わんのか?スープカレーブームが去ったら誰もカレーなんぞ食わないってか?」
「ま、そんなところだ。ただ、「刺激的で面白いもの」というのは要は「アブないもの」だ。当局が目を付けて、大人が眉をひそめるようなものこそが若者には一番楽しい」
「そういうところはあるな」
「古くはディスコとか」
「で、ディスコ!?」
「バイクやロックなんかも「大人に抑圧される」趣味だわな」
「はあ…」
「オタク第1世代は実はこの辺りは、時代の空気が余りにも強いこともあって半ば「諦めて」いる」
「諦め、ねえ…」
「テレビの夕方からやってる乳幼児から幼稚園生向けの(リアル)ロボットアニメこそ振るわなかったが、ビキニ水着みたいなアーマーに身を包んだ美少女が操るロボットみたいなアニメはOAVで花盛りとなる」
「…これって進化なのかね」
「メカと美少女はオタクの基本願望だ。歴代ダイコンフィルムを観てみるといい」
「…正直、俺も一応オタクだから面白いとは思うけど、あの濃厚なオタク臭さってちょっと「うげっ!」っとなるところがあるんだよなあ…」
「そこは数奇者同士の丁々発止ってところさ」
「背徳感を覚えるくらいの「幼女」に異様なまでに描きこまれたメカ、もはや“くさそう(女性の香水や体臭的な意味で)”レベルにセクシーなバニーガールとかもうね…センスが一周回っておっさん臭くなってる」
「ぶっちゃけて言うけど、なぜそうなるかと言うとあくまでも「同人ビデオ」だからだよ。商業アニメには商業アニメの論理がある。そこではまず見られないからこそ希少価値があった」
「はあ」
「ところがエヴァンゲリオンはそういう「大人の理屈」を若者が力ずくでひっくり返した作品だった」
「当時は若手だもんな」
「テレビアニメには明らかなオーバークオリティな作り込み(序盤)は『分別のある大人は決してやらない』エキサイティングなそれだった訳だ」
「まあ…そうかな」
「放送当時のオタク第1世代…当時は彼らだって最年長でも30歳前後…は最初は疑心暗鬼だったと思うが、5週、6週~8週~10週とクオリティが落ちないどころか上昇せんばかりの「勢い」を見て歓喜しただろうな」
「面白かったもんな」
「だから!単純に目の前のアニメが面白いのつまらんのと言った近視眼的な話じゃないんだよ!」
「はあ」
「『アニメなるものは、本当に価値あるものなのか?本当なのか!?』という問いの答えがそこにあった」
「良く分からん。もっと分かりやすく例えてくれ」
「最近そっくりな現象があった。あれが分かりやすい」
「何だ」
「それは次のチャプターで」
・「新世紀エヴァンゲリオン」は「とにかく格好いい」「興奮する」シチュエーションをひたすら並べ立てている
・その為には設定や統一感すら犠牲にする
・元は「連続するストーリー」にする予定すらなかった(?)
*****
・とにかく情報を大量にぶち込む。意味はどうでもいいから(例)マルドゥック機関、ネオパン2000、ガフの部屋)
・よく聞いてないと分からん用語を絶妙に配置する(例)使徒、セカンドインパクト)
・ダブルミーニング、見立て用語を多用する(例)ATフィールドは人の心の壁の象徴、LCLは羊水)
・ディティールが格好いい(第壱話、初号機、弐号機、参号機…)
・敵の正体が不明で、得体がしれない感じ
・戦闘シーンでは重厚で格好いい音楽を流す(低音を効かせる)
・オペレーターが緊迫した表情で「格好良く聞こえる」専門用語を怒鳴る(例:強羅絶対防衛線を突破されました!)
・意味は良く分からんが、「何だか格好いい」用語を使う(例:汎用人型決戦兵器、ヤシマ作戦、人類補完計画、死海文書)
・人類が滅びそうなピンチに陥る
・「とにかくなんか大変なことになってる」感じにする(例)BGMがクラシック)
・感情移入できそうなキャラが機転を利かせて危機を突破する
・ちょっとシリアスもありよ(例)一見明るく見えるミサトやアスカも心の闇を抱えている)
・敵相手、そして味方相手にも「びっくり解説」をする(例)もうエヴァを止めることは出来ないわ!)
・誰か何かたくらんでいそうな雰囲気を出す(例)リツコ)
・「何もかも分かっている」風を装うキャラがにやりと意味深に笑う(例)ゲンドウ、カヲル)
・やっと判明したと思ったら次の新しい「謎」が提示される
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