エヴァ編11 魂
「ということで可能な限り駆け足で解説する」
「へいへい」
・よく聞いてないと分からん用語を絶妙に配置する(例)使徒、セカンドインパクト)
「これって、富野アニメの「ザク」とか「木馬」とか「グランチャーがアンチボディでリバイバル」とかと同じってことだよな」
「基本的にはそう。ただ、どうやらこれってかなりの「センス」がいるらしい」
「センス?」
「何だかんだ言ってもエヴァはセンスの塊だ」
「はあ」
「「機動戦艦ナデシコ」では敵の事は「木星トカゲ」と呼んでる。確かに「敵」とか「敵メカ」みたいな一般名詞ではないんだけど、飛躍が足らない」
「飛躍…」
「呼んでる対象が近すぎず遠すぎず、耳障りが新鮮で「…何それ?」と耳目を引きつける絶妙な距離感の用語ってそうポンポン思い浮かばんのよ」
「例えばどんなのならいいんだよ」
「使徒」
「あ…」
「オレは言語学の専門家じゃないから、「木星トカゲ」がイマイチで「使徒」が何とも不思議な語感を持つ新鮮な用語に『聞こえる』現象について上手く解説できんけど」
「なるほどねえ」
「セカンドインパクトってのも絶妙だ。誰だって「じゃあ、ファーストインパクトは?」と思わず聞いてしまう」
「む~ん」
「これが「サマー・オブ・ラブ」じゃどうもしっくりこないんだよ…理屈は分からんけど」
「何だっけそれ?」
「「エウレカセブン」に登場した用語だ。エウレカも登場人物の名前から何から物凄く引用が多く、情報過多のアニメではある」
「ふ~ん、そういうもんかね」
「これはセンスだよ。「蒲池典子」だとアイドルとしては駄目だけど「松田聖子」ならいい!ってのは日本人なら誰でも感覚的に分かるが、何故だ?と畳みかけられても分からん」
「なるほどねえ」
・ダブルミーニング、見立て用語を多用する(例)ATフィールドは人の心の壁の象徴、LCLは羊水)
「これが決まった段階でエヴァは時代を越えたヒット作になることが約束されたようなもんだ」
「どういうことだよ」
「本なんかはただ文章の単語の意味が分かるだけでは面白いとは思ってものめり込むところまではいかない。推理ものであるなら、読者が自分なりに推理してその予想が当たったり外れたりして、「読者の中での科学反応」が起こると、その作品は「面白い!」ということになりやすいってこと」
「はあ」
「見立て用語ってことでいうと「死海文書」ってのがある」
「聖書だっけ」
「ああ。本物の死海文書ってのは現在残ってる聖書に「含まれない」内容が書かれてる写本らしくって、これを研究することで現在のキリスト教そのものの認識が一変する可能性を秘めている…らしい」
「らしい?」
「エヴァがこの手のキリスト教、ユダヤ教あたりの用語を使いまくるもんだから一時期便乗した「知識本」めいたものが矢鱈と出版された。ただ、「本物」についての知識を幾ら貯め込んだとしても「エヴァ」そのものを読み解く役には全く立たんからな」
「どうして立たん?」
「それもこれもジャンク情報だからさ」
「またジャンクか」
「あくまでも劇中で使われてる「死海文書」ってのはエヴァの劇中において特定のギミックを指す固有名詞であって、本物とは何の関係も無い。そしてその「エヴァ版「死海文書」」にだって何の実態も無い」
「またそういうことを言う」
「当時目を吊り上げて夜通し「死海文書とは何か!?」を議論してた連中でも、劇場版で「裏死海文書」が(単語だけ)登場し、果ては新劇場版で「死海文書外典」なんてものまで出て来ると知ったらどう思うかね」
「…あの議論は何だったのかだな」
「ただ、あの時間とエネルギーを返せ!…とは思わんらしい。一回りして楽しい思い出なんだってさ」
「はあ」
「とはいえ、流石に年季の入ったエヴァファンともなるともう慣れてきて「破」に登場した「ネブカドネザルの鍵」なんて何の話題にもなってない」
「…あったっけ?」
「「Q」には影も形も出てこないからな。作ってる側も忘れてるよきっと。賭けてもいいが、最終作にも出てこないね」
