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よくある行事で…よくある恋愛で…

よくある行事で…よくある恋愛で…(プロローグ)

作者: 吉田灯冶

あらすじにも書きましたが、これは分岐物になります。長編に近くはなりますが、分岐する時点で一つの話ではなくなるので、この作品では完結しません。ご注意ください。

 今日も一日暑くなりそうなぐらいにカーテンの隙間から入る日差しから逃げるように谷原蒼たにはら そうはベッドの上を転がりまくっていた。そんなところで部屋の温度から逃げ切れるわけでもなく、さっきから動きまくっているせいで涼しい箇所は全くない。

 同時に階段を駆け上る音が蒼の耳に入ってきた。

「またうるせーな、あいつは」

 それでなくても暑いのに余計に暑くなることを考えると嫌な気分にしかならない。

 でもちょうどいい目覚ましだと考えるとそれはそれでありなのだろう。

 蒼はゆっくり身体を起こすと同時に部屋の扉が勢いよく開いた。

「お兄ちゃん、おっはよー! あり、起きてたの?」

「暑いからな。嫌でも寝つきは悪いし、誰かさんがうるさい。つか、扉を軽く開けてから最後に蹴り開けるな。壊れたらどうする」

「んー、お父さんに頼んだらなんとかなるって!」

 そう元気に言っているのは妹のももである。蒼は見るたびに腰まである髪が邪魔にならないか、と思うのが前に聞いたら怒られたのでもう言わないことになっている。つり目も意外と特徴的であり、睨まれたら怖いときがあるのは秘密だ。

 そんな桃の一日の始まりの仕事はいつからか蒼を起こすことになっている。ただ起こすときはもうちょっと静かに起こしてほしいのだが、注意してもそれが直らない。正確に言うと戻す気がないと言った方がいいのかもしれない。

「親父は男以外に甘いからな」

「んで、朝飯は?」

「まだだから作って」

「はいはい、食パンでいいな」

「やだ」

「じゃあ自分で作れ」

 笑顔で不満を言う桃に蒼はそう言い切ると部屋を出て、一階に下りるとトースターのコンセントを挿す。そして食パンに先に塗るタイプのバターを一枚は薄く、もう一つはたっぷりに塗り、それをセット。食パンが焼けるまでにフライパンを温めつつ、油を投入。そして目玉焼きを作る。

 そうやっている間に桃が二つ分のコーヒーを入れる。

 蒼は最初から桃の分を作る気でやっている。

 これはもう蒼が中学に入ってから、ほぼ毎日やっていることなので慣れたようなものなのだ。

 さっきのやりとりも何十回とやってきているので、日課になってしまった。

 トースターを焼き上がると、それを桃が準備したお皿にそれぞれにトースターと半熟に仕上がった目玉焼きをのせれば朝食の完成である。

「いただきまーす」

「おう、いただきます」

 桃はその食パンに目玉焼きを重ね、そのまま半分に折り、かぶりつく。

 蒼は普通に別々に食べる。

「いつも思うけど、それって美味いのか? つか、黄身が垂れそうになってるぞ」

「うわわわ…ちょ、話しかけないでよ」

「垂れたのはそんな風にして食うからだ」

 蒼はそそくさと食い終わり、コーヒーを飲む。

 桃はこんな食べ方をしているせいでいつも少し時間がかかる。

「うー、お兄ちゃんの馬鹿」

「知るかよ」

「ご馳走様でした!」

「お粗末さま。口の周りに黄身付いてるぞ」

「は、歯磨きしてくるからいいの!」

 そう言って、桃は洗面台に走っていく。

 蒼はその様子を見ながら、ため息をつくしか出来なかった。

 さっきの食べ方は家でしかしない。むしろ他人の前ではそんなことは絶対にしない。女の子だから当たり前である。しかし家族の前では遠慮というものがなくなる。兄として蒼はそこが心配なのだが、そんなことを言えば怒る。だからこれも言えない。

