エヴァ編15 いくつもあったはずの冴えたやりかた
「それにしても、エヴァの後半がああなったのはスケジュールがパンクして追いつめられた挙句の苦し紛れ…こそがメインの原因だって考察は新しいな」
「そうかな。星の数ほどなされた推測やら考察の中でも色々あったし、放送終了直後には散々言われてた。つーか一番現実的でしっくりくる。ただ、それを「自己弁護」出来るだけの材料が揃っていたのがある意味不幸だったな」
「自己弁護?」
「表現として「結果的に手間が掛からない」方法が目新しかった(と思ってた)ってことと、更には「問題意識」をダイレクトに伝えることそのものが自己目的化したんだから」
「他のクリエイターってどうやってアニメ作ってんだ?」
「別に…普通に作ってるよ」
「問題意識を持たずにか」
「そりゃ考え方だ。普通の社会人は…例えアニメクリエイターだろうが…そんなにアニメに自己の像を投影しないから」
「投影…」
「もっと言えば『依存』だな。今は知らんが明らかに庵野監督はこの時期にあってはエヴァそのものに依存してた。アニメが自分の中で締める割合が大きければ大きいほど、その評価ひとつでブレることになるわな」
「む~ん」
「繰り返すけど、あの最終回が轟轟たる非難を巻き起こしたのは「謎を説明してない」とか「ストーリーの続きを描くことを放棄した」からじゃない。「納得いかないから」だ。「納得いかない」というのは「つまらない」とか「お気に入りのキャラを殺したから」とかそういうイチャモンレベルの話じゃなくて、「ミステリなのに犯人も分からない」みたいな基本的なレベルの話をしてる」
「またその論争か…」
「映画『クローバーフィールド』において、劇中で主要登場人物の浮気疑惑みたいな些細な話題が序盤は延々続く。その話の結末なんて明かされないが、その後怪獣に襲われてえらいことになる」
「はあ」
「確かに「あの話はどうなったんだ」ではあるが、別に誰も怒らない。納得は行かないが気にならない。「納得がいかない展開」ってのは仮にその問題を延々引っ張った挙句、「実はね…」といざ真相を明かす瞬間にぶっつり終わるみたいなもんだ」
「…そりゃ怒るな」
「気にならない様にしろって言ってんだよ。それこそ監督自身の問題意識を視聴者の大半に共有してもらえる様にしっかり演出し、視聴者たちですら「ああ、確かに謎解きなんてどうでもいいな」と思い込んでもらえていたならばこんな問題になんかなるもんか」
「…まあな」
「とはいうものの、実際にはそうはならんだろうな」
「言い切るな」
「こう言う言い方が正しいかどうか分からんが、『構ってちゃん』ってところがあるからな」
「何だって?」
「要するに観てる方の感情をわざとかき乱させるっていうか、「すとんと腑に落ちる」様に“だけ”はしないだろうな…というのが目に見える」
「そんな悪意ある邪推されても」
「「Q」観た後でもまだ擁護するか?」
「…」
「エヴァは色んな意味で『典型的な日本アニメ』だ」
「例えば」
「日本アニメの顕著な特徴は文法が「マンガ的」であること。ぶっちゃけストーリーの完成度なんかよりも「キャラへの愛着」「居心地のいい世界観」が優先される」
「そ、そうだな」
「リアルタイム組には悪いんだけど、オレ自身はキャラへの愛着はそこまででもなかったから余り重視して書いてきてないが、「愛着のあるキャラたちと一緒にその世界観にどっぷり浸ってだらだらと楽しむ」には最適のアニメだ」
「うん」
「最適どころか「最高峰」とすら言えるかも知れない」
「そこまで言うか」
「つまり、言い方を変えれば『依存する』ことで最も楽しむことが出来るのであり、『精神的に寄りかかる』ことで「一緒の夢を見る」ことが出来るアニメなんだ」
「…はあ」
「どんな作品においてもそういう傾向はあるが、それが極端なのが日本アニメであり、世界中の「テレビアニメ」と言うカテゴリでは類例を見ないだろう。だからウィルスの様に拡散するほどの魅力を秘めている。ここまで『べったり寄り添うことを要求する』アニメも前代未聞なら、『それでいてそれに応えるだけのポテンシャルを持っている』アニメも前代未聞だろう」