「…いや、そんなことないだろ」
「つーか今更どうでもいいよ。1995年の年末…正にたかが30分も無いアニメにちょっとだけ登場したギミックに上へ下への大騒ぎをしていた影響力が懐かしいんだろうなあ…とは思う。あの当時に「ネブカドネザルの鍵」なんぞ出したとしたら、忽ち「ネブカドネザル」についての解説本が出て、本格的な考証が始まってただろう。何の意味も無いのに」
「あはは…はは…」
「話を戻すが、エヴァはパイロットへの衝撃を吸収するためにコクピットを液体で満たしてる」
「LCLだな」
「あれは映画「アビス」に出て来る深海作業用の酸素を溶かした液体がヒントだろ。もっともこっちは水圧対策だが」
「…これにも元ネタがあったのか」
「あるぞー。ちなみに声は空気を振動させて出すから、肺まで液体で満ちると声が出せなくなる」
「喋れないのか?」
「当たり前だ」
「じゃあどうすんだよ」
「腕に装着したキーボードでコミュニケーションを取るんだ」
「地味な映画になりそうだ」
「元の「アビス」は仲たがいしてた夫婦が、一方は声を出して喋れないから文字だけを遠隔操作で送ってくるので結構感動的な場面になってる」
「へえ」
「ちなみに「ターミネーター」「アバタ―」のジェームス・キャメロン監督な。観ての通りエヴァは「喋れない」設定をガン無視。その上衝撃吸収のためだっつってんのに衝撃を受けまくる」
「駄目じゃん」
「いや、いいんだ。これは「エントリープラグの中は子宮、中に羊水が満ちている」アングルがやりたいんだから科学考証なんぞどうでもいいのさ」
「アングル…」
「エヴァが母親ってのは企画段階からぶれてないらしい。そもそもエヴァというのは日本語だと「イブ」という発音で長く当てられてた人類最初の女性の名前だし」
「あ、そうなんだ」
「最近の聖書だと「アダムとエヴァ」と書いてあるらしい」
「へー」
「ちなみに「エヴァンゲリオン」というのは「福音」という意味」
「そうなのか」
「でもって、「電源コードを引きずって戦う」というダサ恰好悪い…様に見えるけど、このコードの名前が「アンビリカル・ケーブル」だよ?」
「意味は?」
「『へその緒』だ」
「あ…」
「こう言う風に幾らでも重層的に意味がかぶさってくる。いかにも意味ありげだ。一つの単語が二重三重に意味を持ち、お互いに補完し合い、何か別の物を象徴する。こうなってくると視聴者の脳内はもう「エヴァンゲリオン」で一杯だ。考えれば考えるほど考え甲斐があるんだから」
「…ヒットする訳だ」
「和製英語も極まれりの「ATフィールド」だけどな」
「ああ。一種のバリアみたいなもんだろ?」
「万能過ぎるんだよ。硝子みたいに砕けて割れたかと思うとビニールみたいに引き裂くこともできるし、ある時は壁みたいに立ちはだかり、かと思うと飛び道具みたいに飛んでくる」
「…万能なんじゃ」
「いや、「万能」というとほめ過ぎだ。回によって性質がバラバラなんだよ」
「…そうかな」
「これってエヴァンゲリオン内での「ミノフスキー粒子」だったんだと思うんだよ。異形の怪物である「使徒」にどうして通常兵器が全く効かないのか?それは「ATフィールド」があるからだ。じゃあどうしてエヴァンゲリオンならば使徒に勝てるのか?エヴァンゲリオンが自ら「ATフィールド」を展開でき、しかもATフィールド同士がぶつかり合うと無効化することが出来るからだ…ってわけ」
「はあ」
「ちなみにこの「仕組み」はちゃんと見ていれば飲み込めるけど、劇中でこうも分かりやすく解説されることは余り無い」
「これも無いんだ…」
「この位の難易度はあるってことだな。でもってこの「ATフィールド」が何故か「人の心の壁の象徴」ってことに「見立て」されることになった。エヴァのエピゴーネンアニメは沢山あるけど、その中の1つでも劇中のギミックを「重層的な意味」「ダブルミーニング」「見立て」にまで持って行けたか?」
「…余り無いか」
「そうさ。…試みは沢山あったがな。というかこの戦いでは決してエヴァには勝てない」
