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第9話:師匠の武器は、握力で作る

 地下倉庫の改造が進む中、ヒルダは一つだけ、騎士として寂しい思いを抱えていた。  それは、勇に一指で粉砕された「剣」のことだ。現在は代わりの練習用の木剣を帯びているが、王国最強を自負していた彼女にとって、腰元が軽いのは落ち着かない。


「……師匠、申し訳ありません。修行不足ゆえ、新しい剣を馴染ませるのに手間取っております」


 神輿の彫刻を削りながら、ヒルダがぽつりと漏らした。それを見た勇は、少し責任を感じていた。


「ヒルダ、あの時は悪かった。……お前の剣、俺が代わりのを作ってやるよ」


「えっ? 師匠が……鍛冶を?」


 セレナが横から口を挟む。 「ちょっと勇、鍛冶場なんてここにはないわよ? 火を焚いたら酸素がなくなって私たちが死んじゃうわ」


「火は使わない。……セレナ、リミッターを右手に集中させてくれ。ヒルダ、お前が持ってるその鉄の端材を全部こっちに」


 勇は、ダイヤモンドを作った時と同じ要領で、大量の鉄インゴットを両手に持った。  セレナが勇の腕に密着し、空間の歪みを必死に抑え込む。


「……いくぞ」


 勇が両手に渾身の力を込めた。  ギュゥゥゥ……ッ! という、金属が悲鳴を上げる音が地下室に充満する。  加熱はしていない。だが、勇の「12倍の密度」が繰り出す圧倒的な圧力は、鉄の分子同士の距離を強制的に縮め、常温のまま「圧縮成形」を開始した。


 勇の拳の間から、凄まじい熱気が漏れ出す。鉄は白熱し、勇の指の形に合わせて形を変えていく。


「な……信じられん。魔力も火も使わず、ただの握力だけで鉄を練り合わせるなど……!」


 ヒルダは目を見開いてその光景に釘付けになった。  やがて、勇がゆっくりと手を開くと、そこには一本の「短剣ナイフ」が鎮座していた。


 それは、通常の鉄よりも遥かに黒く、深い光沢を放っている。勇の密度に合わせて圧縮された結果、重さは通常の十倍以上、硬度は伝説の魔鉱石をも凌ぐ「超高密度・短剣」だ。


「……ほら、受け取れ。長剣は無理だけど、これならお前の技術でなんとか振り回せるだろ」


 ヒルダが震える手でその短剣を受け取った。


「――っ! 重い……だが、この吸い付くような重心。そしてこの刃……世界のあらゆる理を断ち切れる気がします」


 ヒルダは短剣を胸に抱き、涙を浮かべて勇に深く頭を下げた。


「一生の宝にいたします、師匠! この剣に誓って、貴殿の歩む道を切り開きましょう!」


「……ふん、良かったわね筋肉女騎士。でも、勇が一番最初に作ったのは、私のための『ダイヤモンドの指輪(の原石)』なんだからね! 勘違いしないでよ!」


 セレナが勝ち誇ったように胸を張るが、勇は苦笑いするしかない。  自分が生み出した「重すぎる贈り物」を大切そうに磨くヒルダを見て、勇は「自分もこの世界で誰かの役に立てる」という実感を、より一層強くするのであった

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