エヴァ編07 浅い分析
「新世紀エヴァンゲリオンに関しては本編よりも周辺状況の方がずっと面白い」
「アニメをゴシップ的に捉えるのはオタクの悪い癖だぞ」
「もちろん本編あってのことさ。それは当然だ」
「当たり前だ」
「まあ、豆知識以下だがざっくりと」
・1995年夏の「がいな祭り」にて第壱・弐話の先行上映が行われていた
「へー」
「極太明朝のフォントを畳み掛けたり、矢鱈に難しい漢字表記が多いこのド厨二病センスは90年代後半のアニメシーンを完全に染め上げることになる」
「この時点で一部のファンには存在が知れ渡った訳だ」
「といっても、同人市場はガッツリ存在してもインターネットが無い。その日の内にYoutubeに上げられたりツイッターで拡散する訳じゃないからな」
「情報伝達が遅いなこの時期は」
「ともあれ、変則前後編となる1・2話は完成していた訳だ」
・10月4日の放送開始時点で完成していたのは6話まで。素材完成、未編集だったのが8話まで
「話数表記は漢字が正式だけど煩雑なんで基本的にローマ数字で行う」
「…進行状況としてはどうなんだ?アニメとして」
「正直かなり危機的だろうな。この後にこれよりヒドい進行度合いのアニメなんぞ頻発はするんだが」
「それも凄い話だな」
「アニメは大体1話仕上げるのに最初から最後までで6週間かかる」
「6週間!?どうやって毎週放送するんだ?」
「そりゃ6班に分けてローテーションするんだよ」
「…大変だな」
「ああ大変だ。エヴァはかなり変速気味なんでたった1エピソードで4か月掛かったものもある」
「やりすぎだ」
「…そういう「アマチュアリズムのいいところ」ばかり出ていればいいんだがな」
・1996年1月3日、第14話放送
「これ、何か意味あるのか?」
「何とも言えん。普通は三が日にアニメなんぞ流さん。特別編成にする」
「そこはテレビ東京だから」
「といってもいつもの夕方6時半じゃなくて朝の8時に放送された」
「正月のか?」
「そう。この為に帰省を諦めたオタクなんてのもいたらしい」
「…予約録画しとけばいいだろうに」
「他から情報聞かされるのがイヤなんだよ。気持ちは分かる」
「はあ」
「ところがふたを開けてみるとなんと総集編だった」
「あーあーあー」
「ただ、とはいえこのエピソードの存在意義はかなり大きい。単なる総集編じゃなくて使徒の名前がずらずら紹介され、しかもイメージシーンみたいなのに延々ナレーションがかぶさる演出の先駆けとなった」
「あー、あのエヴァ独特の」
「実際に絵コンテが描かれたのは16話の方が先らしいんだがね」
「情報が細かいな」
「エヴァが最後ああなった原因は沢山あるが、「スケジュールの逼迫」も当然ある」
「まあ…そうかな」
「最終回の放送が1996年3月27日。綺麗に年度内に納まってる。歴史に「たら・れば」は禁物だが、もしもここで「総集編でっちあげてでも毎週放送」に拘らず、一週放送が延びていたらあの最終回も違ったものになったのかも?…と言う妄想は存在する」
「どうかな」
「この年ガイナックスは毎年恒例の新年会をしていない。それほど情勢は逼迫していた。東南アジアに仕上げを外注するのはどのアニメもそうだが、それでは足らず、太平洋一帯にばら撒いてどうにか間に合わせようとしていたんだ」
「…そうなんだ」
「以上が周辺情報だ。まあ、エヴァトリビアなら何でも有難がる人には面白いだろうが、それほど重要でもない」
「じゃあ何で紹介した」
「スケジュール的にいっぱいいっぱいだったことをさらっと紹介したくてな」
「しかしどうしてこんなに立て込んだんだ?」
「そりゃこだわりまくったからだよ。一切妥協せずにやるもんだから序盤のクオリティは凄いけど…と言うことになった訳で」
「駄目じゃねえか」
「流石にこれは弁解の余地が無い。まあトリビアに属することは話の流れに乗ればその都度紹介しようと思う」
「はあ」
・そもそも「新世紀エヴァンゲリオン」とはどういうアニメだったのか?