 自分の分と桃の分を持ち、台所に行けば、それを洗い、自分も洗面台に向かう。

 すれ違うようにして桃は二階の自室に向かい着替えを始める。

 蒼も同じように歯磨き、顔を洗うなどを済まし、自室に向かい、制服に着替える。

「今日から学校なんだよな、めんどくせ」

 季節は八月の下旬。

 セミはうるさく鳴くし、昼間は太陽の軌道が近づいたんじゃないかと思うぐらいに今年の夏は本当に暑い。

 夏休みという概念はあるのだが、高校生にとって補習授業が午前中にある。それだけでものすごく夏休みじゃない感を出すのだから不思議なものだ。

『あー、もう靴下がないー』

「出た、いつもの名言」

 隣ではしばらく必要なかった学生用の靴下を探している桃の声が聞こえる。

 これも長期休暇での定番の一つでもあるため、蒼にとっては今日から気を引き締めないといけないと感じる瞬間でもある。

 そうは思いつつも桃に毎朝決まった時間に起こされるため、意外と眠くない。そればかりは感謝しないといけないな、と蒼は思う。口では言わないのだが…。

 着替え終わると蒼は玄関まで下り、靴を履いて待つことにした。

 その間にスマホでニュースを見る。

 あまり良いニュースがないなって見ていると、ドタバタと慌てて下りてくる音が聞こえる。

 さっきまではただ下ろしただけだった髪がサイドポニーテールになっている。学校にいく日はこの髪型が基本らしい。

「ごめん、お待たせ」

「慣れてるから問題ないけどな」

「それもそうだね」

 桃が靴を履いている間に扉を開けると、玄関のところに一人の女の子が立っていた。

 名前は中村葵なかむら あおい。隣の家に住む女の子だ。桃と違い、肩までのショートの髪型であり、軽くパーマをかけているのかふわっとなっている。桃が強気なタイプだとすると葵は少し弱気な感じだ。

 学校がある日はこうやっていつも蒼たちを待ち、一緒に登校するのも一つの日課になっている。

「葵、おはよ」

「葵ちゃん、おはよー」

「うん、そーちゃん、ももちゃん、おはよー」

「今日から学校って面倒だよねー」

「だねー。暑いし、汗で気持ち悪くなるし、最悪だよ」

 二人は蒼の前を歩きながら、ガールズトークをしている。

 いつものことなので蒼は気にしていない。むしろ自分は居なくてもいいような気分になることがあるのだが、二人がそれを許してくれないのだ。どうも一緒に行くことが当たり前になっていて、それを意味もなく破ると嫌らしいのだ。

「お前らって本当に姉妹みたいだよな」

「ずっと一緒にいるからねー」

「でもお兄ちゃんも兄妹だから安心して」

「それ、何のフォローだよ」

 実のところ蒼と桃も兄妹ではない。本来、桃は従妹いとこになるのだが、何があったか分からないが桃の両親が育児放棄をしてしまったので、蒼の両親が引き取ったのだ。あの時の桃は今ほど明るくもなく毎日泣いていた記憶しか蒼にはない。大好きだった両親から引き離されたのだから仕方ないといえば仕方ないのだが。

 それでも今ではこんな風に明るいのだから、何の問題もないのだろう。

「そーちゃん、何考えてるの?」

「どうせ、私たちの裸の妄想してんだよ。ナイスバディだし」

「……」

 桃が自分の身体で軽く芸能人ポーズを取り、それを聞いた葵は慌てて胸を隠す。

 蒼は何も言わない。

 確かに年齢を考えれば、他の生徒たちよりは大きい部類に入るのかもしれない。胸が好きなのは男の特権なので興味がないとは言わないけれど、ある程度ずっと一緒にいたら情のせいで興味なんてものはあまり湧かない。それを桃は分かっているから面倒なのだ。