「何故だ」
「結局のところダブルミーニング(二重の意味)ったって、「人の心」「人間の根源」問題とそれ以外をダブらせる以外のダブルミーニングなんて意味が無いんだから」
「それは…」
「「ラーゼフォン」はかなり後になって放送されたアニメだけど、その時期に至ってすらアニメ界がエヴァの影響下から逃れていないんだなと愕然とさせられた」
「そうなのか」
「コミュニケーションを取ることが出来ない巨大で異形な敵…って設定だけでまんまエヴァだ。でもって、相手が何らかの方法でコミュニケーションを取ろうとしてるのかも?ってやり始めたらもうエヴァの後追いしか出来ない」
「それはエヴァ後にとっとこうぜ」
「そうだな。とにかく「見立て」が決まっただけでも見逃せないアニメってこと」
・ディティールが格好いい(第壱話、初号機、弐号機、参号機…)
「これは前にも似たようなことは書いたな」
「確かにゾクゾクするほど格好いいんだよなぁ…」
「この辺はまさしく「センス」だ。この「センス」ってそれこそ生まれつきのもので、後からどれだけ分析しようが勉強しようが決して追いつけないんだよ」
「…そうかも」
「エヴァの放送中に1995年冬コミが1回だけ開かれてるんだけど、会場中が全部エヴァ意匠だった。「ここに座らないで下さい」とか「立ち入り禁止区域」とかも、全部極太明朝で、しかもテレビシリーズのサブタイトル画面みたいにおかしなところで曲がってて、しかもひらがなの読み仮名も曲がってる」
「読み仮名?」
「ソフトでは省かれてるけど、これもテレビ東京と大モメにモメたポイントだよ。「子供も観るんだから、サブタイトルには読み仮名をふれ」と押し付けてくる局側と、「そんなダサいことは出来ん!」と一触即発まで行ったって話もある」
「…いかにもだな」
「結局折れてテレビ放送版にはひらがなが入ってる。当時の解説同人誌はテレビ画面キャプチャしたものを使ってる場合が多いからひらがなありバージョンが多いらしい」
「はあ」
「矢鱈に難しい漢字を態と使うセンスとかは「トップをねらえ!」の頃からあるんだけど、それが思う存分炸裂しまくってる」
「正に趣味のアニメだな」
「いい意味で子供に遊び道具与えた様なもんだ」
・敵の正体が不明で、得体がしれない感じ
「少し前に「いい勧善懲悪」の話をしたな」
「したな」
「あれも確かに大事だが、あれは「人間ドラマ」においてだ」
「…?」
「それこそ「リアルロボット」みたいに相手が人間だとすると、「勧善懲悪」は正しく使わないとたちまち「乗り越えるべきアンチテーゼ」「殺さずの誓い」に堕してしまう」
「そう…なんだろうな」
「『面白いフィクション』ということだけでいうと、「勧善懲悪」はその中の一種類に過ぎない」
「…一応聞いてやるよ。例えば?」
「映画ってのは「見世物」という側面がある」
「はあ」
「どうして世界各地で懲りもせんと「怪獣映画」や「恐怖映画」が作られ続け、下らんと馬鹿にされながらも決して滅びないのか?」
「…さあ」
「それは『恐怖』というのが、人間の根源的な精神活動のもっとも原始的なものだからだ」
「何だこの語りモードは」
「フィクションである以上、人間の最も原初的な欲望に訴えかけるのは全く持って正しい」
「原初的な欲望って何だよ」
「三大欲求はくう・ねる・やる。要は食欲・睡眠欲、そして性欲だ。つまりポルノだな」
「…あのさあ」
「ポルノ映画が洋の東西を問わず鉄板コンテンツなのは書くまでもないだろう。人類最古の職業を紹介する必要はないよな?」
「む~ん」
「人間の最も“動物的なところ”のツボをズボズボと刺激するんだからインスタントに売れるに決まってる」
「…エヴァの話してる?」
「これは一般論さ。ただ、多くの場合「ポルノ」ってのは「格調高く」はならない」
「そりゃそうだ」
「お芸術気取ったポルノもあるけどな、映画の魅力として「論理」よりも「本能」に訴えかける方が訴求力が出るってところはある。だからこそ「その時興奮するもの」にフォーカスした「映像作品」ってのはパワーがある。」