「言い過ぎじゃ?」
「要求するアニメはあるんだよ。ただ、それが「結構面白いアニメ」、いやや「ムチャクチャに面白いアニメ」くらいじゃ駄目なんだ。幸か不幸かそれが「20年に1本クラス」の物凄いアニメだった」
「む~ん」
「そこに持ってきて『時代を変える』『第三の波』だった。これも不幸だ」
「不幸ねえ」
「時代どころか「世の中を変える」と意気込んだアニメに…それこそ「シンクロ」してほしいんだとしたら「アニメと言うのはそこまで凄いものなんだ」と思い込んでもらわないといけない。その前提があって初めて「凄いアニメ」が意味を持つ」
「そうだな」
「3か月、いや半年近くかけてその「前提」を了解してもらい、アニメ…いやエヴァへの「依存体質」へと視聴者を改造し、「エヴァ無しでは生きていけない」状態にまで落とし込んでおきながら、当の本人は何だか知らんけど勝手に「悟って」しまって、あろうことかこんなことを言いだした」
「何だ」
「『お前らアニメなんて下らんもの観てるんじゃねえ!目を覚ませ!』」
「…(ぶちぶち)」
「ンなこたあ最初から分かってんだ!つーかお前ほどアニメに依存した生活なんぞしてきてねえよ!それをお前を信じて付いて行ってやってたのにその言い草は何だ!…と思っただろうな」
「そりゃそうだ」
「というか庵野監督だって分かってるさ、そんなことを言われればオタクでなくたって怒ることくらいは」
「じゃあ何故言う」
「怒らせるためだよ」
「…はぁ?」
「わざと挑発して相手が怒ったら「そんなことで怒るなんて大人げない」みたいなこと言う奴いるだろ?あんな感じ」
「天邪鬼か!ただの性格悪い人になってるぞ!」
「上から目線で偉そうに説教モードに入ってるからな。ただ、近親憎悪であることも確かだ。今のオタクは過去の自分だと思ってる。だから遠慮が無い」
「…何が何だかわからない…」
「そういう意味では「終わらない日常」じゃないが、「終わりそうで終わらない」「終わったと思ったら全部リセットでまたループ」みたいに結果的に延々浸り続けられるという点では『怪獣も襲ってくるけど理想的な日常系アニメ』なのかもしれないな」
「ねーよ」
「そうか?結果として20年経とうとしてるのにまだ終わらない。「過激なサザエさん」みたいなもんだろ」
「…そこはせめて「ドラえもん」くらいにはしてやってくれ」
「とにかく振り返ろう」
第壱話 1995年10月4日 使徒、襲来
第弐話 10月11日 見知らぬ、天井
「エヴァって放送前のアニメオタクの前評判とかどうだったんだ?」
「リアルタイム組じゃないんで何とも言えないが、一部のマニアは本編どころかキャラ表なんかを観る前にスタッフだけで予約録画のセットを始めてたらしい」
「へ、へー…」
「テレビ東京夕方6時代は月~金で毎日30分アニメが2本ずつ放送されてた。この時代のメインのアニメ枠と言っていいだろう。あの「無責任艦長タイラー」もこの枠だ。ちなみにエヴァの30分前からは「愛天使ウェディングピーチ」が放送されてる。セーラームーン系の「コスチューム(集団)ヒロインもの」の一派だ。ちなみにこの頃は「ジョーズ」にかこつけて「ピラニア」だの「アリゲーター」だの「グリズリー」だのが次々に人を襲い始めたのと同じで、「コスチュームヒロイン」ものが衣装替えして矢鱈にあった」
「ほう」
「セーラー服を元祖にナースだのシスターだの…正統派変身ヒロインじゃないがバレリーナもあった。でもって真打(?)たる「ウェディングドレス」がこれってわけ」
「はあ…。別に結婚する訳じゃないんだろ?」
「本来は儀礼用礼装だからそういう目的のはずなんだが、「戦闘用コスチューム」「変身後の姿」だから、花嫁姿に変身して戦う」
「シュールな絵面だな…」
「実際そうだぞ。変身バンクでキャンドル点火サービスに、酒が飲めないから「ミルクで乾杯!ごっくん!」とか」
「作り話乙」
「本当なんだって!一回観てみろ!つーかリアルタイム組はみんな観てたらしい」
「マニアか」
