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ルシアスには、前世の記憶がある。思い出したきっかけは、とある執事の放った言葉でだった。
◆◇◆
「あぁっ!!その目!!良いぃっ!!」
ルシアスは、自分の目の前でクネクネと動いている執事の、メイソンを思わず子供ながらに気持ち悪いと、感じた。
そして、そこは子供。思った事を、口に出してしまった。
「メイ・・・きもちわるい」
舌足らずなその言葉を、聞いたメイソンはショックを受ける所かますます、喜んだ。目がうるうると潤み、形の良い唇からは「はぁはぁ」と変態チックな吐息、頬は真っ赤に染まっていた。
その姿を、客観的に彼を知らない人が見れば、色っぽく、官能的に見えるだろうが実際は、どんなに容姿が良くても、ただの変態。
メイソンは、すすすとルシアスの足下まで行くと、そのまま足に抱きついてきた。ルシアスはぎょっとし、足を引こうとするがメイソンの抱きつく力が強く、動けない。
「っ!?メイ、はなしてっ!!」
「あぁんっ!!ルシアス様、もっと。もっと!!『罵り』、『蔑み』、『見下して』下さいぃいっ!!」
その時、ルシアスは恐怖したと同時に、頭の中に鮮明に記憶が入ってきた。
『罵って!』『蔑んで!』『見下して!』という三拍子、前世の高校時代にもよく言われていた言葉だった。
そして、そうやって三拍子揃って言われると、前世の自分は癖で悪役王子を演じていた。そう、癖で。
「よくもまあ、そんなミジンコ以下のくせして、この私に抱きつけられるもんだね」
そこに居たのは、幼い王子のルシアスでは無く、悪役オーラー全開で冷たい声を出す、前世の光だった。
そして、軽くメイソンの手に足を乗せ、体重をかけた。
子供だと言っても、一点に体重を乗せられたら、痛い。それでも、メイソンは痛がる声を出す所か、「あぁんっ!!」と気持ちの悪い声で悶えている。
その気持ちの悪い声を聞いた瞬間、ルシアスはハッと我に返る。
しまった・・・!前世の癖で、悪役王子を演じてしまった!!
ルシアスは、目に見えて落ち込んでいく。そして、落ち込んでいくルシアスとは反対に、メイソンは喜んでいた。今も、グリグリと自身の手を踏んでいるルシアスの足に、頬を擦りつけている。
そして、その三拍子の言葉を言うと、ルシアスがメイソンの望む事をしてくれると学習した執事。
彼は、ルシアスと二人きりになるとその、魔法の言葉を唱えた。
一通り、ルシアスの悪役王子が出た後には、ゲッソリしているルシアスと、ツヤツヤになったメイソンが居た。
◆◇◆
ルシアスは、兄弟達に癒されていた途中で、前世の記憶が蘇ったきっかけを思い出した。
その事に、げっそりとする。
そんなルシアスに気づいた、シルビオはそっとルシアスの頭に腕を伸ばす。
「ルーも、頭なでなで?」
そう言いながら、シルビオはルシアスの頭をそっと撫でた。
その事に、ルシアスはキュンッとした。そしてはにかんで、シルビオにお礼を告げる。
お礼を告げられたシルビオは、照れてそっぽを向く。
その弟の様子に兄達は、目を細め、微笑んだ。
そこには、とてもほのぼのとした空気が流れていた。
彼らは知らない。王宮にいる執事や侍女達が彼らの姿に、興奮していたことを。一生、知りたくない出来事を、彼らは大きくなって知ることになるのかは、まだ、判らない。
王宮は、変態でいっぱい・・・。
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