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第8話:女騎士ヒルダの「正しい」弟子のなり方

 地下倉庫の生活に、一人の「住人」が増えた。  王国最強の女騎士、ヒルダである。


「師匠! 本日の朝食であります! 師匠の強靭な肉体を維持するため、猪三頭分の赤身肉を燻製にして参りました!」


 ヒルダが巨大な肉の束を抱えて地下室に飛び込んでくる。勇はいつもの「不動の玉座(特注合金の椅子)」に座り、背中にセレナを背負ったまま苦笑いした。


「ヒルダ、気持ちは嬉しいけど……そんなに食えないよ。俺の身体は密度が高いだけで、胃袋の大きさは平均的な日本人なんだ」


「……そうでありますか!? 流石は師匠、小食をも極めておられるとは……! 己の肉体に甘える私とは格が違う!」


 ヒルダはキラキラした琥珀色の瞳で勇を見つめ、手帳に「師匠、小食の極致」とメモを取り始める。その様子を、勇の背中からセレナが面白くなさそうに眺めていた。


「ちょっと筋肉女騎士、朝からうるさいわよ。勇の食事管理は私の仕事なんだから、アンタは大人しく神輿の装飾でも手伝ってなさい」


「セレナ様、私は師匠の『弟子』であります。身の回りのお世話は弟子の特権! さあ師匠、まずはその……脚をお拭きいたします!」


 ヒルダが桶と布を持って、勇の足元に跪いた。


「おい、待てヒルダ! 危ないって――」


「案ずるな師匠! 昨日の手合わせで学びました。師匠の御身に触れるには、岩をも砕く私の握力を、紙一枚の厚さまで制御せねばならぬということを!」


 ヒルダは全神経を集中させ、勇の足首を「そっと」掴もうとした。  だが、勇の12倍の密度を持つ脚は、ただそこに「在る」だけで凄まじい反作用を生む。


「……っ!? な、なんだこの重圧は……。師匠の脚を支えようとするだけで、私の両腕が悲鳴を上げている……!」


「だから言っただろ。俺を支えるのは、セレナの神力による位相調整がないと無理なんだ。普通に触ろうとすれば、あんたの指の骨が負ける」


 勇が申し訳なさそうに言うと、ヒルダはさらに感動したように顔を紅潮させた。


「素晴らしい……! 触れるだけで修行になるとは! これこそが私の求めていた道! セレナ様、お願いだ。私にも、師匠のリミッターを手伝わせてくれ! 右足を私が、左足を貴女が支えるというのはどうだ!?」


「嫌よ! 勇のリミッターは私の一身に掛かってるんだから! アンタなんかが混ざったら、共振レゾナンスで街が消し飛ぶわよ!」


 地下室に響く、美女二人の罵り合い。  勇は、自分の両腕と背中に感じる賑やかさに溜息をついた。  一歩も動けない不自由な身体。だが、平均的なサラリーマン時代には想像もできなかったほど、今の彼の周りは「生きた熱量」で溢れていた。


「……さて。神輿の建造、今日は屋根の部分をやるか」


「「はい、師匠(勇)!!」」


 声だけは息ぴったりの二人に、勇は「やれやれ」と肩をすくめた。その拍子に床が少しひび割れたが、もはや誰も気に留めることはなかった。

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