「前番組だからチャンネル合わせてると最後の10分くらいは観ちゃうんだってさ。リアルタイム組の合言葉は「うえぴーも生で観た」らしい」
「知らんがな」
「ちなみにメインヒロイン3人の内一人が当時新人の「宮村優子」氏だったりする」
「へえ…って夕方6時って幼女向けアニメ枠としてどうなんだろうな。…それにしても他に地上波テレビアニメそのものが無いのかよ」
「無い訳じゃない。子供向けアニメ、子供向け販促アニメなんかはある。ただ、意欲的なアニメって意味じゃあ寂しい状態が続いてたとは言えるな」
「そこに登場したってことか」
第参話 10月18日 鳴らない、電話
第四話 10月25日 雨、逃げ出した後
「ガンダムが最初に登場した時、アムロが余りにも内省的な少年なんで「ネクラ少年が主人公」みたいな言われ方をしたこともあったらしい」
「ネクラって…時代だなあ」
「シンジはそれを更に深刻にしたバージョンと言えるだろう。内気でうじうじしてる」
「うん。ただ、「オタク」ではないな」
「次に時代を作るアニメが出て来るとしたら「卑屈なオタク少年」が主人公だったりして」
「…観たいかそんなの」
「一応パイロットとしてやっていくことは決めるんだけど、いきなり順応するのもおかしいだろってことで逃亡するエピソードが後から追加されたらしい」
「へー」
「この時期エヴァの素材が流出してたみたいで、4話の「音無し(アフレコ前)バージョン」のVHSビデオを入手して観てた兵もいたらしい」
「普通に犯罪じゃ…」
「オタク第1世代は『祭り』状態だったからなあ。セルドロ(セル泥棒)を武勇伝みたいに話す世代の残滓ってところか」
第伍話 11月1日 レイ、心のむこうに
第六話 11月8日 決戦、第3新東京市
「前後編で「序」でもリメイクされた決戦を描く」
「ヤシマ作戦だな」
「ちなみに「ヤシマ(屋島)」ってのは「神州」とか「扶桑」と同じで日本国の美称の一種。それから5・6話に前後編が来る構成は「帰ってきたウルトラマン」と同じ。というかそれに合わせてる」
「…そこもオリジナルじゃないのか」
「グドンとツインテールの回で、この世代は「ツインテール」というと女の子の髪型じゃなくてこの垂れ目の逆立ちしたみたいな怪獣を思い出すらしい」
「エビウマー」
「流石にこの頃になるとアニメファンなんかには相当に知れ渡って祭り状態になってたみたいだ」
「そうなんだ」
「それこそ一般人の人たちも一部では注目が始まっていて、常に面白いものを探している都内の大学生グループなんかは「鑑賞会」と称して泊まり込みでヘビーローテーションしてたりするらしい」
「ほう。アニメサークルとかか?」
「いや違う。スポーツの同好会みたいなのであっても関係なく結構観られてたらしい」
「ふぅん」
「オタク第2世代の知人はアンチガイナックスだから敢えて観て無かったのにそれにつき合わされてこの辺から観る羽目になったんだと」
「いいじゃねえかよ」
「面白いのは「テレビアニメなんて10年ぶりに観た」なんてことを言う、「普段は全くアニメなんか観ない」層をこの時点ですら大量に巻き込んでいることだ」
「そこが不思議だよなあ」
「ただ、一般人はOPを飛ばすんでそこはカルチャーショックだったんだと」
「ぶわはははは!なるほど。オタクは飛ばさないからな」
「ちなみにEDは飛ばさないらしい」
「?何で」
「毎回違うからさ。曲こそ同じだが、歌手もアレンジも画面の色も毎回違う。一般人ですら「そこに何かの意図が込められている」ことには気付いてた」
「…」
「ま、典型的なジャンク情報なんだが」
「やっぱり」
「この時点でエヴァがオタク界隈でどういう風に受容されていたかは記す意味があると思う。既に「次の放送までに何回観たか」の回数を競う競争状態になっていたらしい」
「え…」
「オレは10回だ!いや俺は12回だ!忙しかったんで5回しか観られなかった!…こんな具合」
「…凄まじいな」
「これより後になるとより深刻になるんだが、この時点でもう「エヴァにべったり依存」してしまう層は出て来てる。それくらい吸引力とパワーのあるアニメだった」