「じゃあ俺にそれを拝ませてくれよ」

 桃と葵の後ろ、蒼からすれば目の前にいる人物が現れて早々、キモくそう言った。

 地毛がちょい栗色にちょい赤が強い髪色なため容姿がイケてる部類に入るのは間違いないのだが、反応がキモいのだから仕方ない。

 そいつの名前は赤井淳あかいじゅん

 自称未来の有名作家。

「お前は官能小説にでも妄想を走らせとけ」

「赤井先輩キモい」

「あーちゃん、私に近づかないで」

 三者三様の反応を示しながら、三人は赤井を追い抜く。

 むしろ三人とも全力で走った。

 それを見て、慌てて淳も三人のあとを追いかける。

 これは決してイジメではない。あんな奴と一緒にいると周りから変な目で見られるのが分かっているので逃げているのだ。

 しかしそれもすぐに追いつかれ、三人の中で葵が一番に捕まる。

 これも普段通り。

「あー、助けて、ももちゃん! ちょ、あーちゃん離してよ!」

「ちょ、赤井先輩、私の葵ちゃんを放せ!」

「離すわけないだろっ! こいつは既に俺のものだ!」

 悪役もどきでちょっとニヤついてる姿がすでにキモいことに淳は気付いていないのだろう。ジタバタ暴れる葵の闇雲なパンチや蹴りを交わしている。

 人質を取られ、身動きが取れない桃は悔しそうに歯軋りをしながら、様子を伺っていた。

 蒼はそんな三人を置いて、先に学校に向かうことにした。

 気付かれるとまた面倒なのでゆっくりフェードアウトしていく。

 淳の方向から蒼の姿は見えるはずなのだが、葵の闇雲な攻撃と隙を見せたらいつか襲い掛かってきそうな桃のおかげでバレずにその場から離れることに成功するのだった。

「ったく、朝っぱらから元気な奴らだ」

 周りには誰もいなくなり、静かにそう漏らす。

 景色は前期補習があった七月の下旬となんら代わりのない緑葉。並木道のおかげで多少の木陰が出来ているもののあまり効果はない。

 ただ久しぶりに通ると新鮮なものを蒼は感じた。

 ここは完全に通学路専用の道として出来ているので、学校に通うために通ることはない。約一ヶ月ぶりの道としてはなんとなく感慨深いものがある…、ような気がするだけだった。もう何年も変わらない道なのだから、懐かしいことなんて何もないかったのだ。

 なぜならば学校が視界に入ってきたからだ。

 家から学校までの距離なんて十五分ぐらいしかないのだから、感慨深くなる距離でもない。十分はあの三人のせいで時間がすぐ過ぎたのである。

 蒼の通う公立南風学園みなみかぜがくえんは小中高一環のエスカレーター式の学校である。全校生徒は約700人。多いところで一つの高校で300人を余裕で超すため、人口の割合としては少ない。むしろ近場にはこの学校しかなかったりする。

 十年くらい前には地域ごとに学校があったのだが、人口の低下により、学校が統合化したのだ。距離的な問題で小学生が親の送り迎えなどについての問題があったが、バスや電車の割引を県が扶助してくれることになったため、今ではこういう形でまとまり、当たり前となっている。

 そんな学園を今仕切っているのが校門の前で元気に挨拶をしている生徒会長である。

「「「おはようございまーす」」」

 生徒会長ほかに生徒会メンバーが数人を引き連れている。

 夏休みのために登校しているのは高校生しかいないが、それでも生徒会長という役員が人気があるのか、それとも彼女本人に人気があるのかは定かではないけれど、全員それなりにではあるが挨拶を返している。

「めんどくさっ」

 蒼は挨拶が面倒になり、そのまま無視して校門を通過することに決め込む。

 あの生徒会長に捕まると本当に面倒だからだ。

「おはようございます、谷原先輩」

「おはよう、蒼」

 親しいものから親しくないものまで、わざわざ個人名で挨拶してくる。まるでそう仕込まれたかのような感じだ。

 他の生徒からは呆れたような、ちょっと羨ましそうな視線が蒼に突き刺さる。

(いいなー、あんな風にちょっと呼ばれてー)

(生徒会長と親しくなりてー)

 そんな心の声が聞こえてくる。

 そう、原因はすべて生徒会長にあるのだ。

「おはよう、そーちゃん」

 わざわざ近寄ってきて挨拶してくる生徒会長は蒼の双子の姉である谷原美鳥たにはら みどりだ。生き物全部が他人を裏切らないということを知っているような屈託のない笑顔、そして桃と葵の中間をとったような胸ぐらいまでの髪にしている。

 今日みたいな学校の始まりや特別な用事がない限りは一緒に登校することを強制される原因の一つである。正直に言えば、桃や葵以上の強敵なのである。

 しかし今日の蒼は反抗心全開。

 そのままスルーして下駄箱へと歩を進める。

「おはようございます」

「……」

「そーちゃん、おはようは?」

「……」

「挨拶はどうしたのかな?」

「……」

「そかそか、また無視するつもりなのか。あとで先生にあることないK…」

「おはよう、生徒会長さん」

「名前」

「うい、おはよう、みーちゃん」

 美鳥は生徒会長という立場より姉の立場を優先させて、蒼に付いて来た。

 こうなることは蒼自身分かっていたのだが、いつまでもそんなことをするわけがないと思っていた。むしろ生徒会長という権限を利用して脅すな、と言いたかった。

 権限を利用すると言うのなら、美鳥と蒼は同じクラスである。本来ならば双子はお互いの成績を担任が比べないようにするためにクラスは別にされるのだが、風の噂では説得して同じクラスにしてもらったという話だ。確証はないのだが、蒼はきっとその通りだと思っている。