「これまで散々紹介した通り、リアルロボットアニメは90年代初頭にはほぼ壊滅状態となっていた」
「そうだな」
「散発的に意欲的な作品は散見されるが、世間的には明らかにアニメには逆風が吹いていた」
「冬の時代だ」
「そこに突然ロボットアニメの復権…に見える」
「違うのか?」
「リアルロボットの定義を繰り返そう」
リアルロボットの定義
・主役ロボットは工業製品であり、個人の発明家などによるものではなく企業や国家規模の団体による
・正義・悪の定義が必ずしも明確ではない
・敵は人間種族
・敵方にも意図があって行動している
・主人公たちは時には権謀術数、政治の駆け引きに振り回される
「まあ、こんなもんだ」
「対してスーパーロボットの定義」
スーパーロボットの定義
・血縁者(大抵は直系尊属)の作った巨大ロボットを子供が操る
・勧善懲悪
・敵は異文明・異星人などの「非・人間種族」(とはいっても日本語を話す)
・何故か日本だけ襲ってくる。もしくは主人公たちの行動範囲内で暴れる
・気合と根性、友情で勝利を掴む
「80年代の前半を席巻した『リアルロボット』という実験は明らかに失敗したと言わざるを得ない」
「…おもちゃは売れたがね」
「結局その後に続いてないからな。決定版だったはずの「Z」こそがその閉塞状況の体現者だった」
「…ああ」
「一言で言えば「リアルロボットはつまらん」から受けなかっただけだ」
「言い切るなよ」
「事実だろうが」
「じゃあ何でガンダムは受けた?」
「オレは『ガンダム=スーパーロボット説』だから何も矛盾しない」
「…といっても、ガンダム全体のトーンはそうじゃないよな?」
「そう、「スーパーロボットの面白さを最も効果的な形で魅せた」のがガンダムだった。その舞台が「リアル」だったってこと」
「…」
「ところが、後が続かない。オレに言わせれば「ガンダム」そのものが物凄く危なっかしいバランスの上にやっと成り立ってるものだから、形だけ真似しても面白くなんかなる訳が無い」
「じゃあ、エヴァは「ガンダムの面白さ」とやらを換骨奪胎して時代にアップデートしたものだってのか?」
「今までのアニメ評論だったら「そうだ」ってことで論を進めるんだろうな」
「違うのか」
「違うね。エヴァが時代を逆戻りしたのは「今更、(リアル)ロボットアニメ」どころか、「スーパーロボット」ですらない。更にその前に先祖がえりしてたんだ」
「更にその前?何だそれは」
「ウルトラマンだ」
「…何だって?」
「ウルトラマンだよ。『毎週やってくる怪獣を倒す』話なんだから」
「…それは…」
「もっと言えば「ゴジラ」でもいい」
「何を言ってんだ」
「エヴァは確かにアニメなんだが特撮リスペクトが濃い作品と言うのは分かるよな?」
「まあ…」
「これはエヴァの造形がそもそもウルトラマンのスーツに似てるとかそういう表面的なことを言ってるんじゃないからな。ちなみにエヴァが「猫背」なのは、ウルトラマンのスーツアクターさんが爆発エフェクトに腰が引けてるポーズを再現したものだ」
「…何をこだわってんだよ」
「そうかね?こういうのがオタク気質…オタク気質…ってもんだと思うが」
「…なるほど、確かにこの視点は抜けてたな。『特撮に影響を受けたアニメ』かぁ」
「これはガンダム以降のリアルロボットとも違うし、ましてやそれより前のスーパーロボットとも明らかに違うベクトルの作風だ」
「…エヴァの追随アニメも、エヴァの真似ばかりせずに特撮リスペクトをトレスすれば独自色が出たのかもな」
「今の話大事だぞ。何でもそうだが、自分の原体験をぶち込むのは物凄く大事。その意味では皮肉なことに「アニメ観てアニメ作った人が作ったアニメ」を観て育った様な世代でありながら「独自の原体験」を持ってたってことになる」
「独自の原体験ねえ…それが特撮だっての?」
「エヴァの元ネタになった作品という視点が無かった人は「実相寺アングル」とか「怪奇大作戦 京都売ります」とかで検索してみるといい。ボロボロ出てきて知らなかった人は幻滅出来ること請け合いだ」
「…こりゃ、「エヴァ」が「ガンダム」に似てない訳だ」
「別に特撮リスペクトをすればいいって訳じゃない。というかそれじゃマネだ。表面的な」
「じゃあどうすればいいんだ」
「さあ。ただ言えるのは、どれほど時代が下っても案外「独自の原体験」ってのはあるもんだってこと。それを別媒体に移し替えるに当たっては「解釈」とか「読み下し」がどうしたって必要になるから、独自性は出るわな。面白いかとかヒットするかは別だが」
