エヴァ編09 エヴァンゲリオン十七条憲法
・とにかく情報を大量にぶち込む。意味はどうでもいいから(例)マルドゥック機関、ネオパン2000、ガフの部屋)
「エヴァの魅力の一つに「謎」があるな。というか、今も一行で紹介される時には「多くの謎」が売りの1つみたいに言われることもある」
「まあな」
「当時の証言として、金曜日の夜ともなればオタク連中が大量に群つどって観賞会、朝まで議論…ってな具合だったらしい」
「ヒマなのか?」
「一応社会人であってもそこから週末だからな」
「つっても…」
「とにかく軽い描写一つとっても「何らかの意味がある」と言うことになってたから下手すりゃコマ送りで分析だよ」
「はあ」
「有名なOPの後半、畳み掛けるような情報の洪水だ。渚カヲルくんが既に登場してるのは有名だが、大人三人組の若いころだの、最も問題になりそうな「人類補完計画 第17次中間報告」が映る」
「出たよ「人類補完計画」」
「コードウェイナー・スミスの「人類補完機構」シリーズからの引用だろうな」
「こ、これもオリジナルじゃないのか…」
「だからそんなもん無いんだってば。で、舞台は2015年」
「今年なんだが…」
「そう、アニメ放送の20年後だ。ポイントは「17次中間報告」ってこと」
「つまり?」
「仮にこれが年次報告だとすると、「セカンドインパクト」が起こったのが1999年。つまり、セカンドインパクトの少し前に「人類補完計画」とやらが始まってるってこと」
「ちょっと待て。舞台は2015年でも、セカンドインパクトは1999年なんだよな?」
「そうそう」
「ということはつまり、アニメ放送の数年後に「セカンドインパクト」が起こるってこと?」
「正にそういう時代のアニメなんだよ。画面の外では阪神淡路大震災にオウム真理教地下鉄サリン事件、平成の大不況で世相は真っ暗だ」
「…あざといくらいのアニメだな」
「春エヴァ・夏エヴァ編でも触れるが、エヴァの最後の映画の公開と共に本当にこの世が終わる…くらいの気持ちだったらしい。当時のアニメファンは」
「…やれやれだぜ」
「改めて「ノストラダムスの正体はセカンドインパクトだった!」ってアニメだと思うと古さは感じるな」
「感じるなんてもんじゃねえよ!」
「2015年ってのも「ブレードランナー」の引用なんだろうな。ともあれ「情報」だ」
「情報…」
「無暗やたらに多い。全貌を掴もうとするだけで一苦労だ。だが、それだからこそのめり込み甲斐があったってこと」
「まあ…」
「ポイントは、情報の内容や統合性じゃなく「分量」が大事ってことだ」
「多ければ多いほどいいっての?」
「そうだ。ぶっちゃけ情報の内容なんぞジャンク(クズ)で一向に構わない。とにかく量!量なんだよ」
「…また大胆なことを…」
「ガンダム追随作たるリアルロボットアニメのブームが訪れた様に、エヴァに続けとばかりに大量にそっくりアニメが登場しはしたんだが、パクろうとしてパクれなかった要素も多い。この「情報量の多さ」はその最たるものだな」
「情報情報ってどんな情報だよ」
「大げさに言えば全てさ。第1話の時点ですら幾らでも指摘できる」
「言ってみろよ」
「ネルフマークの周囲に英文があるだろ」
「あるな」
「例えばああいうのだよ」
「…は?」
「聖書の一節だけど、いかにも意味ありげだ」
「まあ…そうだな」
「けど、別に何の意味も無い。典型的なジャンク(クズ)情報だ」
「…」
「これも証言になるが、オタク第2世代として、ありとあらゆるものをけなすオタク第1世代の洗礼を浴びてきた知人は、かの百戦錬磨のオタク仙人みたいな連中がどうしてこうも簡単にエヴァにコロコロと傾倒するのかが逆に分からなかったらしい」
「その人はハマらなかったのか?」
「オタク第2世代だからリアルタイム組なんだけど、トップに幻滅し、ナディアに煮え湯を飲まされてるからアンチガイナックスだったんだそうだ」
「でも、観てたんだよな?」
「周囲が全員観てたからつき合わされたんだと」
「結構気になってたんじゃないのか?」
「どうかな。少なくとも全部は分からんでも大量のオマージュがあることくらいは気が付いたから「ああ、相変わらずパクりまくってんな」と思ってたんだそうだ」
「ヒドい認識だ」
「うん。パクりじゃなくてオマージュだからな。ともかく当時のアニメファンに「アンチガイナックス」層がいたのは間違いない。熱烈なファンを持つってことはアンチも持つってことさ。名も知らない会社ならファンすらつかん。アンチなんて付く訳が無い」
「まあな」
「確かに当時はインターネットは無いが、同人市場はある。都会の真ん中に住んでれば週一は大げさでも月1くらいなら都内か近郊で同人誌即売会イベントはあるから、そこで「解説同人誌」が買えたんだそうだ」
「…そんなアニメ評読んだこと無いんだが」