「んで、何か用?」

「朝ご飯、ちゃんと食べた?」

「食べたよ」

「なら、良かったー。本当は私が用意するつもりだったんだけど、少し寝坊しそうだったから出来なかったんだよね」

「…朝は俺にやらせるのが日課なくせによく言うぜ。じゃ教室行くわ」

「ダーメ、挨拶をちゃんとしなかったから一緒に挨拶」

 美鳥は満面の笑みを浮かべて、蒼の袖を掴むと無理矢理今いる場所から校門へと引きずり始める。

 抗うも何も周りの声が蒼には聞こえたために素直に引きずられた。

(ったく、ああやって無理矢理にでも引きずられてー)

(姉弟って関係良いよなー)

(生徒会長さまに乱暴したら許さないんだから)

 蒼は校門に着くと、周りからのそういう声を聞き流しながら、一緒に挨拶した。

 そう蒼にはちょっとした能力があった。よくゲームとかである魔法や超能力、特殊能力の類…、というわけではない。現実で本当にあるのか分からないが読心術の一つに入る。もちろんそれも全部正解という答えはない。あくまでそう考えているんじゃないかなっていう憶測の答えである。

 もちろん今回の生徒会長である美鳥と親しそうな蒼への嫉妬は簡単なものである。

 視線、唇の動きなど簡単に言えば身体全体の反応でなんとなく分かってしまうもの。

 誰でも持っているようなものが他人よりほんの少し受け取り方がリアルというだけのものなのだ。

「みーちゃん、罰としては酷すぎ」

「えー、いいじゃん。私だってこうやって早起きして頑張ってるんだから弟の好意で付き合ってよ」

「周りの視線が痛いだけ」

「それも含めて罰!」

 拒否権すらないようで美鳥は笑顔で挨拶していく。

 他のメンバーも美鳥の笑顔に釣られるのか笑顔で挨拶していく中、あの三人組もやっと校門にたどり着いたようだった。

 なぜか淳の制服だけ汚れている以外は何もなかったように。

 桃と葵は蒼と美鳥の姿を発見すると、駆け足で駆け寄ってきた。

「おはよう、お姉ちゃん」

「おはようございます、みーちゃん」

「うん、おはようございます」

「なんでそーちゃんもここにいるの?」

「つか、私たちを置いていかないでよ!」

 蒼が立っていることに不思議がる葵に比べ、桃は軽く拗ねているようだった。

 蒼が立っていることを美鳥が葵に説明している間に淳も校門にたどり着く。

「置いてくなよ、あの後酷かったんだぜ?」

「ふざけるお前が悪い。つかなんでそんな汚いんだよ」

「あー、それはな…」

 淳は話しながら、自らの制服の汚れを落とし始める。

 話を聞くとどうやら二人のコンビネーションにやられたらしい。

 闇雲に振っていた葵のパンチがアゴにまずヒット、 そこから思わず葵の襟から手を離した途端、葵が懇親の右ストレートは腹部に入れると同時に全力で走ってきた桃のドロップキックを受けて倒れる。そのまま二人に蹴られたらしい。

