アニメはいつから有料になったのか その7
「また随分メジャーなタイトル出して来たな」
「事実だから仕方が無い。我が国のアニメのありようを変えたのはエヴァこと『新世紀エヴァンゲリオン』だ」
「逃げちゃ駄目だってか?」
「その台詞は「サービスサービスぅ!」と並んでエヴァと言えば引用されるが案外登場してない。後半には全く出てこない」
「え?そうなの」
「ああ。ここで言いたいのは内容のことじゃないんだ。正にソフトじゃなくてハード面の話さ」
「ハードねえ」
「その前の大前提として、OAV史上…いや、もしかしたらこっちこそ日本アニメ史上で画期的な役割を果たした作品がある。これに触れないわけにはいかない」
「ほう、それは?」
「ずばり、『機動警察パトレイバー』だ」
「…これまた随分メジャータイトルだが…どの辺が画期的なんだ」
「まず、このアニメが真の意味でOAVであることが注目だ」
「え?でも確か漫画があるよな」
「それだ!」
「何だよ」
「実はあれは『原作漫画』ではなくて、「メディアミックス」の「漫画パート」なんだ。つまりアニメ本編と同時進行なので『原作』じゃない。敢えて言うなら「2001年宇宙の旅」の映画と小説の関係みたいなもんだ」
「逆に分かりにくいわい」
「パトレイバーの画期的なところは、その値段の安さだ。1話で4,800円」
「4,800円…」
「皮肉なことに、現在のアニメの2~3話入りよりも安くなってる。だが、当時のOAVや劇場アニメのソフトはVHSやLDでも1万円超が当たり前だったから、これはもう『価格破壊』に等しい」
「何を考えてそんな値段だったんだよ…」
「当時は日本映画でもセルソフトの値段は似たようなもんで、アニメだけが責められるべきじゃない。世界中に売れるハリウッド映画と値段で張り合えるわけがないんだ」
「まあいいや。それで?」
「この価格を実現するために、パトレイバースタッフは知恵を絞る必要があった。漫画版の開始もその一つだし、なんと本編に「CM」が入る」
「CM?広告だよな」
「そう。OAVのメリットを捨て去ってまで広告を入れた。ちなみにスタッフが全国各地を回っての顔出しイベントも行われてる。その意味でも先駆けだな」
「へー」
「それよりも何よりも最大の発見がある!」
「…何だよ」
「TVサイズだ」
「何だって?」
「要するにOP・ED込みの正味23分くらいにまとめたってこと!間にCMまで入れて。これが『コロンブスの卵』で、アニメノーベル賞クラスの大発見だったんだ!」
「力入ってるなあ」
「今じゃ黒歴史だが、当時のOAVは「テレビサイズに縛られない」のをいいことに作品の長さがバラッバラだった。60分だの85分だの45分だの…」
「へー…それはちょっと信じられん話だなあ」
「そうなんだよ。結局否定した筈の「テレビアニメ」フォーマットに落ち着いたんだ。これは「製作費を押さえて価格を抑える」ために「本編の時間を短くする」ための工夫として苦し紛れにひねり出したアイデアだったんだが、これが大変な事態を巻き起こすんだ」
「落ち着けよ」
「以降のOAVはほぼ全てこの「TVサイズ」で製作されることになる。名作OAV「トップをねらえ!」もそのフォーマットによって作られた傑作だ」
「へー…でも、この話それなりにアニメオタクだと思ってるオレでも初めて聞いたんだけど…有名な話じゃないのか?」
「だから歯がゆいんだよ!『機動警察パトレイバー』は傑作であることも勿論だが、こんな大功績があるのに不当に評価が低い!もっと評価されていい!アニメ業界から表彰するべきなんだ!」
「落ち着けって」
「…と、とにかくこの「TVサイズのOAV」が当たり前になったことで、新しい潮流が出て来る」
「何だ?」
「OAV企画のテレビアニメ化だよ」
「へ?だってそれは…」
「否定された流れのはずって言いたいんだろ?」
「ああ」
「確かにそうなんだ。実は「ダロス」は元はテレビアニメの企画だったが、マニアック過ぎるのでOAVに流れた。まあ、内容が問題無ければ最初に放送する媒体はどれでもいい訳なんだが」
「ふん…それで?」
「そして遂に「企画流れ」だの「流用」ではなくて、『純粋にOAVとして作られた』にも関わらず、紆余曲折を経て『そのまんまテレビで放送された』アニメが登場する」
「すげえな。何つーアニメだ?」
「その名を『無責任艦長タイラー』という」
「何となく聞いたことはあるけど…しかし、それがそんなに画期的なのか?」
「どうしてOAVとして作られたアニメがそのまんまテレビ放送出来ると思う?」
「それは…?あああああっ!」
「そう、「TVサイズ」で作られてるからだよ!」
(続く)