「別に要らんだろこの情報。ともあれ、エヴァには「人の手によって作られた」情報が大量に散りばめられていた。こんなアニメはちょっと空前絶後なんだ」
「空前はともかく絶後って言い切って大丈夫か?」
「多分大丈夫だ」
「でも、確か「ガンダム」も情報過多のアニメだったよな?」
「確かにそうだ。だが、あれは「意図した情報過多」とは言い難い」
「この間までに聞いてた話と違うぞ」
「結果的に増えただけだと言ったろ?要するにエヴァより前のアニメってのは仮に情報量が多くてもそれは「煩雑になった」という以上の情報量って訳じゃない。「逆シャア」なんかは確かに多いんだが、あの情報を全部咀嚼出来ても「ストーリーを把握」する以上の意味は無い。「0083」にしても似たようなもんだ」
「「意図的な情報過多」の意味がまだ分からん」
「画面に映るモノ全てに何らかの意味があり、注意が行き届いてる。少なくとも序盤においては。今と同じ常識で考えてたら駄目だ。現在だとアニメ好きであることそのものにはそれ以上の意味なんかないだろ。だが、当時はまだ「観ること」そのものに覚悟と犠牲が必要とされた時代だ」
「はあ」
「要するにオタク第1世代にしてからが「ここまで本気で作ってる」アニメなんて観たことが無かった。だから感動したんだ」
「う~ん、良く分からんなあ。完成度が高い…って意味じゃないよな?」
「これはフィーリングに属するのかもしれん。オタク第1世代がアニメに相対する際にどうしても韜晦せざるを得なかったのは、やはり当時には「彼らの思いを受け止めきる」アニメが存在してなかったからなんだ」
「でも、馬鹿にしながらであってもどんなアニメでも面白がれるのがオタクなんだろ?」
「そうだな。確かにそういうところはある。「カードキャプターさくら」みたいに分かりやすいのは勿論、下手すると幼児向け販促アニメであってすら面白がれる」
「…オタクが…」
「ただ、そういうのは言ってみれば「余技」なんだよ。プロレスみたいに「自主的に騙されて楽しむ」様なもので、自分を偽ってたんだ」
「え?それじゃあオタク第1世代ってエヴァをプロレスじゃなくて「本当の格闘技」的に捉えて観てたってこと?」
「それ以上かもしれん。ガチの真剣勝負…って感じかな」
「エヴァが隅々まで手が掛かっててその…完成度が高いって話は分かるんだけど、他のアニメとの有為な差が分からん。もう「0083」みたいなガンダムはあるんだよな?「Vガンダム」だってある。「ラピュタ」も「紅豚」もある。何故エヴァなんだ?」
「…こう言っちゃ何だが「Vガンダム」ってやっぱりオタクが本気になるアニメじゃない。そりゃネタにはなるよ。「おかしいですよカテジナさん!」とか当時ですら使ってたっていうからな。けど、コマ送りで情報収集する必要があると言う情報量とは違うからな」
「そこのフィーリングが分からんのだよなあ…」
「エヴァが空前絶後の情報アニメであり、追随者がいない理由は簡単だ。あそこまで不誠実かつ無責任なことをするクリエイターがいないからさ」
「…またムチャ言いやがる」
「ただ単に煩雑になった情報と違って、「人の手によって作られた」情報というのは、逆に言えばそこに「明確な意図」がある訳だ」
「そりゃそうだ」
「情報というのを「謎」や「ヒント」と考えてみれば分かりやすい。要するにミステリの犯人当てみたいな感覚だ」
「ああミステリか!それなら分かる」
「犯人が最後まで明かされないのに、それらしきヒントだの証拠だの「だけ」が大量にあるミステリなんかあるもんか。だが、エヴァは正にそれをやった」
「あ…」
「今にして思えばそれらの情報には「意図」どころか「意味」すら無かったってわけ。受け取る側は「ここまで入り組んだ大量の情報があるなんて…一体どうやって決着を付けてくれるんだろう…」とドキドキわくわくしてたわけだ」
「あちゃー…」
「普通に考えれば回収できる伏線なんて5~6個ってところだ。それも細かく回収を繰り返して、一度に問題になるのはもっと少なく抑える。まともな理性があるならそうする」
「そうだな」
「アニメによってはそういう「伏線」なんて全く無いものだって大量にある。というか普通はそうだろ」
「まあな」
「ところが、エヴァはこの「謎解きの面白さ」をロボットアニメに持ち込んだ。これは新しい」
「ほう」
「問題は、どうして「謎解き」を持ち込まなくてはならなかったかで、それは従来は「そういうもの」として一顧だにされないはずの「基本設定(怪獣はどこから来るの?など)」にすら「実は意味がある」とやってしまったからだ」
「そう…だな」
「ミステリってのも奥深いジャンルでな。正に読者と作者の騙し合いだ」
「その様だ」
「作者はアンフェアにならないように「最低限推理することが可能である材料」を作中で提示しつつ慎重に物語を進め、最後に真相を明かす」
「うん」
