宇宙ウナギとサイキック地球人
どうやら宇宙ウナギには言語を扱う器官が存在しないらしい。対話を前提とした生物ではないのだ。
仕方ないのでテレパシーでのやり取りとなる。おそらく小さい生物に合わせて出力を絞ってくれているのだろう、宇宙クラゲたちが大挙してテレパシーを送ってきた時と比べれば頭への負担はないに等しい。
「僕たちはあなた方を珪素生命体、自分たちを有機生命体と呼んで区別しています。僕たち有機生命体は、要するにあなた方が捕食しているあの巨大な岩石球……惑星の表面で発生し、発達したものが多いようです」
嘘は言っていない。カイトは連邦市民の全てを知っているわけではないから、もしかすると統計的には地中で発生した生命の方が多いかもしれないが。
宇宙ウナギは少しだけ首を傾げたが、何となく納得したようだ。
――なるほど。あの岩石球に発生したのであれば、それほど小さい体なのも理解できます。それはそうと、少し離れていていただけますか。
「?」
――あそこにいる、金属生物。あれを殺害しなくてはなりません。
あそこにいる、金属生物。視線の先にはラディーア。宇宙ウナギは人工天体までも生物だと誤解している?
ゴロウとの笑い話の類として出た話がまさかの正解だったことに驚きつつ、カイトは慌ててそれを否定した。
「ま、待ってください。あれは僕と同じく、有機生命体が居住している作り物です。あなたの言うような生物とは違います」
――え?
「有機生命体は、本来生身でこの空間に生存することが出来ません。ですのでああいった船……じゃ分からないか、作り物の外殻で保護することで、この空間での生存を可能にしているんです」
宇宙ウナギは今度こそ混乱したようだった。
上下左右に首を振り、カイトに問いかけてくる。
――ですがカイト。君はこの空間で生存しているではないですか。
「ぼ、僕は特殊な訓練を受けているので」
言い訳としてはいささか苦しい。そういう風に体を改造しているので、と言ったほうが良かっただろうか。
「証拠を見せた方が良いでしょうか。エモーション、ラディーアに伝達。船の外で作業する装備をして、誰かをここに寄越すよう伝えてくれるかい」
『お言葉ですがキャプテン。その理由は』
「あー……こちらの宇宙ウナギさんに、ラディーアがそういう形をした金属生物ではなく、中に僕みたいな有機生物が居住していることを証明しないといけないんだ」
『先ほどから独り言をぶつぶつと言っていましたが、もしかして宇宙ウナギとコンタクトを取っていたのですか!?』
そういえばテレパシーでのやり取りだからか、宇宙ウナギとカイトの会話は聞こえないわけだ。これは後々までコミュニケーションに困る可能性が出てきた。何しろカイトにしか聞こえないとなると、証明の方法が乏しい。
「取り敢えず今の指示をラディーアに。あと、テラポラパネシオの方々に連絡して、誰かをこちらに寄越してくれって。思念伝達タイプのコミュニケーションしか出来ないタイプだと伝えれば分かってくれると思うんだ」
『分かりました、キャプテン』
こういうことでカイトが嘘をつくとは思っていないようで、エモーションが応じてくれる。
エモーションへの指示を出し終えて宇宙ウナギの方に視線を戻す。と、
――ところでカイト。宇宙ウナギというのは何でしょう。
おっと、テレパシーを切り忘れていた。
――あと、エモーションというのは? その殻の中に、まだ誰かいるのですか。
説明しなくてはならないことが次々に出てくる!