「一般論は分かったからもっと具体的な話をしてくれ」
「例えば「暴力ポルノ」だな」
「…それって乱暴に女を犯す…とかそういう話じゃないよな?」
「違う。この場合の「ポルノ」ってのは『本能にダイレクトに訴えかける安易な見世物』って意味だ」
「???」
「それこそアーノルド・シュワルツェネガーとかシルベスタ・スタローンとか、チャック・ノリスとかの映画だよ。筋肉ムキムキの男たちが悪いテロリストをぶち殺しまくる」
「…」
「こういうのが「暴力ポルノ」だ」
「ああ、「暴力」そのもので観客にアピールしてるってことか」
「そう。単に女の裸を出せば「ポルノ」ってことじゃない。「反権力ポルノ」ってのもあるぞ」
「何だそれ?」
「ある種類の人たちにとっては「権力にたてつく」ってのはそれだけでもある種の快感を齎すんだよ」
「はあ」
「刑事コロンボは移民の子で貧乏刑事だけど、大抵はセレブな犯人を追いつめて最後には逮捕するだろ?」
「うちのかみさんがねえ」
「映画「マトリックス」で警官を「体制側だ!」ってんでぶち殺すシーンが問題になったけど、「権力側」をぎゃふんと言わせる娯楽ってのは常に求められてる」
「そうかぁ?」
「遠山の金さんだって水戸黄門だって、自分たちだって体制側ではあるけど庶民の味方をして悪代官をぎゃふんと言わせてるじゃねえか」
「エヴァの話はどこに行った」
「そういう意味で言うと、エヴァは「ロボットポルノ」だと言える」
「…ロボット観るだけでハダカ観るより興奮する奴がいると」
「より正確に言えば「興奮ポルノ」だ」
「ポルノってのは興奮するものだろうが。論理が循環してるぞ」
「む~ん、というか「理屈は分からんが、自分たちが興奮するシチュエーションだけを抜き出してまとめた」って感じなんだよ」
「何だって?」
「ここのテーマもう一度提示するな」
・敵の正体が不明で、得体がしれない感じ
「これのどこがポルノなんだよ」
「「びっくり解説現象」についてはもう解説したな」
「ああ」
「あれの考え方の応用で、要するに人間は常に「スゲエもの」を観たがっていると言ってもいい」
「スゲエもの…か」
「ネットサーフィン…って言い方も古風だが…が好きで男の子だったら「ハンス・ウルリッヒ・ルーデル」とか「シモ・ヘイへ」とかの逸話を読んだことがあるだろ」
「…一応ある」
「どう思った?」
「いや、そりゃスゲエと思ったよ」
「当然だがここまで凄い例ってのはそうそうあるもんじゃない。しかし興奮する」
「まあな」
「ゴジラは普通に考えれば人類の敵だよ。だからそういう意味では毛嫌いしたり嫌悪されたりしても不思議じゃない。しかし、…実際の被害を受けた訳じゃないということもあるがどちらかというと愛されてる」
「そうだな」
「そこにはやっぱり「畏怖」がある」
「あるな」
「アメリカ人が分かってないのは日本人にとってゴジラ…に留まらず怪獣…ってのは「大自然の象徴」なのであって、そもそも人間ごときがどうにか出来るものじゃない…と感じてるってことだ」
「そういうところはあるな」
「だから歴代ゴジラ映画だと海岸線にずらりと並んだメーサー砲は勿論、どれだけ砲撃を仕掛けようがミサイルぶち当てようが全く効かない」
「傷一つ付かないな」
「当たり前だ。怪獣ってのは大自然の象徴だ。台風や大雨、津波や地震にいくら大砲打ち込んでも効果なんぞある訳が無い」
「あはは…これって使徒と…同じだよな」
「この「人間にはどうにもならない異形の脅威」を目の前にして人間が抱くのはやはり「畏れ」だろう。これはある種の絶望であり、ギリギリの「快感」でもある」
「…ちょっと分かるな」
「正にこれ!これこそが「怪獣ポルノ」なんだよ!」
「はあ」
「ただ、本能に訴えかけるそれだからどうしたって格調高くなんかならない。「禁じられた遊び」は映画賞の1つも取るだろうが、どれだけよく出来ていても「ゴジラ」が取ることはあるまい」
「…ないな」