「その時に『あ~気が付かなかった!騙された!』となれば作者の勝ちだ」
「まあな」
「確かにミステリってのは面白いが、インスタントな刺激の娯楽でもある。どれだけ読者を驚かせつつ感心、納得させるかのショーとも言える」
「だな」
「だから物凄く慎重な綱渡りが要求されるし、「意外な真相」とやらも直にネタ切れになる」
「すぐに?」
「ぶっちゃけ、もう「依頼人が犯人」「被害者が犯人」なんてのはありがちパターンの部類で「探偵が犯人」もとうの昔に登場してるらしい」
「へ、へー…」
「それだけに、綺麗にアクロバットが決まったミステリくらい面白いものは無い…らしい」
「らしい?」
「ミステリはアニメどころじゃない歴史と伝統があるからうかつなことは言えんので控え目にな」
「いいじゃねえか」
「別にミステリファンでなくても、ああも「思わせぶり」演出と「これみよがし」な情報の小出しがあったなら「こりゃ最後に真相の大暴露!」で驚かせてくれるんだな…と期待する」
「そりゃそうだ」
「だから余計に「綺麗に畳む」ためには情報を絞って行くしかない」
「ああ…そうなるか」
「これは誠実さの表れでもあるんだが、同時にこじんまりしてしまう」
「といってもなあ…」
「ミステリでない作品のミステリ的処理って余り探求されたことが無い演出ではあるが、「メロウリンク」なんかは見事に騙されたから、先例はある」
「へー」
「余りに衝撃的だったから今でも信じたくないけどな」
「それも凄いな」
「ともあれ、普通のアニメだったらたった1つでも全神経を逆立てて凝視しなくてはならん「謎」を1つどころかいきなり10も20も畳み掛けて来た」
「…っ!!!」
「まともなクリエイターなら「解決法を考えてない」謎を大量にばらまくなんて不誠実なことは出来ない」
「…」
「つまり、視聴者も「従来の常識」に盲目になって、信頼してしまったんだな」
「信頼?」
「きっと最後には納得の行く真相のからくりを解説してくれるもんだと。まさか「解決法を考えてない」謎を大量にばらまく…などという『絶対に、最も、死んでもやってはいけない』タブーを平気な顔してやってくるなんて夢にも思わない」
「…そういうことか」
「リアルタイム組でない視聴者はリアルタイム組の怒りが分からんことが多いんだけど、明らかに「真相の解明」とセットだという「暗黙の了解」のあるそれで引っ張って、吊っておきながら「何も説明せずに放り出す」のは不誠実の極みだ。「視聴者が勝手に(真相の解説があるものと)誤解した」などという申し開きが通用する訳が無い」
「そりゃ怒るわな」
「ミステリで言えば犯人はこいつかも?いやこいつか?…とやってて、突然物語がぶっつり終わるみたいなもんだ」
「ふざけんな」
「人の信頼を裏切ることは最もやってはいかんことだ。もっともアンチだった知人は「どうせガイナックスだからその内なんかやらかす」とは思ってたらしい」
「だった?」
「うん。この人も結局騙されて最終回付近ではのめりこんで観てたらしい」
「ご愁傷様です」
「1項目だけで1チャプター使い切ってしまった」
「いつ終わるんだこれ」
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・とにかく情報を大量にぶち込む。意味はどうでもいいから(例)マルドゥック機関、ネオパン2000、ガフの部屋)
・よく聞いてないと分からん用語を絶妙に配置する(例)使徒、セカンドインパクト)
・ダブルミーニング、見立て用語を多用する(例)ATフィールドは人の心の壁の象徴、LCLは羊水)
・ディティールが格好いい(第壱話、初号機、弐号機、参号機…)
・敵の正体が不明で、得体がしれない感じ
・戦闘シーンでは重厚で格好いい音楽を流す(低音を効かせる)
・オペレーターが緊迫した表情で「格好良く聞こえる」専門用語を怒鳴る(例:強羅絶対防衛線を突破されました!)
・意味は良く分からんが、「何だか格好いい」用語を使う(例:汎用人型決戦兵器、ヤシマ作戦、人類補完計画、死海文書)
・人類が滅びそうなピンチに陥る
・「とにかくなんか大変なことになってる」感じにする(例)BGMがクラシック)
・感情移入できそうなキャラが機転を利かせて危機を突破する
・ちょっとシリアスもありよ(例)一見明るく見えるミサトやアスカも心の闇を抱えている)
・敵相手、そして味方相手にも「びっくり解説」をする(例)もうエヴァを止めることは出来ないわ!)
・誰か何かたくらんでいそうな雰囲気を出す(例)リツコ)
・「何もかも分かっている」風を装うキャラがにやりと意味深に笑う(例)ゲンドウ、カヲル)
・やっと判明したと思ったら次の新しい「謎」が提示される
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