 しばらくして蒼がいないことに気付いた三人は急いで学校に向かうことにしたようだ。

「お前って馬鹿だな」

 きっと葵のパンチは偶然じゃないのだから。獲物を狩るトラのようなもので油断させておいて、隙を伺う。それと同じ原理を使い、アゴにヒットさせたのだろう。

「このハーレムがうるせーよ、俺もハーレム味わいたいんだよ」

「もう、赤井くんはいつまでもそんなことしてたら彼女出来ないよ?」

「じゃあ、美鳥ちゃんがなってくれよ」

「だめ、私にはそーちゃんいるし」

 美鳥は恥ずかしげもなく、蒼の手を握る。

 それを見ていた桃が蒼の反対の手を握る。

「お前ら何してんの?」

「「なんとなく」」

「兄妹で結婚なんて出来ないからな」

「じゃあ、私と結婚しよっか?」

 蒼の発言に葵がさらなる油を降り注ぐ。

 この状態では助かるものも助からないと悟った蒼は逃げることにした。

「原因の自称有名作家よ、俺の靴と上履きは頼んだ」

 それだけ言い残して、蒼は二人の腕を振り払い、全力疾走で下駄箱に向かった。

 追いかけようと三人はするけれど、所詮は女子なのだ。男の全力疾走に敵うはずもなく蒼は靴を下駄箱に脱ぎ捨てて、そのまま三年の教室に駆け込むのだった。

 教室にはすでにクラスメート全員と言ってもいいぐらいに集まっていた。

 中には小麦色に日焼けをした人もいれば、色が白い人もいるので千差万別だ。色が白いのは基本引きこもりでネトゲでもしているの分かる。

 むしろ蒼には今考えていることが分かっているので、苦笑いしか出来ない。

 そんな中、クラスで飼われているカメのカメ吉にエサをあげている人物がいた。周りには誰もおらず、ただ一人だけ異質な空気を出しているためか、誰も話しかけようとしない。

 蒼はカバンを机に置くと、彼女に近づく。

「今日もエサやりか?」

「誰もしてないみたいだからね」

「まぁー、この歳で生物係はやりたくだろうしな」

 佐藤恋さとう こいは蒼に顔すら向けずにそう答える。

 これもいつも通りなので蒼は気にしない。なぜだか分からないが、ビッチという噂が立っている。一年前までは明るい性格にだったはずだが、今では人目を気にするようになっていた。

 その噂のせいで誰も話しかけようとしないためか、誰かが話しかけると少し怯える感じに身体を気付かれないように振るわせる。

 さすがに蒼は普通に話しかけるためかそんな様子はない。

「つか、夏休みのエサはどうしてたんだろうな」

「私があげにきてた。先生もする気なかったみたいだし」

「真面目かよ!」

「生き物は大事にしなきゃね、上履きを履いてない谷原君」

 恋は軽く視線を下に向けていた。

 イジメにあっているのではないか、と少し不安そうな目をこちらに向けているようで動揺した目を蒼に向けていた。

 そんな目を向けられて、蒼は少したじろいだ。

 そもそも蒼は恋が少し話しづらくなったタイプだ。

 嫌いという感情ではなく、上記の能力がこの子には通用しなくなったからである。恋自身が本来の自分を隠しているような気がしてならないからだ。どっちかっていうと心配で気になるタイプ。お互いがそういうのに敏感なのだろう。

「おい、あお! 人に上履きを持ってこさせるな! 変な目で見られまくりじゃねーかよ!」

「お、サンキュー」

 タイミングよく入ってきた淳が蒼に向かって、上履きを投げる。

 近くに恋やカメ吉の水槽があることを気遣ってか、少し手前に。

「どういうこと?」

「どうもこうもない、いつもパターンだよ」

「ああ、谷原くんと姉妹たちのコントか…」

「コントをしてるつもりはないけどな」

 いつも見ているから分かっているようで不安になった自分が馬鹿みたいだと言いたげな表情で恋は蒼を軽く睨む。

 桃と同じく軽くツリ目気味なので、睨まれるだけで威圧感がある。

 そんな二人の会話に茶々を入れる淳。

 空気を読まないことに関しては一級品だ。

「蒼、なに口説いてんだよ。お前の周りには女の子がたくさんいるんだから少しは俺にも分け前を与えろ」

「死ね、尻軽」

 淳が近寄ってきた瞬間、恋は毒舌を吐いて自分の席へと向かう。こういうことが言える時点で淳のことも話しやすいこと一人であるのだが、淳はそれに気付いていない。

 気付いていない淳はさすがにショックを受けている様子だった。蒼はフォローする気にはなれなかった。自業自得以外なにものでもないからだ。

「この万年モテ期め」

「知るかよ、俺は別に兄妹とラブるような趣味はないし、そういう展開があったとしても本当に特別なことがあってだと思うぜ?」

「近親ものか、ちょい小説のネタにしよう」

「前からそれ言ってなかったっけ?」

 淳が小説を書き始めた時期は定かではないが、ことある毎にその発言を蒼は聞いている。だからこそ、淳はそのネタの小説をいつになったら書き終えれるのか気になってしまう。

「まぁ…近くに題材がありすぎて、展開がギャルゲーなみになるのが悩みなんだけどな」

「期待せずに待っててやろう。っとチャイムか」

 蒼がそういうと同時にチャイムが鳴り、立ち話をしていた生徒全員が席に着くのだった。



 補習も午前中だけなので、三時間分の授業はあっという間に終わり、残すはHRだけとなる。

 ただ蒼はこのHRは少し長引きそうな感じがしていた。

 それは高校になってから毎年あることだ。

「はい、それでは今年の仮装行列と体育祭について決めます」

「はぁ、今年も始まったかー」

「去年は体育祭の準備だったからなー」

 それぞれに何か言いながら、クラスメートたちは席に座る。

 担任の山梨は後ろに予備としてあるパイプイスに座り、教壇には美鳥が立つ。

 これは毎年ある行事の一つ。仮装行列というのはコスプレをして、ある区間を歩き、子供たちにアメなどを渡しながら、翌日ある体育祭のアピールをするというもの。二日間続けてあるので、仮装行列の準備と体育祭の準備で分担作業をしないといけなくなる。