第七話 11月15日 人の造りしもの
「ボトルショーと呼ばれる回で、要するにその回だけで独立・完結してて無くても全体の構成には困らない」
「だな」
「とはいえ、一連の事態を画策したのがゲンドウ・リツコだったことが最後にさらりと明かされるあたり一筋縄ではいかない」
「あれだけ頑張ったミサトがバカみたいだもんな」
第八話 11月22日 アスカ、来日
「でもってアスカか」
「それほど長いアニメでもないのに1~7話に全く登場してない。新劇場版「序」には当然ながら未登場」
「む~ん」
「各回最善説の典型で、街中でド付き合いしてるエヴァと巨大空母の上に立つエヴァが明らかにサイズ違い」
「…こまけぇことはいいんだよ」
「そう、正にその通り。ポイントはこの頃は明らかに「笑い」も取りに来てる」
「笑い?」
「ゲラゲラ爆笑するのだけが笑いじゃない。クスッと来たりニヤリとしてしまうのも笑いさ。こういうのってやはり余裕が無いと難しいからな」
「それってシンジが弐号機パイロットのプラグスーツ着せられるあの場面のこと?」
「まあ、それも一部だな。明らかに女性体型になっちゃうのはおかしいだろ!と思うけど…少なくとも終盤にこういうおちゃらけ場面無いだろ」
「…無いな」
「最後は機転を利かせて格好良く締める。ラストにさっさと逃げ出した加持がゲンドウと繋がっていて「アダム」を見せつけてフィニッシュ。笑って格好良くて、ゾクリとくるミステリもあって…こりゃ熱狂するわ」
第九話 11月29日 瞬間、心、重ねて
「作るのに4か月掛かったという問題のエピソードがこれ」
「ああ、ツイスターで動きのシンクロ練習するみたいなエピソードだな」
「ぶっちゃけ後半はともかく、ヤシマ作戦あたりの厳密さと比べてすら齟齬があるとは思うんだが、そこは「各回最善説」「26本オムニバス説」で説明できる」
「む~ん」
「エヴァ全体の中でも8・9話あたりは5・6話と並んで人気が高いみたいだ」
「そりゃ明るいもん」
「この段階に於いてすらアニメファンの熱狂ぶりは凄まじかった。当時の同人誌即売会なんてにわか作りのエヴァ本で溢れてただろうな」
「同人誌かぁ…そういえば商業誌はどうなってんだよ。角川書店ってスポンサーだよな「月刊Newtype」なんて独壇場じゃないのか?」
「実際エヴァ人気でかなり売り上げを伸ばしたらしい。流石は一番売れてるアニメ雑誌だ」
「へー」
「アニメ雑誌は月刊が基本だから放送中に発売されたのは6冊だけなんだが、当時のアニメ雑誌を見ると意外なくらい大人しい」
「…やっぱり月刊誌ってタイムラグがあるから」
「それもあるんだけど、「ネタバレ」に警戒してアニメ本編を余り記事に出来なかったらしい」
「そうなんだ」
「だからOPの全カット写真とか、本編そのものじゃなくて映像に散りばめられた元ネタ特集とかそんなんばっか。まんだらけみたいな巨大古本屋に行けば古いアニメ雑誌なんかは割と苦も無く手に入れられるから当時にタイプスリップ出来るぞ」
第拾話 12月6日 マグマダイバー
「これもまあ…ボトルショーだろうな。ちなみに使徒がこの頃話題になってた古代生物の「アノマロカリス」そっくり…と言うあたりがポイントだ」
「どの辺がポイントだってんだ」
「タイトルはSF長編の「サンダイバー」からの引用」
「やれやれだぜ」
第拾壱話 12月13日 静止した闇の中で
「毎回原題とかけ離れた英語サブタイトルが付くんだが、この回は「地球が制止する日」の原題がサブタイトル…という相変わらずの凝り方」
「力の入れどころが間違ってる…いや、これでいいのか」
「これもボトルショーとも言えるが、零・初・弐号機が同じ画面内に揃って活躍する回は何だかんだで珍しい」
「はあ」
「毎回作画が安定しないアニメなんだが、この回はスタジオジブリが作画担当というのは豆知識な」
「どうでもいい」
「ここでエヴァ史上ほぼ最初の事件が起こる」
「何だよ」
NEON GENESIS EVANGELION(1995年12月16日)
