第6話:地下の秘密と、招かれざる調査員
地下倉庫の改造は、もはや「内職」の域を超えていた。 勇が合金を捏ね、セレナが魔力を流し込む。二人の共同作業によって、四隅に豪奢な柱を備えた巨大な「神輿」の土台が完成しつつあった。
「ふぅ……。これで勇の『振動』を吸収するサスペンション機能は完璧よ。あとはこの上に豪華なソファを置けば……」 「セレナ、それより外が騒がしくないか?」
勇の超人的な感覚が、地上の異変を察知した。 普段は人通りの少ない地下倉庫の入り口付近で、数人の足音と、金属が擦れる音が聞こえる。
「まさか、バレた……!? 最近、勇が合金を叩くたびに、町中で『小さな地震が続く』って噂になってたのよね」
セレナが慌てて勇の背中にしがみつき、リミッターを最大にする。 その直後、地下倉庫の重い扉が、ギィ……と嫌な音を立てて開いた。
「おい、ここだ。この地下から妙な震動が聞こえるという通報があった」
入ってきたのは、町の自警団員たちだった。 彼らは松明を掲げ、倉庫の奥で「巨大な神輿」のようなものを前に、男女がぴったりと密着している奇妙な光景を見て、言葉を失った。
「な、なんだお前たちは! 密輸か? それとも禁じられた魔導実験か!?」
「あわわ、違うわよ! これは、その……ええい、勇、黙ってて!」 「おい、セレナ、あいつら抜剣してるぞ。危ないから俺が――」 「ダメよ! 貴方が指一本動かしただけで、この人たちミンチになっちゃうわ!」
セレナが必死に勇を抑え込む。 自警団員たちは、勇の「さわやかな一般人」然とした外見に油断したのか、威圧的に距離を詰めてきた。
「怪しい奴らめ。とりあえず署まで来てもらおうか。その女も離れろ、身体検査だ」
一人の団員が、セレナの腕を掴もうと手を伸ばした。 その瞬間。
「…………触るな」
勇がほんの少しだけ、怒りで肩を震わせた。 ただそれだけで、地下倉庫の空気が**「物理的に」**重くなった。 メキメキッ! と団員たちの足元の石畳が沈み込み、彼らは目に見えない巨人に押さえつけられたかのように、その場に膝をついた。
「ひっ、あ、圧が……!? なんだこの男、化け物か……っ!」
「待て、そこまでだ!」
倉庫の入り口から、鋭く、それでいて鈴を振るような凛とした声が響いた。 団員たちが「ヒ、ヒルダ団長!」と色めき立つ。
逆光の中、ゆっくりと歩み寄ってきたのは、艶やかな漆黒の髪を高い位置でポニーテールにした女性だった。 銀色の軽装鎧に身を包み、琥珀色の瞳で冷静に場を射抜くその姿は、まさに戦場を統べる女騎士そのもの。
ヒルダと呼ばれた彼女は、膝をつく部下たちを一瞥し、それから勇を凝視した。 彼女の視線が、勇の足元――ひび割れ、沈み込んだ石畳――に止まる。
「……ただの人間ではないな。これほどの重圧、城壁を背負っているのか?」
ヒルダが腰の剣に手をかける。 勇とヒルダの視線が交差する。平均的な日本人として生きてきた勇にとって、これほどまでに「鋭い」人間と対峙するのは初めてのことだった。
「団長、こいつらは危険です! すぐに捕縛を――」 「黙れ。貴様らではこの男の『一歩』にすら耐えられまい。……面白い。この町を騒がせている地震の正体、私が見極めてやろう」
ヒルダの好戦的な、だが敬意を孕んだ微笑。 こうして、二人の静かな地下生活に、王国最強の「物理」を理解しうる女騎士が介入することとなった。




