本当にあったン年前の話2
あれはまだ、私が病院の健康診断部で働いていたときのこと。
電気を消すと昼間でも薄暗い部署で、私は毎日一人で黙々と仕事をこなしていた。
ある日、私は健診用の問診票を倉庫に取りに行った。
倉庫は健診部の事務室内にある。
倉庫のドアは上半分がガラスになっているため、事務室内と窓口がよく見えた。
倉庫の中には大量の棚と、そこに詰め込まれた段ボールが置いてある。
私はその中の一つから、目的のものを取り出し、事務室に戻ろうとした。
そのとき、事務室の受付窓口の外に、誰かの顔が見えた。
入院患者でも迷い込んで来たのだろうか。
そう思ったのだが、よく見ると違った。
窓口の外にいるのは、やたら大きな男の首だけだったのだ。
油断していた私は、ばっちりそいつと目が合ってしまった。
その男の顔は、明らかに普通の人間のものより大きい。
そして不自然なくらい高い位置に浮いている。
虚ろな目でじっとこちらを見ている様は、異様としか言えなかった。
私は恐怖よりも先に驚きが出たため、あまり恐いとは思わなかった。
それでもやはり、驚愕で冷静な判断ができなかったのだろう。
何故か、私はその男の首と、たっぷり数分間見つめ合ってしまったのだ。
さっさと逃げれば良かったのかもしれないが、何しろ倉庫の出口は事務室に繋がる目の前の扉一つのみ。
そして事務室の出口は、その男の首がいる窓口の両脇にしかなかったのだ。
逃げるに逃げられない状況の中、お互いをガン見する私と男の生首。
何とも異様な光景だったろう。
そんな中で、私はあることに気付いた。
男の顔が、やたら黄色いのだ。
そこに気付いてから、私は何度も自問自答を繰り返し、そしてとある結論に至った。
もう、それしか考えられなかった。
お前どんだけ蜜柑食ったんだ、と。
考えるだけでは飽き足らず、私はどうやら思い切り口走っていたらしい。
お前どんだけ蜜柑食ったねん! という私のツッコミの余韻が響く中、男の生首は悲しげに去っていった。
ツッコミで霊に勝利した瞬間であった。