「アニメファンの間ではエヴァの名を知らない者はいない。すっかりアニメなんかから足を洗った第1世代やら現役の第2・3世代は勿論、アニメなんて馬鹿にして観たことも無かった一般人にまでその影響は拡散しつつあった」
「ふん」
「だが、当然ながら一般のメディアは黙殺状態だ。というか存在そのものを知らなかっただろうな」
「そりゃな」
「この年の5月に逮捕されたとはいえ、まだまだ世間はオウム事件のショックから抜け切れてない」
「…そうか」
「そこでエヴァのサントラCDが発売され…なんとオリコン週間チャートで2位に食い込むという快挙を達成する」
「2位…?微妙じゃね」
「今じゃアニソンがオリコンベスト10を埋め尽くす事態も珍しくないが、1995年は日本史上最もCDが売れた時代だ。現代の週間1位をこの時代に持って行くと圏外なんだぞ?その修羅場みたいなただなかに、「アニメの音楽集」が食い込んだんだ」
「…そうか」
「これはスポーツ新聞の3面を飾る「ニュース」となった。後に朝日新聞の文化欄にすら登場するエヴァだが、普通のマスコミで報じられたのはこれが最初だろうな」
「一般人は数字でしか凄さが分からんからな」
「この場合は一般人というよりはマスコミが…と言うべきだろう。ちなみにどうして2位だったかというと、まさかアニメのサントラがそんなに売れるとは思っていなかったんで最初から刷り枚数が少なかったからなんだ」
「え…それじゃあ」
「ちゃんとした枚数があれば間違いなく1位だった。このサントラはぶっちぎりで市場から消えたらしく、当時の秋葉原ではプレミア価格がついて売買されていたらしい」
「エヴァブーム爆発直前のマグマみたいに力が溜まって行くところか…」
「何しろこれだけのブームなのに本編が未発売。純粋なアニメグッズみたいなものはあっただろうが、やっと公式から発売される「本編」に限りなく近いそれだ。飛びついただろうな」
「…スゲエな」
「当時のアニメファンがエヴァをどういう風に捉えていたかだが」
「うん」
「それはもう『事件』だ」
「事件?」
「単なる話題作だの、「ムッチャクチャ面白いアニメがあるらしい!」程度のレベルじゃない。『大変なことになってるぞ!』…という感じだったそうだ」
「…はあ」
「観る理由…について説明すると言ったな。この時点でエヴァはアニメに興味があるなら「観る理由」としては十分すぎるものがあった。観ないなら観ないで「観ない理由」が必要なレベルだ」
「そうなのか」
「もう一度繰り返すが、要するに紆余曲折あってアニメファンはアニメと言うジャンルそのものに絶望してた」
「うん」
「所詮アニメなんてものは、大の大人が夢中になる様な“大したモノ”では無かった…という感じだ」
「大げさな…そんなことで落ち込むなよ」
「ところがそこに、『自分たちほどのアニメ達人が本気で観てすら底が知れないアニメ』が登場したんだから、狂喜せんことか!」
「はあ」
「それこそ大げさに言えば、この人たちくらいになると、アニメ観て驚くということが既にない」
「もう…観なくていいんじゃないかな」
「それが全カット何かの手が掛かったアニメの登場だ。この人たちは極論すれば、「自分たちよりもアニメに詳しい人間が作ったアニメ」を観たことが無かったと言ってもいい」
「…?なんだって?」
「この場合の「アニメに詳しい」ってのは、アニメの撮影技術がどうこうとかそういう話じゃなくて「アニメのジャンル」とかそういう話な」
「すまん。良く分からん」
「ガンダムブームの最初の波が1979~1982年くらいだとすると、もう10年強が経過してる。どうやら話を総合すると「ファン」と「作り手」が同じ価値観を持つとは期待してなかったらしい」
「???」
「ハッキリ言って「アニメなんかに本気になる」ってのは大人げないんじゃないか?…と思い始めてたんだ」
「気付くのが遅いよ」
「その言い方は時代背景を無視してる。「一見くだらないかも知れないが、一生を賭けるのに悔いの無いもの」ってのはある。それがその時には世間的に馬鹿にされるものだったりしたら…?痛快だろ」