「確かに特撮は映画に比べれば安っぽいかも知れないが、「ウルトラマン」はこの興奮を毎週味あわせてくれた。論理の面白さよりも本能の面白さに飛びつく子供が喜ばんことか」
「大人も喜んだけどな」
「ガンダム第一話を思い出してみてくれ。日常生活に飛び込んできた「ザク」は完全に「怪獣」として演出されてる」
「あ…」
「何がリアルだってんだ。そしてだからこそ最高なんだよ。このいい意味で「下品な魅力」をリアルロボットは分かってない」
「確かに脅威であり恐怖だな」
「ちなみに「全くコミュニケーションが取れない脅威が襲い掛かってくる」醍醐味ってのは「リアル」になればなるほど薄れる。当たり前だ。敵は論理も何も通じる「人間」なんだから。そこには「人間ドラマ」とかぬかすしゃらくさいものはあっても「未知の恐怖」なんか欠片も無い」
「あ…」
「ガンダムの4年後に放送された『銀河漂流バイファム』はリアルロボット系なんだけど、こと序盤…いや前半に渡ってアストロゲーターとは全くの没交渉。全く正体が分からない不気味な存在として描かれてる」
「へー」
「結局その魅力に気が付いてたってことなんだろう。軽い先祖がえりとも言えるか。後半はアストロゲーターも単なる「アニメ語」を話す登場人物たちになってしまう。これはこれで面白いけど、序盤の薄気味悪いゾクゾクするような魅力は無いなあ」
「そんなものかね」
「恐らくエヴァスタッフは、「怪獣ものの魅力」のルネッサンス(復興)が最も効果的であると分析の上導き出した訳じゃないだろう。それでも…それこそ『本能的』にこれが面白いということは知ってた。『何故か分からんけどこういうシチュエーションって興奮する』ってわけだ」
「何故か分からんけど…って、それじゃバカみたいじゃないか」
「ある意味バカだろ。最大級の褒め言葉としてのさ」
「いや、それにしても…」
「理屈も理論も分からないし、大人には相手にされないが、『何故か観ると心が躍る!』シチュエーションというのは確かに存在する。言ってみればそこを「恥ずかしげも無く、惜しげも無く」ずらりと並べたててみたアニメこそが「新世紀エヴァンゲリオン」な訳だ」
「…それが怪獣が襲ってくるシーンだったと」
「具体的に言うとこんな感じ」
・戦闘シーンでは重厚で格好いい音楽を流す(低音を効かせる)
「音楽って…」
「即物的に見えるだろうが物凄く大事。ぶっちゃけ音楽さえちゃんと鳴らしてれば名作に一歩近づくとすら言える」
「乱暴すぎるだろ」
「エヴァにあのBGMは欠かせない。そうだろ?」
・オペレーターが緊迫した表情で「格好良く聞こえる」専門用語を怒鳴る(例:強羅絶対防衛線を突破されました!)
「…これなあ…」
「オレって声優さんじゃないけど、もしも声優さんだったら死ぬまでに一度はやってみたいもん。オペレーター」
「何なんだよ」
「それこそオタク第1~2世代の人って、自分一人になったらこっそり「オペレーターごっこ」とかやったことある人はかなりの数に上るんじゃないかなあ」
「はあ…」
「あ、脳内に格好いい緊迫するBGMをガンガン鳴らすのを忘れない様に」
「…(ぼそっと)ネクラ…」
「ちなみに「マクロス」だとそのオペレーターの声がアイドルみたいな女の子だったりする訳で、それはそれで萌える!もとい燃える!」
「…そういう意味で“欲望に忠実”ってことになると「マクロス」の方がある意味近いのかもな」
・意味は良く分からんが、「何だか格好いい」用語を使う(例:汎用人型決戦兵器、ヤシマ作戦、人類補完計画、死海文書)
「こうやって文字だけ観るとマヌケな上悪意ある捻じ曲げみたいな感じだけど、演出がバッチリ決まればこんな格好いいもんないからな!」
「…まあ…」
「『決戦兵器』とか『最終防衛線』とか何だか分からんが興奮するもん。『超弩級空母』とか」
「子供だな…」
「ちなみに『空中戦艦「富嶽」』って幻の超大型爆撃機は計画そのものは実在したんだ」
「「空中戦艦」って…ネーミングセンスが「宇宙戦艦ヤマト」と同レベルだぞ」