「波とやらが3つしかないことを考えると簡単じゃないな」
「波としては残ってないが「時代と寝た」アニメである「超時空要塞マクロス」は80年代らしいラブコメ要素を持ち込んで成功した。成功した理由はメカが恰好いいとか、美樹本晴彦美少女が可愛いとか色々あるだろうけど、そこに込められていたオリジナリティが「嘘偽りなく作り手側の原体験だった」ってことも大きいだろう」
「…じゃあ、ガンダムの作り手側の原体験って何だよ」
「それ言わすか?それこそガンダムの研究本は唸るほどあるんだからそれ読んでくれ」
「まあいいけど」
「仕方ないから一つ一つ解説しよう」
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リアルロボットの定義
・主役ロボットは工業製品であり、個人の発明家などによるものではなく企業や国家規模の団体による
スーパーロボットの定義
・血縁者(大抵は直系尊属)の作った巨大ロボットを子供が操る
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「ちなみにアムロのパパ、テム・レイを演じるは清川元夢さん。冬月の中の人だ」
「中の人繋がりね…。ゲンドウはエヴァを作った訳じゃないから完全に同じではないけど、確かにガンダムとエヴァを比べるとどっちも「パパのロボット」ではあるな」
「オレに言わせればエヴァだって「パパの作ったロボット」の現代風の言い換えに過ぎんと思う。結局面白さってそういうもんなんだよ」
「第一話でいきなり乗せられるのも同じだな」
「この辺はリアルロボットも中々克服できなかったところだ。所詮科学技術の粋を結集して作られているのであろうロボットをいきなり子供が操縦して大活躍と言う時点でファンタジーなんだよ」
「そんなこと言ったらロボットアニメなんて出来ないぞ」
「出来なかない。ファンタジーだってことにすればいいだろ」
「それじゃあ大人が観られない」
「大人はロボットアニメとか観る必要ないの!人生を考えさせてくれるアカデミー作品賞かなんか観とけばんじゃねえの?」
「…」
「ついでに言っとくと、細かいアップデートは幾つもある」
「例えば?」
「ガンダムは結局15歳のアムロがいきなり熟練パイロットをしのぐ活躍が出来た理由として「ニュータイプ」をでっちあげた」
「でっちあげたって…」
「本当の理由は「主人公補正」なんだがね」
「おい!」
「ただ、「そこに何らかの理由が必要である」という問題意識が明らかにあるということには注目だ。何しろ以降の「リアルロボット」アニメはそんなこと基本的には気にしないんだから」
「で?」
「当然エヴァにもそれはある」
「何だよ」
「分からん」
「分からんって…」
「実際分からんのだから仕方が無い。ただ、「そこには何か深淵な理由が“実は”あるんですよ」とは散々にほのめかされる」
「にやりとするゲンドウとかか」
「そうだな。何故14歳でないといけないのか?という理由も遂に説明されなかった」
「確かあれじゃね?セカンドインパクト後に生まれた子供でないと駄目とか」
「全編見通してもそういう風には見えなかったがなあ…まあいい。とにかく「実は理由があるんです(本当は何も考えてないけど)」という演出はこれでもかと頻発する」
「…怒られるぞ」
「実際そうとしか言えんのだから仕方が無いだろ。ポイントは「巨大ロボットのパイロットが子供である(なければならない)理由」の設定の必要性を感じていたって問題意識だ。これがあると無いとではまるで違う」
「そういうもんかね」
「分かってると思うが褒めてるからな?」
リアルロボットの定義
・主役ロボットは工業製品であり、個人の発明家などによるものではなく企業や国家規模の団体による
・正義・悪の定義が必ずしも明確ではない
・敵は人間種族
・敵方にも意図があって行動している
・主人公たちは時には権謀術数、政治の駆け引きに振り回される
スーパーロボットの定義
・血縁者(大抵は直系尊属)の作った巨大ロボットを子供が操る
・勧善懲悪
・敵は異文明・異星人などの「非・人間種族」(とはいっても日本語を話す)
・何故か日本だけ襲ってくる。もしくは主人公たちの行動範囲内で暴れる
・気合と根性、友情で勝利を掴む