「はあ」
「SFファンなんかはその屈折した感情を昇華させることに成功してないと言える」
「はあ」
「ま、もっとも長年かけてエヴァなんかはどういう訳か知らんが「オシャレアニメ」みたいなことになるんだけど、その時に古参のファンが尊敬されたりは別にせんのだけどな」
「そりゃそうだ」
「チャラい一般人なんて単に「面白そうだ」と寄ってきて、飽きたら次に行くだけだ。それを「世間に認められた!」と一喜一憂してしまうのは、何のかんの言っても世間に認められたいオタクの悲しい習性ってところだ」
「うう…」
「アニメ作ってるのは良くも悪くも大人だよ。どんな創作物だって「作者よりも詳しいファン」っているじゃん」
「あーいるいる」
「『グイン・サーガ』の栗本薫先生は多くなりすぎた人物を「ファンが作ってくれた人物相関図」観ながら情報を把握して書いてたらしい」
「どういうことなんだよ!」
「口ではオタクで悪いか!みたいなことを言ってるが、「このままじゃいけない」とは思ってた。ところが、「エヴァ」は正にアニメ…というかサブカルオタクが作ってるみたいな出来栄えだ。恐らくこのスタッフとオタクトークしても適わないかもしれない!」
「…そうかもな」
「つまり、「おれたちって間違ってなかったんだ!これで良かったんだ!このままでいいんだ!」と快哉を叫んだ訳だ」
「うわ~…」
「だって目の前で自分たち以下…もとい、以上のオタクパノラマが展開してるんだから。自分たちの生き方の全肯定をしてくれてるんだよ!」
「いや…違うと思うが…」
「作品の内と外でのオタク第1世代の愛憎と相克ってところか。前半は「物言わぬ肯定」ってところだが、テレビ版ラストを字義通りに解釈するなら「このままでいいんだ!」ってことだ。ところが監督自身は「オタクなんて下らない。アニメばっか見てんじゃねえ」と言い出す」
「どっちなんだよ」
「肯定したいんだか否定したいんだか分かってないんだよ。自分でも」
第拾弐話 12月20日 奇跡の価値は
「落下してくる巨大使徒を受け止める話」
「あー」
「新劇場版にも採用されたエピソードだな」
第拾参話 12月27日 使徒、侵入
「個人的にエピソードとして好き。マヤちゃん贔屓なんで」
「おいおい」
「ちなみに登場人物の苗字は戦艦や空母などの旧日本軍の艦艇から取られてるのは有名だ。葛城、赤木(赤城)、日向、青葉、綾波…」
「艦これで有名になった艦も多いな」
「その中で唯一「伊吹」と「摩耶」の二艦から名前を引用しているのが「伊吹マヤ」ちゃんだったりする。どんな意味があるか知らんが」
「特にないんじゃないか」
「そうかもな。ともあれ年内最後のエヴァで、冬コミ直前にもかかわらず全くテンションが落ちない」
「こりゃ行列での会話はこれ一色だわな」
「ちなみに放送中に唯一行われたコミックマーケットなんだが知っての通りカタログにはエヴァのエの字も無い」
「え?」
「冬コミの申し込み期限は夏コミの数日後。つまり8月だ。10月開始アニメはジャンルとして受け付けることが出来ない。申し込みの時点で始まってすらいないんだから」
「あ…」
「ところが、「アニメ評論」と何の関係も無い島においてすらどっちを見てもこっちを見ても「エヴァ本」だらけで、「評論」スペースに向かって歩き続けてるだけでエヴァ本を買うために用意した数万円の軍資金を買いつくし、予算不足になったりしていた…なんてファンもいたとか」
「何をやってんだ」
「この前にも書いたけど会場は全部エヴァ意匠一色。ネルフ制服は割とおとなしいデザインだし、リツコなんて白衣でいいってこともあってコスプレも物凄かったらしい」
「…だろうな」
「残念ながら「エヴァ夢いっぱい」コミケはこれっきり。1996年の夏コミは喧々諤々のエヴァ論争の真っただ中だ」
「…」
第拾四話 1996年1月3日 ゼーレ、魂の座
「何しろまだハードディスクレコーダーなんて上等なものは存在してない。インターネットも無いから番組表を取り込んで予約するなんてことも出来ない」
「…どうやってたんだ?」