「要するにそういうこと」
・人類が滅びそうなピンチに陥る
「もうここで触れちまうけど、アニメ放送前に配布されたパンフレットの中には「使徒は全33体」みたいなことが書いてあったものがあるらしい」
「…そうなの?」
「現物を持ってないから確認出来んけど、それ自体は重要じゃなくて、要するに「毎回やってくる怪獣をひたすら格好いいシチュエーションで撃退し続ける『だけ』の、ただただ格好いいアニメ」を模索していたんじゃないか?と思われる状況証拠があちこちにある」
「すまん、意味が分からんのだが」
「今でこそテレビ版最終回があんなことになり、劇場版では人類が絶滅し…なんてことになるアニメだってことが知れ渡ってるが、恐らくかなりの段階に至るまで「そこまでやるつもりはなかった」んじゃないかと」
「…?」
「ウルトラマンやウルトラセブンは一応の最終回はあるが、別に人類が絶滅の危機に陥ったりはしない。そりゃゼットンはムチャクチャに強くて、一度はウルトラマンが負けて当時の少年たちに衝撃を与えたりはしたが」
「はあ」
「ポイントは、それぞれの怪獣や宇宙人は個別にやってくるってこと。全員別の存在だ」
「…っ!」
「エヴァがその後のエヴァ系アニメとも一線を画すのが余りにもバラエティに富んだ敵怪獣にある。あれは「使徒」という存在の特殊性の演出と卓越したデザイナーによるものだと思われているが、元はそこも「ウルトラマン」的なイメージだったんじゃないか?」
「そうか…」
「エヴァはそこにも理由を付けようとした。一見してバラバラに襲ってくるかの様に見えるが、実は統一意思が存在していて…と言う具合にだ。バラバラなままだったら、適当なところで区切りをつけるしかないんだが、「諸悪の根源」が存在しているってことになってしまうと、「大元を絶つ!」方向に動かざるを得ない」
「し、しかしここのテーマは「人類の危機」なんだろ!?」
「うん。その点で言うと「宇宙戦艦ヤマト」っぽいわな。何しろ暗い世相とノストラダムス直前だ。はっきり言って日本人のストレスはマックスになりつつある。「もう、何もかもぶっ壊れてしまえ!」(せめてフィクションの中では)って雰囲気が濃厚だ」
「それじゃなにか?怪獣連中に統一設定を持たせようとしたからエヴァは最後ああなったって?」
「それもあると思う。だがそれより、「人類の危機を救う」ってアニメやるからには一度はやってみたいじゃない」
「…そうかな」
「少なくとも80年代はそういう空気だったらしい。今じゃ最初からそんな「大きな話」なんか目指してません!ってアニメばかりだろ?」
「例えば」
「「けいおん!」が世界の命運をかけて戦う展開にシフトすると思うか?」
「いや…」
「それどころか高校の部活なのに別の高校との対抗戦にすらならない。妙な話、趣味も嗜好も多様化してアニメなんかに全てを求めないんだ。しかし、かつてはアニメに全てを求めていた時代があった」
「全てをねえ…」
「『伝説巨神イデオン』は元々消防車や救急車の変形合体クルマがご近所に出動するアニメの予定だったらしい」
「…はいぃ!?」
「良くも悪くもオモチャ先行だからな。出来たんで、さあアニメ作ってください!ってなもんだ」
「そうだったのか…」
「ところが、富野監督は何を思ったか、オモチャを目の前にした企画会議の席上で突然、消防車や救急車の合体変形ロボットだっつってんのに『これは第六文明人の遺跡です』などと訳の分からんことを言い出した」
「…殿、ご乱心だな」
「結果としてあんなことになった訳だ」
「大惨事じゃねえか」
「日本のロボットアニメ史においては大偉業だと思うがな。ともあれ人間の根源的な感情は「恐怖」だよ。だから世界の危機にあたって立ち向かうことで奮い立たせたいわけだ」
「はあ」
「これが放課後にお茶したい…ってな「小さな話」じゃ「そんなもん観る意味があんのか」ってことになる」
「いや、所詮はアニメだろ。いくらアニメの中で世界が危機になろうが滅びようが、それこそ「そんなもんを観る意味」なんてあるのかって言い返すことは出来る」