 仮装行列の準備をするということは体育祭の競技はクラス全員が参加するもの以外は基本出来ない。それだけクラス全員分の準備をするのが大変なのだ。

「じゃあ十分間、周りの人と話し合って、決めてください」

 美鳥がそう言うと、仲のいいメンバー同士が集まり、話し始める。

 両方一長一短だから、悩んでしまうのも当たり前のことである。

「んで、お前はどっちにいくんだ?」

「あー、決められねーよ」

「やっぱりなー、でも最後ぐらいはっちゃけたいよな」

 机に両肘を付き、うんうんと悩み始める淳。

 教壇に立っていた美鳥も蒼のほうに寄ってきて、耳を立てていた。

「んで、みーちゃんは?」

「あー、私はどっちも参加かな? 生徒会長だから主は裏的な役割を考えると仮装行列になるかも…」

「へー、やっぱり両方参加か。例えば、どんなのがあるのさ、仕事は」

「んーと、仮装行列は主に学校で集めれるものの道具を集めたり、他のクラスとコスプレするものが重ならないような調整とか? クラスの創作の手伝いもするけど、それもなかなか出来なそうだから、サブリーダーを作る予定だね。体育祭も同じ感じで備品の調達、来賓者の名簿の確認や挨拶とか種目の監視とか…、うん基本当日のほうが多いかも」

 さすがにやることが多すぎるので、あまり分からないらしく、珍しく困った表情を見せている。

 淳もそれを聞いていたため、口をあんぐり開けている。

「おーい、佐藤さんは何するか決まってんの?」

「私は体育祭しか無理」

「なんで?」

「手先が器用じゃないから」

「なるほどね」

 それほど気にする必要もないと思う蒼だったが、淡々と言われると納得するしかなくなってしまう。

 その意見も参考にして、蒼も考える。

 と、言っても最初からある程度決まっていたのだが…。

「俺はもう決まったぜ。体育祭だな!」

「へー、理由は?」

「やっぱはっちゃけたいから!」

「ほう」

 淳は最初の自分の考えを優先させたようだった。

 むしろどっちにしようか悩むのが嫌になったかもしれない。なぜか清々しい顔をしている。

「ちっ」

 どうやら恋の方が嫌らしく、舌打ちしたのが聞こえたのだが、淳は気にしていないようだった。いや、聞こえていないのかも知れないけれど。

「じゃ、そろそろ時間だから! 出来れば一緒にしたいなー」

 美鳥が時計を確認し、小さくそう呟くと再び教壇に立ち、手を叩く。

「十分経ったので、用紙を配ります。そこに名前とどっちに行きたいか名前を書いてください。もし偏った場合はそのときは個人的に頼むかもしれないけど」

 美鳥が用紙を先頭の人に配りながら、ちょっと困ったように笑みを浮かべる。

 クラスの人数は偶数なので、ちょうど割り切れるのだが、どちらかに偏る可能性はある。もし偏ってしまった場合、間違いなく最初の犠牲になるのは蒼自身だということは目に見えているのだが、そんなことを考えるのも面倒なので今行きたいところを素直に書くことにした。

「じゃあ、一番後ろの人、回収お願いします」

 美鳥はそう言い、ちょっと不安そうな表情を浮かべている。

 再び回収された用紙を持ち、自分の席に座るもやはり浮かない顔を浮かべたままだ。さすがにこればかりは運に任せられているので、どうしようも出来ないはずなのに、こういうところで無駄に真剣なのだ。だからこそ頼まれた側はよっぽどのことがない限り断らない。いや、断ることが出来ない。それぞれの意見を主張してあげたいという気持ちが伝わるから。

 今時、こうやって他人のために必死になるから、みんなに好かれているのかもしれないと蒼は考えると自分の姉ながら恐ろしく感じるのであった。


-続く-

最後まで読んでいただきありがとうございます。

今回は主要になる人物の紹介と分岐するもの流れを書きたかったため、話がごちゃごちゃになっていると思います。申し訳ありません。

次回からは主要キャラが減っていくと思うので、読みやすくなると思いますので、よろしれば次の投稿する続きもお願いいたします。


脱字誤字などで読みにくいものがあれば申し訳ありません。

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