「日時とチャンネルを指定して予約するんだよ。VHSテープに」
「…上手く行くのかね」
「不安な人間が帰省を諦めてテレビの前に陣取ってたんだろうな」
第拾伍話 1月10日 嘘と沈黙
第拾六話 1月17日 死に至る病、そして
第拾七話 1月24日 四人目の適格者
「後の劇場版のスローモーな製作ペースを考えるとこの調子で毎週放送してたってのは凄まじいな」
「まあ、銀河英雄伝説だって本編は半年に一冊づつ出てたっていうじゃんか」
「序盤やアスカが登場したころの明朗快活なテンションは見る影も無く、どんどんシリアス度合を増していく」
「一瞬も見逃せんな」
「それはいいんだが、もうとっくに「ラスたち」は諦めてる時期でもある」
「…」
「にも関わらず本編のテンションは天井を突き破らんばかりに倍々ゲームで増え続けてるわけだ」
「テンション下がってるんじゃねえの?」
「明るい序盤・中盤とのコントラストで「シリアス」が最高に際立ってしまってる」
「あ…」
「ヘビーなファンは毎週何回見返してたやら分からんだろう」
「考察も行われてたんだよな」
「そりゃもう凄まじいペースで。インターネット配信なんて無い時期だから「フィルムブック」が記録的な売り上げを達成した」
「ああ、そんなのもあったんだ」
第拾八話 1月31日 命の選択を
「ダミープラグで暴走した初号機が使徒化した参号機を血の海にする場面は、美しい田園風景に破壊された人体パーツや臓物が映えるという悪夢みたいなビジュアルで物議を醸す」
「…」
「エントリープラグを握り潰し、最後の場面でトウジを確認して絶叫と共に暗転、「つづく」となるラストなんぞ視聴者は茫然ですよ」
「確かにショッキングだ」
「余りの内容に「子供向けアニメとしてふさわしくない」としてテレビ東京には抗議電話が殺到したらしい」
「子供向けアニメ…」
「そしてこの時期、遂に待望の日を迎える」
「何だ」
新世紀エヴァンゲリオン Genesis0:1
1996年2月3日 第壱話、第弐話
「遂にVHS・LDソフトが発売になる」
「遅いよ!どんだけ待たせるんだ」
「たった半年のアニメが放送中にソフトになることの方が快挙なんだから許せ。つーか最終回近くの作業をやってように良く発売出来たもんだ。素晴らしい」
「この発売日エピソードが面白すぎるんで次のチャプターへ」
・「新世紀エヴァンゲリオン」は「とにかく格好いい」「興奮する」シチュエーションをひたすら並べ立てている
・その為には設定や統一感すら犠牲にする
・元は「連続するストーリー」にする予定すらなかった(?)
*****
・とにかく情報を大量にぶち込む。意味はどうでもいいから(例)マルドゥック機関、ネオパン2000、ガフの部屋)
・よく聞いてないと分からん用語を絶妙に配置する(例)使徒、セカンドインパクト)
・ダブルミーニング、見立て用語を多用する(例)ATフィールドは人の心の壁の象徴、LCLは羊水)
・ディティールが格好いい(第壱話、初号機、弐号機、参号機…)
・敵の正体が不明で、得体がしれない感じ
・戦闘シーンでは重厚で格好いい音楽を流す(低音を効かせる)
・オペレーターが緊迫した表情で「格好良く聞こえる」専門用語を怒鳴る(例:強羅絶対防衛線を突破されました!)
・意味は良く分からんが、「何だか格好いい」用語を使う(例:汎用人型決戦兵器、ヤシマ作戦、人類補完計画、死海文書)
・人類が滅びそうなピンチに陥る
・「とにかくなんか大変なことになってる」感じにする(例)BGMがクラシック)
・感情移入できそうなキャラが機転を利かせて危機を突破する
・ちょっとシリアスもありよ(例)一見明るく見えるミサトやアスカも心の闇を抱えている)
・敵相手、そして味方相手にも「びっくり解説」をする(例)もうエヴァを止めることは出来ないわ!)
・誰か何かたくらんでいそうな雰囲気を出す(例)リツコ)
・「何もかも分かっている」風を装うキャラがにやりと意味深に笑う(例)ゲンドウ、カヲル)
・やっと判明したと思ったら次の新しい「謎」が提示される
*****