カイトは自分の迂闊さを、久々に怨んだ。
***
――説明をありがとう。つまり、我はこれまで、君たち有機生命体が乗っている殻を金属生物だと勘違いして攻撃していたということなのですね。
宇宙ウナギからの質問攻めをどうにか乗り切り、ラディーアからやってきた船のスタッフが生身であることを見せることで、ようやく互いの誤解は解けた……ように思えた。
カイトは平和裏にことが進みそうだと安堵しながら、最後に残っていた宇宙ウナギの呼び方の件について最後の説明を行う。
「ご理解いただけて何よりです。あと、宇宙ウナギというのはあなたのような生物の種族名が分からないので取り敢えず付けた仮の名前……呼び方のようなものです」
――名前、というのはありません。つまりカイトのカイトという呼び方のことですね? カイトは呼び方をどうやって自己規定したのですか。
「僕の場合は親……つまり、僕という個体を増やす努力をした個体ふたつによって名付けられました」
――よく分かりませんが、君たちが我を宇宙ウナギと規定したのでしたら、我は宇宙ウナギで構いませんよ。
はい、宇宙ウナギは本人公認の呼び方に昇格しました。
星喰の方が良かったかなと内心でゴロウに詫びつつ、次の話題に移る。
「僕たちがあなたと会話を試みた理由は、あなたの進路の先に存在する岩石球……惑星に、僕たちのような生物が繁殖しているからなんです」
――この先に? それは君の住んでいる岩石球なのですか。
「いいえ。まだこの空間のことも、自分たちの住んでいる惑星が球体であることもおそらく認識していない、幼い生物たちです。僕たちはこの空間を理解し、自らの惑星から外へと飛び出した個体の集まりですから」
宇宙ウナギは首をもたげて、ラディーアの向こうを見るようなそぶりを見せた。それだけの動きでナミビフ6が見える位置までずれるのだから、宇宙ウナギの大きさは本当に規格外だ。
この位置からでも表面が見えるらしく、宇宙ウナギはしばらくじっとナミビフ6の方を凝視していた。
――確かに、あの岩石球は表面に色々と付着しているようですね。君たちは我があれを食べないように求めているのですね?
「はい。可能ですか?」
――構いません。ですが、カイト。君の言葉を聞く限り、他の場所にも君たちのような有機生命が発生している岩石球があるのですよね。できれば食べても良い岩石球を教えてもらえると嬉しいのですが。
「もちろん、そう出来るように取り計らいます」
要望を出したのはこちらだ、そのくらいの便宜は図らねばならないだろう。だが、これから出会った宇宙ウナギの全てに同じことを求められた場合、連邦は宇宙ウナギ全ての食を賄えるだけの無人惑星を用意出来るだろうか。これは議会とも相談が必要な話だ。
と、宇宙ウナギがどことなく申し訳なさそうな雰囲気を見せる。いや、テレパシーの波長がそう感じられるだけで、宇宙ウナギの外見的にはまったく違いはないのだけれど。
――それは本当に助かります。ところで、君たち有機生命体は、個体で生活する種族ではないようですね。
「ええ。それぞれが寄り集まって、協力しながら生活していますよ」
――そうですか。それでは我は君たちの仲間を殺害してしまったのですね。とても申し訳ないことをしました。
なるほど、気に病んでいたのはそれか。
厳密には公社はカイトの仲間ではないのだが、その辺りの機微は宇宙ウナギに説明してもよく分からないだろう。取り敢えずはそれっぽい理屈を立てて慰めることにする。
「それは仕方のないことです。僕たちもあなたの同族を何体か殺傷していますから。こちらがあなたの同族を殺しておきながら、あなたが僕たちの仲間を殺したことを責めるのは間違っていると思います」
――同族? カイト、君たちは我と同じ姿をしたものと出会ったことがあるのですか!?
おっと、これまでで最も良い反応だ。
それはそうだろう。宇宙全体に散った同族の安否だ。知りたいと思う気持ちはカイトにも理解出来る。
何だか余計申し訳なくなったが、ここで嘘をつくのはもっと良くない。都合の悪いことでも、包み隠さず説明しなくては。
「はい。僕たちは、これまでに四度、あなたと同じ宇宙ウナギを発見しています。コミュニケーションを取ろうとしましたが失敗し、やむなくその全てを殺害したと聞いています」
――殺害!? カイト、君たちは我と同じ姿をしたものを、殺害したことがあるのですか!?
「はい」
どのような叱責、罵倒が飛ぶか。あるいは再度敵対されることまで覚悟する。
――それは素晴らしい! カイト、君たちの強さに我は敬意を表します!
「へぁ?」
なんでこう、とても嬉しそうなのでしょうか宇宙ウナギさん。




