日本アニメの神髄は「テレビ」である その7
「…すまん、良く聞こえなかったんだが」
「そうかよ。ならもう一度ハッキリ言ってやる。日本人は娯楽を作るのにそもそも向いてない」
「訳が分からんぞ。日本アニメの優位性はどうしたんだよ」
「もう少し正確に言うならば、「きちんと計算された娯楽エンターテインメントを割り切って作る」のに向いてないってことだ」
「誤魔化したのか」
「違う。お前、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」を観たことは?」
「何回も観た。最高の最高の最高だ」
「じゃあ、それと比べて「新世紀エヴァンゲリオン まごころを君に」(1997年)とはどっちが面白い?」
「いや…それは…」
「どうした?何故答えられん」
「お前の話は例えが極端すぎるんだよ」
「そうか?日本アニメの代表…それも「第三の波」、ここ二十年でも最大の話題作だぞ?選んで変なのを比較対象に持ってきた訳じゃない。どうして『極端』なんだよ。言ってくれや」
「…それはその…監督のプライベートな作品だからさぁ…」
「そこなんだって問題は」
「監督個人の趣味が出てるって話か?」
「別にそれは構わん。そうじゃなくて、「計算」が全く効いてないのが大問題なんだよ」
「「計算」って何だ?」
「BTTFは誰かと一緒に観に行ってたなら帰りどころか下手すりゃ一生語り草にする爽快感抜群の娯楽エンターテインメントだ。恐らくは「そういう映画にする」という目標があったはずだ」
「…そりゃそうだが…」
「いいか?映画を面白くするのは何も才能じゃない。一番大事なのは「構成」なんだ」
「「構成」?」
「こんなもん、その辺の脚本教室に行っても一時間目には教えて貰える「イロハのイ」だ。一番分かり易くて単純な例だけ挙げれば、最後にハッピーエンドにするにはどうしたらいいと思う?」
「へ?…そりゃ…ハッピーになるようにするんだよ」
「お前は最低の脚本家だな。少なくとも現時点では」
「じゃあどうするんだよ」
「ラストの方向性が決まってるんだったら、直前は逆にしてコントラストを付けるの!」
「つまり?」
「決まってる。ピンチにするんだ」
「あ…」
「或いは物凄く悲劇的な展開を予想させる。それこそ誰か死ぬとか」
「そうか…」
「ところが起死回生でピンチ脱出!死んだと思ってた人が実は生きてた!…ハッピーだろうが」
「…確かに」
「実際、BTTFもそうなってる」
「だな」
「逆にアンハッピーエンドも簡単だ」
「まさか…」
「ラスト直前をハッピーにするんだよ!」
「ぎゃー!やめてくれえぇぇぇええっ!」
「情熱的に結ばれた運命の人!だったのが暴漢にさされて無惨に殺されるとか」
「やめろおおおおっ!」
「…とまあ、これが「構成」だ。簡単だろ?」
「…そうだな」
「こんなもん、初歩の初歩だ。まだまだ沢山テクニックはある」
「(考え込んでいる)」
「日本のアニメ映画は、監督の個性と言えば聞こえはいいが、要するに適当に物語を繋いでいるだけで下手すると最終着地地点すら決めずにやってるだけだ。だから時間が来ればそこで終わる。しかも「シリアスなのがいい映画」だと思ってんのか知らんが、やたらに暗い。原作やテレビが明るかったりすればコントラストで更にどん底。最低だ」
「(考え込んでいる)」
「最後に「あー面白かった!」と観客に思ってもらおうと思えば、「そこから逆算して」全体の構成を考えるなんてのは金取って映画見せようと思うなら最低の義務だとオレは思うぞ」
「…(考え込んでいる)」
「これまでどれだけの「アニメ映画」観に行ってクソつまらない思いをして金ドブどころか時間ドブまでさせられて来たと思ってんだ。これは年季の入ったアニメファンなら幾らでも体験してる」
「おかしいじゃないか」
「ならどうして日本のアニメが世界でカルト人気を集める?ロクに構成も出来ん感情的な民族だというんならさ!」
「んなもん決まってる。日本アニメの本体が「テレビアニメ」だからだ」
「映画じゃないと」
「繰り返すが日本アニメの特徴は「お馴染みのキャラクターたちの心地よい世界でダラダラと長時間、長期間どっぷり浸る」という世界的に観ても非常に珍しいタイプの娯楽だ。だから他に類を見ない独特の魅力となってる」
「それで?映画がつまらん理由は?テレビが面白い理由は?」
「簡単だ。テレビアニメには「構成」がいらん」
「っ!!!!?!?!!」
「だらだら続くんだから、「構成」も「逆算」もいらん。だらだら続ければいい」
「そんな無茶な…」
「実際そうだろ?」
「いや…そんな無茶な分析があるかよ。決めつけも甚だしい」
「そうかね。だって「構成」ってのはつまり、キャラクターすらも「作品の構成要素」として配置するってことだぞ?「キャラクター中心」で「キャラクターあっての」特徴を持つ日本アニメにふさわしくないと思わんか?」
「あっ!!!」
「だから言ったろ。日本アニメの強みは「映画」ジャンルでは全く活きない。別に悪口じゃない。得手不得手の話だ」
「しかし、細田監督の映画やジブリ映画…ってそうだ!お前ジブリ映画についてすぐに語るようなこと言っときながらまだじゃねえか!」
「…すまん。次のテーマにするな。ただ一つこれだけは言わせてくれ」
「散々言いたい放題言っといてまだ何か言うのか」
「ああ言うね。偉そうで恐縮だけど、実際に金を払ってる消費者として言わせてもらう。キャラクターも結構だけども、もっともっと「映画単体」としてのトータルクオリティを上げて欲しい。純粋な娯楽として「工業製品」みたいに無味乾燥になっても構わんからそういうのを量産して欲しいんだ」
「何を言いだすかと思えば偉そうに…」
「何が問題だ」
「何がトータルクオリティだって。ちらほら意欲的な完全オリジナルのアニメ映画は公開されるが館内清掃かと思うほど客なんぞ入らんじゃないか。キャラクター映画にしか来ないオタク風情が偉そうに業界憂えてんじゃねえよ」
「細田監督の『時をかける少女』は恐ろしく限定公開だったのに口コミでじわじわと大ヒットを飛ばしたぞ」
「う…」
「何だかんだ言っても最後はトータルクオリティ、面白さだと思うね。それも「キャラクターを知らない一見さん」でも楽しめるそれさ」
「それはキャラクター中心の日本アニメの否定じゃないのか」
「オレは今「アニメ映画」の話をしてんだ」
「…そっか」
「ともあれ、現時点でとりあえず言いたいことは言い切った」
「ジブリ映画については?」
「今度こそテーマとして語ろう。出来たら細田映画も」
「あーそーかい。お前こそ話の構成しっかりやっとけよ」
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