「それは満ち足りた人間が言う言葉だ。少なくとも80年代においては「命が掛かってる」シチュエーションのそれこそが「観たい」し「観る価値がある」し「観る意味がある」それだったんだ」
「ああも次々にロボットアニメが作られ、どれもこれも人類の危機を救う話だったのはそういうことなのか…」
「そうさ。敵勢力は常に「地球侵略を企てる〇〇」「人類滅亡を企てる××」でなくてはならん。「何故戦うか!?」と言えば「戦わないと殺されるから」だよ。だから戦う。「Zガンダム」みたいな人間同士の派閥争いみたいなものは勘違いの産物だ。そんな薄い動機でロボットアニメなんぞ出来るもんか」
「勘違いって」
「リアルロボットが廃れ、そもそもロボットアニメも廃れた。80年代末から90年代初頭にはフィクションにおいて人類の危機は余り到来してなかったと言える」
「…平和だ」
「ところが人類はフィクションの世界で、再び滅亡の危機に引き戻されたんだ。一本のアニメによってな」
「…それが「新世紀エヴァンゲリオン」だってことか…」
「人間同士の争いじゃあ、所詮は滅亡の危機になんかならない。それを分析じゃなくて「オタクとしての嗅覚」で感じ取ってたんだ。でないと「スーパーロボット」時代どころか「ウルトラマン」にまで先祖がえりするもんかね」
「ふむ…」
「でもってこれだ」
・「とにかくなんか大変なことになってる」感じにする(例)BGMがクラシック)
「…何なんだよこれは」
「そのまんまだ」
「「とにかくなんか大変なこと」って表現が明らかに馬鹿にしてるだろうが!」
「そうかね?いい意味で軽薄でいいじゃないか」
「例えば」
「24話のカヲルくん操る弐号機と初号機のド付き合いなんかそうだわな。19話を終えての敗戦処理の最たる回だ。ぶっちゃけ何が起こってんだかサッパリわからん…というかカヲルくんの行動原理が全く分からん。ただ、「物凄く盛り上がる」のは確か。実に下品だ。論理もクソもない。ただ、最高だ。これがアニメだ」
「…(考え込んでいる)」
「かくも「新世紀エヴァンゲリオン」は前後の脈絡も何も無く、ただただ「大好物」な「燃えるシチュエーション」「盛り上がる展開」だけを数珠つなぎにして並べ立てたアニメだ。それも最高峰のオタクスキルを魂ごと全て叩き込んで。これが受けない訳が無い」
「褒めて…るよな?」
「もちろんだ。1回に収めようとしたがどうしても駄目だ。次のチャプターで後半も終わらせる」
*****
・とにかく情報を大量にぶち込む。意味はどうでもいいから(例)マルドゥック機関、ネオパン2000、ガフの部屋)
・よく聞いてないと分からん用語を絶妙に配置する(例)使徒、セカンドインパクト)
・ダブルミーニング、見立て用語を多用する(例)ATフィールドは人の心の壁の象徴、LCLは羊水)
・ディティールが格好いい(第壱話、初号機、弐号機、参号機…)
・敵の正体が不明で、得体がしれない感じ
・戦闘シーンでは重厚で格好いい音楽を流す(低音を効かせる)
・オペレーターが緊迫した表情で「格好良く聞こえる」専門用語を怒鳴る(例:強羅絶対防衛線を突破されました!)
・意味は良く分からんが、「何だか格好いい」用語を使う(例:汎用人型決戦兵器、ヤシマ作戦、人類補完計画、死海文書)
・人類が滅びそうなピンチに陥る
・「とにかくなんか大変なことになってる」感じにする(例)BGMがクラシック)
・感情移入できそうなキャラが機転を利かせて危機を突破する
・ちょっとシリアスもありよ(例)一見明るく見えるミサトやアスカも心の闇を抱えている)
・敵相手、そして味方相手にも「びっくり解説」をする(例)もうエヴァを止めることは出来ないわ!)
・誰か何かたくらんでいそうな雰囲気を出す(例)リツコ)
・「何もかも分かっている」風を装うキャラがにやりと意味深に笑う(例)ゲンドウ、カヲル)
・やっと判明したと思ったら次の新しい「謎」が提示される
*****




