オタクアニメが目指した地平とは? その2
「どこを目指すって何だよ」
「どうなれば満足かってこと。今のアニメファン、自称アニメオタクは好きな時間に自分が面白いと感じるアニメが観られればそれ以上を余り望まないんだろうけど、80年代当時のアニメオタクはそうじゃなかったみたいなんだ」
「つまりどういうことだよ」
「だからさ、この先アニメ業界がどう発展していくべきか…みたいなことを心あるアニメファンたちはかなり真面目に真剣に考えてたみたいなんだ」
「…そんなこと考えてどうするんだ?」
「この辺がゆとり世代だよな。そういう考え方ってオタク第一世代以前の特徴かもしれん」
「革命でも起こそうとしてたのかよ」
「全共闘世代ってか?実はオタク第一世代と呼ばれてる人たちの世代は全共闘世代…団塊の世代の少し下なんだ。「シラケ世代」と「オタク第一世代」はほぼぴったり重なる」
「シラケ世代って何だ?」
「ググれカス。ともかくガンダムの富野監督はアニメ映画をどうにかして一級の文化に引き上げんとする使命を熱く熱く新聞インタビューで語ってる」
「へー」
「目標はルーカスやスピルバーグであって、劇場を取り巻いてるオタクなんぞどうでもいいから一般人を引きこみたくて仕方が無い!みたいなことも言ってた」
「む~ん、オタクってそういう扱いをされがちだけどちょっとヒドいな」
「ちなみにエヴァの庵野監督も一時期はかなりヒドいオタクフォビア(オタク嫌悪症)だった。買い支えてたのはオタクなんだが…一部の声優さんとかオタク嫌いで有名な人は何人かいるけどな」
「まあ、どうせなら可愛い女の子にキャーキャー言われたいよな。臭くてダサくてムサイのにうぉーうぉー言われてもあんまり嬉しくないだろ」
「そう単純な問題でもない。要は「一般人」にアピールする普遍的なものにしたかったってことだろ」
「今じゃガンダムもエヴァも割とそんな感じじゃね?」
「確かにそうとも言えんことも無いが、今はそれは置いておく。目指してた地平でいうとこんな感じか」
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・日本人なら誰でも知ってるメジャータイトルになる
・老若男女誰でも観られて面白い
・大いに集客力、集金力のあるコンテンツである
…出来たらそれでいて、マニアックさは失わず、娯楽として最高に面白い
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「確かにこれは理想だけど…そんなことできるのかね」
「ポイントは最後のだ。そこまでやっておきながら「アニメっぽさを失わない」ってことだ」
「いや、無理だろ」
「アニメの波って「ヤマト」「ガンダム」「エヴァ」だろ?「ヤマト」はともかく、残りは何だ?アニメオタクが目指してた地平ってのは、日本人総オタク化計画なのか?」
「…そうなんじゃないの?」
「富野監督が凄いのは、『一般人にすり寄る』んじゃなくて、「オタクアニメを強引にその地位まで引き上げる」方向で志向したってことだ。後継者たる庵野秀明監督も全く同じ志向だ」
「ふむ…で?成功したのか」
「失敗した」
「随分ハッキリ言い切るな」
「日本人を全員オタクにするなんて無理だ。もしもそれに似たことが実現していたとするならどうしてこんなに普通の地上波からアニメが消える?」
「やっぱ無理なんだな」
「ただ…実はオタクアニメ業界が三十年以上思い焦がれつづけたこの偉業をいとも簡単に実現して見せたクリエイターが現にいちゃうんだよこれが…」
「…そんな人いたっけ?」
「いるね。主人公は女の子ばっかり、男がいても男女ペアかたまーにおっさん。メカに戦闘、巨大怪獣とスペクタクル、作ったアニメはどれも大大大大大ヒット!下手すりゃ株価まで左右する」
「?????」
「しかも下手すりゃ主人公は幼女!燃えるし萌えるし興奮するし、泣けるしハラハラドキドキする。破壊と殺戮!爆発!大冒険ロマン!それでいて全年齢対応!オタクアニメが欲しいと思ってる要素全部かそれ以上の作品ばかりつくってるクリエイターがいるんだって!」
「…まさか」
「その名を宮崎駿という」(敬称略)
(続く)